Sightsong

自縄自縛日記

安部ヨリミ『スフィンクスは笑う』

2012-04-13 00:07:31 | 思想・文学

安部公房の母、安部ヨリミによる唯一の長編小説『スフィンクスは笑う』(講談社文芸文庫、原著1924年)を読む。

愛する女性を親友に譲り、その親友の妹と結婚した男。その事実を知り、嫉妬と怒りに悩まされる妻。男の親友と結婚することができず、失恋の痛みに耐えられず自暴自棄になる女。現在ではあり得ないシチュエーション、小説の前半は退屈と言ってもよい。

安部公房の母という以上の価値はないのかと思いつつ読み進めていると、突然、話がデモーニッシュなものに急転回する。恋人に去られ、仕向けられた相手を愛することもできず、その女は何故か作家志望の男と北海道へと駆け落ちする。貧困と、都会の住民が理想を追って始めた農業の辛さ。そして、駆け落ち前にレイプされた義兄の子を産むや、相手の男は悪魔に変貌する。

唐突に読者を投げ出すように終わる後味の悪さは、安部公房「人魚伝」を思い出させてくれる。公房出産前に書かれ、出産後に刊行された作品である。その意味では、公房の双生児のような小説なのかもしれない。正直、驚いた。

●参照
安部公房『方舟さくら丸』再読
安部公房の写真集