インパルス時代のキース・ジャレットは「アメリカン・カルテット」を組んでいる。のちに、ピアノトリオ「スタンダーズ」でマンネリ地獄に陥ったように思える自分にとっては、少し「いかがわしい」キースのほうが好きなのだ。
パートナーのドラムスは、「寸止め」のようなストレスを感じさせるジャック・デジョネットよりも、柔軟に伸び縮みするポール・モチアンのほうが好みであるし、チャーリー・ヘイデンの暗く深い沼のようなベースもまた好みである。何と言っても、デューイ・レッドマンのサックス。
Keith Jarrett (p, etc.)
Dewey Redman (ts, etc.)
Charlie Haden (b)
Paul Motian (ds)
Guilherme Franco (per)
『MYSTERIES / the impulse years 1975-1976』というボックスセットには、『Shades』(1975年)、『Mysteries』(1975年)、『Byablue』(1976年)、『Bop-be』(1976年)の4枚が収録されている。タイトル通り、1975-76年の作品である。
最後の1枚だけにギレルミ・フランコのパーカッションが参加している意外は、がっちりと、4人の「アメリカン・カルテット」が演奏している。ただ、雰囲気はそれぞれ異なる。
特に、『Byablue』は、ほとんどポール・モチアンの曲をフィーチャーしているためか、「泣き」の曲想が多い。これが聴くたびに堪らない。
それを除き、ほとんどを占めるキースの曲は、泣きから悦びに転じるようなものが、かなりある。雰囲気としては、フォークであり、フラワー・ムーブメントである。このことは、キースが最初期にチャールス・ロイドのグループに参加していたことと無縁でないに違いない。
これらよりも前に吹き込まれた『Death and Flower』 (Impulse!、1974年)は、4枚のどれにも似ていない、言ってみれば異色作である。日本盤には『生と死の幻想』という奇妙なタイトルがつけられている。
Keith Jarrett (p, etc.)
Dewey Redman (ts, etc.)
Charlie Haden (b)
Paul Motian (ds)
Guilherme Franco (per)
目玉はA面を使った長尺のタイトル曲。 もうやり過ぎというほど抒情的で、何度聴いても、黙って聴き惚れてしまう。
どのプレイヤーも素晴らしいのだが、やはりMVPはデューイ・レッドマンの音色である。彼の何が良いのか説明が難しく、「味」としか言えないのだが、エッジが丸く微妙なニュアンスを付ける音はやはり独自のものだった。彼が2006年に亡くなったときは、いちファンとして悲しかった。
●参照
○70年代のキース・ジャレットの映像
○ピーター・ブルック『注目すべき人々との出会い』、クリストのドキュ、キース・ジャレットのグルジェフ集
○鈴木志郎康『隠喩の手』(アメリカン・カルテットを流している)
○ニコラス・ローグ『ジェラシー』(『ケルン・コンサート』を使用)