Sightsong

自縄自縛日記

中原みすず『初恋』と塙幸成『初恋』

2012-04-22 02:24:05 | 関東

塙幸成『初恋』(2006年)は、覆面作家・中原みすずによる自伝的な小説『初恋』(新潮文庫、原著2002年)をもとにした映画である。

1968年12月10日、府中刑務所近くで、東芝社員のボーナス3億円を運ぶ日本信託銀行(当時)の自動車が、白バイ警官を装った者によって奪われる。この「三億円事件」の犯人は、いまだ明らかになっていない。作品は、その裏話であり、事実とも創作ともわからない。

新宿。ジャズ喫茶「B」には、自由を求める学生たちが、毎日、自分たちの場として集まっていた。その仲間には、叔父夫婦のもとで冷遇される少女も加わるようになる。やがて、少女は、仲間のひとりから事件の計画を告げられる。何と、少女に、白バイ警官になってほしいというのだった。

当時の新宿など、生まれてもいないわたしには知る由もないが、路地の佇まいや、ペトリカメラのネオンサインなどが泣かせる。ジャズ喫茶の雰囲気は映画と比べて果たしてどうであったのか、ただ、アート・ブレイキーのレコードが演奏中を示す棚に置かれているにも関わらず違う演奏であるのが惜しい。ともあれ、時代の雰囲気を含め、存外に面白い映画だった。

主演の宮﨑あおいは撮影当時20歳前後、高校生を演じていても不自然ではない。十分に魅力的なのだが、この後、女優としての成熟をとめてしまったのではないかという印象がある(=宮﨑あおいは原田知世になりそこねた説?)。

事件主犯の男は、奪った三億円を政府に送りつけることで権力を貶めようとするも、それは揉み消されてしまう。小説では、それがよくわからない話として描かれているのに対し、映画では、それに気付いた政府が男を脅し、国外へと追放する陰謀論的なつくりになっている。回想としての小説では知りえないエピソードを、映画では付け加えたということになる。どちらにせよ、反権力の意志により突き動かされた事件だとすれば面白い。少なくとも、宮﨑あおいは、中原みすず本人に会い、事実であると感じたという。