オランダの即興音楽家にして「コレクティーフ」のリーダーでもあった、ウィレム・ブロイカーが亡くなった。死因はまだ調べてもわからない。
来日したときに一度ライヴを聴いた。それまでレコードで聴いていたのと同様に、ブロイカーの吹くサックスの特色はこれだという納得は得られなかった。しかし、「コレクティーフ」の音楽をドライヴする演奏は過激で、アンサンブルが小休止する間もソプラノを吹き続ける姿に興奮させられた。それに加えて、ICPオーケストラなどとも共通する、笑いに軟弱に屈することのない演劇性が素晴らしかった。
2004年来日時に頂いたサイン
ブロイカーの演奏する映像は、ハン・ベニンク『Hazentijd』(ジェリー・デッカー、Data Images、2009年)の一部のフッテージを除いては持っていない。他には、デレク・ベイリーの演奏の聴客として座っている、『Playing for Friends on 5th Street』(ロバート・オヘア、Strawgold、2001年)があった。田中泯と共演した『Mountain Stage』などと並んで、ベイリーの数少ない映像のひとつである。ただし、ブロイカーは座っているだけだ。
ベイリーの即興演奏はいつだって素晴らしい。50分間ほどのソロの様子(もう村山富市のようだ)を観ていると、フレーズに拘って繰り出し続ける雰囲気を感じることができる。緊張感と余裕があい混ぜになって、目が(耳が)離せない。
ベイリーがギターの地道な練習を欠かさなかったことは、著書『インプロヴィゼーション』(工作舎、原著1980年)を読んでもよくわかることだが、まさにイディオムと即興演奏との関連性についても書かれている。これは教育にも関連していて、この映像の中でも、ベイリーは「私は60年代から活動しているが、演奏と、学習と、教育とを同時に行っていた」と話している。まさにその発言の途中、イディオム的なものとは対極にあるような変な音を出して、聴客を笑わせているのはお茶目である。
『インプロヴィゼーション』には、ハン・ベニンクが用いる即興演奏の教育方法を紹介しながら、即興演奏を教えるのは現役の即興演奏家でなければならないことを語っている。はっきりとまとめられてはいないが、イディオムの教育と同様に、プロセスの教育(しかも参加を通じての)が重要であることが強調されているようだ。実際のところ、コード進行に対峙するための各種のパターン、つまりイディオム、だけで習得することは無数にあるのであって(特に即興のソの字にも辿りつかなかった自分にはそう思える)、ここで書かれていることはとてつもなく高い次元にある。
●参照
○ウィレム・ブロイカーとレオ・キュイパースとのデュオ『・・・スーパースターズ』
○ハン・ベニンク『Hazentijd』(ウィレム・ブロイカー登場)
○デレク・ベイリーvs.サンプリング音源
○田中泯+デレク・ベイリー『Mountain Stage』
○トニー・ウィリアムス+デレク・ベイリー+ビル・ラズウェル『アルカーナ』
○デレク・ベイリー『Standards』