板橋文夫『うちちゅーめー お月さま』(アカバナー、1997年)が発表されたとき、ゴリゴリの板橋文夫がなぜ沖縄なのか、変化球ではないのかと奇妙な印象があった。ピアノとピアニカ、曲によって石垣の唄者、大工哲弘が参加する。
実際にこの盤を聴く前に、新宿ピットインで行われたライヴ(1997年?)に足を運んだ。大工節とでも言うべき独特の発声を行う大工哲弘の存在も、そのときにはじめて認識した。彼が唄い、板橋文夫が微妙(笑)に声を出す「生活の柄」に惹きこまれてしまった。山之口獏の詩に高田渡が曲を付けた唄であることはその後に知った。自分に知らない世界を見せてくれたという意味で、忘れられないライヴである。
そして板橋文夫のこの仕事は、変化球ではなかった。沖縄音楽が好きで入り込もうとしている姿が見えた。
この盤に収められている曲は定番ばかりだが、いつ聴いても新鮮で清々しい。「てぃんさぐの花」はピアノとピアニカのふたつの演奏があり、糸満の大度海岸で記録されたらしい(あの岩礁を前にピアノに向かう板橋文夫を想像するだけで嬉しくなる)。それに「月の美しゃ」、「生活の柄」、「えんどうの花」、「安里屋ユンタ」。
またこの人が、沖縄に向かわないかな。
●参照
○ユーラシアン・エコーズ、金石出(板橋文夫)
○本間健彦『高田渡と父・豊の「生活の柄」』、NHKの高田渡
○「生活の柄」を国歌にしよう
○山之口獏の石碑
○糸満のイノー、大度海岸