Sightsong

自縄自縛日記

リドリー・スコット『ロビン・フッド』 いい子のリチャードと悪がきジョン

2010-12-30 10:01:51 | ヨーロッパ

リドリー・スコット『ロビン・フッド』(2010年)を観る。12世紀、イギリスを留守にして十字軍だのフランスでの戦争だのに夢中になったリチャード獅子心王、その弟の出来が悪いジョン王。その時代の伝説となったロビンの物語である。

フランスとの闘いの場面は鳥瞰や矢の動き(CGか)など、そうとうオカネがかかっているようで迫力がある。主演のラッセル・クロウより、突然、ベルイマン映画のマックス・フォン・シドーが出てきて驚く。そして中世の浮かれた雰囲気は、舞台は異なるが、ケネス・ブラナー『から騒ぎ』で描かれたそれを思い出させてくれて愉しい。良い映画である。

しかし、リチャード獅子心王(Richard the Lion Heart)なんて、彼に限らないが(シャルル禿頭王とか)、あらためてヘンなセンスのネーミングだ。中学生のとき読んだ筒井康隆『虚構船団』においても、そんな名前の王が次々に出てきては殺され、去っていく歴史が構築されていた。このどうしようもない時間の流れ方は、ギボン『ローマ帝国衰亡史』を参考に描かれたと記憶しているが、ヘンな名前付けも面白がっていたに違いない。つい自分の名前も、「○○ the Coward」(○○卑怯王)とか、「○○ the Small Heart」(○○小心者王)とか名乗りたくなってしまうぞ。

ジョン・ファーマン『とびきり愉快なイギリス史』(ちくま文庫、原著1990年)という本がある。現題を『The Very Bloody History of Britain』といって、それならば素直に『とびきり血塗られたイギリス史』とでもした方がよかったかと思うのだが(だって、大英博物館を見物した人はみんなそう思うでしょう?)、まあ愉快なことに変わりはない。この第9章「いい子のリチャードと悪がきジョン」で、このふたりの王について書かれている。

それによれば、リチャードが殺された石弓は、自分がフランスに持ち込んだ武器だったそうである。ジョンについてはひどい書きっぷり。

「本当にいやな奴で、苦しんでる貧しい国民から金を絞りあげては贅沢三昧、フランスの領土を守るのにつぎ込むんだから。でも、マ、考えてみると王室ってみんなそんなもんだったかな。戦争っていうとまるきり下手で、負けてばっかり(「グニャ剣」って呼ばれていたのはちゃんと訳ありなんだ)。」

「ジョン王は、ひどい食べっぷりでも有名だったんだけど、実際1216年には自分で自分の命を喰い縮めてしまった。」

前者のダメダメぶりは映画でもうまく描かれているが、後者はない(余計か)。この時代には、十字軍が遠征先からナイフとフォークを持ちかえったり(1100年)、イギリスではじめてスパイスや胡椒が使われたり(1140年)、ジョン王がマグナ・カルタに判をつかせられたり(1215年)、と面白い話はいろいろあって、これも映画にはない(これも余計か)。しかし、マグナ・カルタへの流れはもう少し具体的にした方がよかった。自由憲章の約束とその反故はあるのだけど。