ジャン・ルノワール『自由への闘い』(1943年)は、ルノワールが米国に亡命していたときの作品のひとつである。
ヨーロッパのとある国。ナチス・ドイツに占領され、為政者はドイツにおもねり、協力者のみが生き延びていける状況。息苦しい、密告社会である。その理屈は、抵抗するよりも、支配権力に寄り添って、自らの安全や社会の安定を得たほうが現実的だというものだった。しかし、抵抗する者はいた。抵抗が人間の権利だとして。
明らかに、ルノワールは、ナチス・ドイツに協力した母国フランスのヴィシー政権を意識したのだろう。ヴィシー政権下ではユダヤ人が抑圧されたが、映画でも、小学校でユダヤ人の少年をみんなで寄ってたかって虐めるシーンがある。まさに、映画でのハイライトたるチャールズ・ロートンの演説にあるように、「敵は各自の心にある」のであった。
プロパガンダ映画だとも言うことができるかもしれないが、組織的なアピールではなく、異国にあってルノワールが希求する祖国奪還を直接的に訴えた映画なのだと考えるべきなのだろう。
それにしても、チャールズ・ロートンは癖があって良い俳優である。ビリー・ワイルダー『情婦』では、法を武器として闘う弁護士を演じたのだったが、ここでは、逆に、法の精神のもと弁論を許された被告を演じているのが興味深い。
●参照
○ジャン・ルノワール『浜辺の女』