Sightsong

自縄自縛日記

平川宗隆『沖縄でなぜヤギが愛されるのか』

2010-07-17 09:01:28 | 沖縄

沖縄でヤギ料理が根付いていることは知ってはいるものの、那覇で1回と東京で1回、刺身を食べたことがあるだけだ。それはあっさりしたもので、よく聞かされる独特のニオイがどんなものか未だに知らない。スペインでヤギ乳のチーズを買ってきたが、それもまた別物。自分は食べ物に関しては保守的なのだ。

平川宗隆『沖縄でなぜヤギが愛されるのか』(ボーダー新書、2009年)を読んでわかるのは、東アジアから東南アジア、南アジアにかけて<ヤギ食い>がむしろ一般的な食文化であり、海を介したつながりが強い沖縄が<ヤギ食い>文化圏に入っていることは自然であることだ。

その沖縄のヤギにしても、白いヤギは新しい種類だという。在来種は黒や茶色の種であり、中東から中国、または東南アジアを経て伝来していた。そして昭和になるかならないかの頃、長野県から「日本ザーネン種」を導入した結果、主流が白になっている。家畜として身体の大きな種が好まれた結果であった。それでも、人口や観光客が多い本島では白の割合が高く、離島ではまだ在来種が比較的残っているらしい。

本書で紹介されている各国のヤギ料理は面白い。ベトナムの料理には、ヤギの動脈血に塩を入れて固め、その中に生肉を入れた強烈な<ニンビン>がある。血を使うのは珍しくないようで、沖縄にも固めた血を炒めた<チーイリチャー>があるというし、波照間島の(昔のやんばるでも)ヤギ汁は味噌と血を混ぜ合わせて味付けをしているという。

次に沖縄を訪れる際には、ぜひヤギを食わなければなるまい。

●参照
岡本太郎・東松照明 まなざしの向こう側(石垣島で生きた山羊を焼く)
平敷兼七『山羊の肺』
G.I.グルジェフ『注目すべき人々との出会い』(砂漠で山羊に砂を食べさせ、その山羊を食べ・・・)
アーヴィング・ペン『ダオメ』(レグバ神に生贄の山羊の血を塗る)
ロシア・ジャズ再考―セルゲイ・クリョーヒン特集(ステージで山羊の毛を刈る)


『弁護士 布施辰治』

2010-07-17 00:16:57 | 韓国・朝鮮

座・高円寺で、『弁護士 布施辰治』(池田博穂、2010年)を観る。完成したばかりの映画の有料試写会である。会場はほぼ満員に近い。上映前、監督が壇上に登り、布施辰治は田中正造のDNAを受け継いでいるのだ、と語った。

映画は、人権弁護士と簡単に一言で済ませられない凄絶な活動を追っている。朝鮮における1919年の三・一独立運動を受けた独立宣言とその弾圧。1923年、関東大震災の後のデマによる朝鮮人虐殺事件。1926年、天皇暗殺を企てたとするでっち上げの朴烈事件。1928年、日本共産党大量検挙の三・一五事件。国家権力による暴力に対し、布施辰治は弁護により抵抗する。

これらが、日本政府とメディアとが連携して起こし続けた国家テロだったことも浮かび上がってくる。ところで、アナーキスト朴烈だが、帰宅して調べてみると、事件による死刑判決、恩赦での無期懲役への減刑、情婦の獄中での自殺、反共主義への転向、韓国への帰国と李政権下での重用、朝鮮戦争での北朝鮮軍による虜囚、北朝鮮の南北平和委員会の副委員長など、劇的な生涯であり興味深い。

映画には姜尚中が登場し、このように語っている。大文字の「国家」や「国民」といった目線ではなく、一人一人の有りようを認識していた人物であった。あまり知られていないが、現在に通じる先駆的な存在であった、と。

●参照
布施柑治『ある弁護士の生涯―布施辰治―』