Sightsong

自縄自縛日記

朴重鎬『にっぽん村のヨプチョン』

2010-07-01 00:07:15 | 韓国・朝鮮

朴重鎬『にっぽん村のヨプチョン』(御茶の水書房、2003年)を読む。著者は在日コリアン作家であり、主に自身の育った室蘭を作品の舞台としている。そういえば、この本も札幌の古書店・書肆吉成で見つけた。

戦前、放蕩の弟を連れ戻すため、兄とその妻が朝鮮半島から北海道へと渡った。妻ジョンスクには、因習的な大家族から離れたい思いもあった。そこで働くことになってしまうが、ジョンスクの夫は戦争で死ぬ。常につきまとう極貧と差別。次男チャンホはその生活から逃れるため、東京の大学に出る。孤独に陰湿な差別を受け続けたチャンホは、同胞とつながることに喜びを見出し、やがて総聯系の組織で働くようになる。ジョンスクに挑み続ける過酷な巡り合わせは運命か、精神が蝕まれていく。

在日コリアン2世代の歴史を描き、ディテールのあまりのリアルさに圧倒される。1958年からの北朝鮮帰国事業や1965年の日韓基本条約といった社会的なマイルストーンだけではない。生きるための苛烈な労働、差別とその裏返しの密告、野蛮な子ども社会、そんなひとつひとつの迫真性が凄いのである。

●参照
菊池嘉晃『北朝鮮帰国事業』、50年近く前のピースの空箱と色褪せた写真
朴三石『海外コリアン』、カザフのコリアンに関するドキュメンタリー ラウレンティー・ソン『フルンゼ実験農場』『コレサラム』
野村進『コリアン世界の旅』
『世界』の「韓国併合100年」特集
尹健次『思想体験の交錯』
尹健次『思想体験の交錯』特集(2008年12月号)
李恢成『沈黙と海―北であれ南であれわが祖国Ⅰ―』
高崎宗司『検証 日朝検証』 猿芝居の防衛、政府の御用広報機関となったメディア
井上光晴『他国の死』