Sightsong

自縄自縛日記

イエメンの映像(1) ピエル・パオロ・パゾリーニ『アラビアンナイト』『サヌアの城壁』

2010-07-04 23:12:09 | 中東・アフリカ

ピエル・パオロ・パゾリーニについては、天才とか変態とかいった表現よりも、無限の業を背負った表現者であったと言うべきなのかもしれない。『アラビアンナイト』(1974年)もパゾリーニならではの奇怪な作品である。現在出ているDVDなどはどうなのか知らないが、随分前、あまりにも観たくて輸入版のVHSを購入したところ、モザイクも「フハフハ」(丸谷才一風)も皆無で、底なしのエロエロぶりに圧倒されてしまった。


パンフレットも探しだした

ちょうど、バートン版『千夜一夜物語』(角川文庫)を読み進めていたころで―――と言っても、まだ3巻くらいで抜け出したままなのだけど―――、映画に採用された物語をいくつも発見することができた。どこを切っても残酷で不条理極まる艶笑譚である。

映画はたった2時間強だが、それでも語りによる物語がハチャメチャに続いていく。従って要約は難しい(そのため、観るたびに忘れる)。映画に使われなかったフィルムと後述の『サヌアの城壁』を、以前にDVDで入手したのだが、これを観ると、やはり、落とさざるを得なかったであろうフッテージがあったことがわかる。このために、映画では不自然になってしまっている挿話があるのだ。こればかりは仕方がない。

また、いい加減にしろ、と言いたくなるような設定(>> たとえばこれ)も少なくない。もちろん、貶しているわけではない。じっとりと熱くてエロエロ、無敵の映画だ。今までに何度も観たが、子どもが寝静まっているとき限定で、今後も観てしまうことだろう。

見どころは、どうしようもないディテール描写だけでなく、イエメン、イラン(イスファハン?)、ネパール(カトマンドゥ)でのロケだ。イエメンとイランは近くであるかのように想定されているが、ネパールは、インドの王に浮気の罰として猿にされてしまった男が連れてこられる場所である。なかでもイエメンの時間が長く、サヌアザビード、あるいは近くの街の風景が映し出されている。イランにしてもパーレビ王朝時代、イラン革命前であったから、このような不届きな映画のロケが許可されたに違いない。

イエメンは近代化から取り残されてしまったような国であるから、私が訪れた1998年でも映画とさほど変わらない。とはいえ、王女の住処という設定のロック・パレス(かつてイマーム・ヤヒヤという王が住んでいた)の映像と写真を見比べてみると、荒野の中で何となく周辺がこざっぱりとしている(ような気がする)。また、パゾリーニは同時期、『サヌアの城壁』(1974年)という短いドキュメンタリーを作っており、そこに出てくるサヌアのバーバルヤマン門の周辺はやはりいかにも古い。


ロック・パレス(1998年) Pentax MZ-3、FA28mmF2.8、Provia 100、DP

『サヌアの城壁』は、ユネスコにサヌアの保護を訴えるためのフィルムのようで、イタリア語はまるで解らないが、「ユネスコ」という言葉が連呼される。映画の最初は、イエメン国内の道路工事が記録されている。昔から中国人が工事に従事していたため、中国風の墓がサヌア近郊には存在する。カメラはそれだけでなく、商店に並ぶ中国製の食品なども記録しているのが面白い。また、サヌアの古い街並みには威圧されるほかはなかったようで、ただ壁面や窓の漆喰のディテールを舐めるように追っている。


商店の缶詰(『サヌアの城壁』より)


サヌアの建物の漆喰(『サヌアの城壁』より)


買ってきた建物のおもちゃは、まだ大事に飾っている

●参照
イエメンとコーヒー
カート、イエメン、オリエンタリズム
イエメンにも子どもはいる