先週北京に行った際に、西単の大きな書店「西単図書大廈」に立ち寄って、写真集を物色した。前よりもデジタルのコーナーに押され、銀塩のスナップショット作品集はさほど増えていなかった。それでも、陸元敏(ルー・ユアンミン)の『胶片時代的上海/Film-aged Shanghai』(同済大学出版社、2009年)を見つけた。38元(500円弱)だった。
『上海人』を撮った陸元敏である。距離感が割に近い人物写真を情緒的に撮った作品群であり、『誰も知らなかった中国の写真家たち』(アサヒカメラ別冊、1994年)でも大きく紹介されている。『上海人』に、のちにLOMO LC-Aを使った作品があると書かれていたことが気になっていたのだが、この『胶片時代的上海/Film-aged Shanghai』はまさにそれだった。
四隅の光量が急速に落ちるトンネル効果、フィルムのパーフォレーションにまで露光されているいい加減さ、ハイライトのハレーション、なるほどこうなるのかと思う。中国製Luckyのフィルムを使っているようだが、かなり増感しているような粒子感だ。ロモによるノーファインダーでの瞬きは絶妙でもあるが、暴力的でもある。少なくとも『上海人』に見られたような、牛腸茂雄を思わせる霞がかった抒情性は消えてしまっている。
陸元敏のインタビューによると、1970年代は勤務先のシーガルのカメラが使われている。90年代に何かの賞でシーガル300を入手し、それに中古のミノルタの35mmレンズを装着していたとある。その後、収入も増えてきて、オリンパス、コンタックス、コニカヘキサー、リコーGR1、そしてLOMO LC-Aに辿り着いている。ロモを自由に使いこなした写真群かと思いきやそうでもなく、出来上がりが予測できないカメラであるから、1万枚以上撮って満足できたのは100枚程度、オカネの無駄遣いだったという。そんなこともあって、もうデジカメに移行し、フィルムに回帰するつもりはないようだ。あの抒情性が失われたのは勿体ないという気もするが、本人の好きな写真家はチェコのヨゼフ・スデクと森山大道だそうで、この都市に斬り込む粗粒子の暴力的な印画がむしろ特質なのかもしれない。
カメラを掴んで街に出て行きたくなる、いい写真集ではある。
好きな写真集『上海人』
●参照 中国の写真
○陸元敏『上海人』、王福春『火車上的中国人』、陳綿『茶舗』
○張祖道『江村紀事』、路濘『尋常』、解海?『希望』、姜健『档案的肖像』
○劉博智『南国細節』、蕭雲集『温州的活路』、呉正中『家在青島』
○楊延康、徐勇@北京798芸術区
○亜牛、ルー・シャンニ@北京798芸術区
○孫驥、蔣志@上海の莫干山路・M50
○邵文?、?楚、矯健、田野@上海OFOTO Gallery
○海原修平『消逝的老街』 パノラマの眼、90年代後半の上海