Sightsong

自縄自縛日記

ダニエル・ヤーギン『探求』

2013-01-23 23:50:12 | 環境・自然

ダニエル・ヤーギン『探求』(日本経済新聞出版社、原著2011年)。ゆっくりと読み進めていたが、ハノイでようやく読了した。

言ってみれば、化石燃料、再生可能エネルギー、電気、CO2などについての開発と変転の歴史書である。これが滅法面白く、とても読み飛ばすわけにはいかない。 新しい本だけあって、例えば東日本大震災と原発事故、中国の省エネ規制、シェールガスの勃興、再生可能エネルギーの技術・市場変動など、最近の動向まで追ったものとなっている。邦訳は上下巻で千ページにもなる大部の書だが、じっくりと読む価値は大きい。

CO2に関しては、第4部に記述されている。確かに、19世紀からの長い研究の積み重ねがあることがよくわかる。贔屓の引き倒しではない。IPCCの提示したものが確固たる結論ではないことも、クライメートゲート事件についても、しっかりと踏まえてのことだ。確かに、最近の日本においては、温暖化対策が原子力推進策とセットになって進められてきた。しかし、この構造を疑うあまりに陰謀論に走るのは、あまりにも浅はかだと言わざるを得ないだろう。

それにしても、政治と科学とビジネスとをうまく織り交ぜた語り口は見事である。読みながら、自分もこんなものを書かなければいけなかったのだなと反省してしまった(>> こんな本とか、こんな本とか)。もっとも、相手はピューリッツァー賞を受賞した専門家であるが・・・。

エネルギー問題についても、開発史、技術、将来予測、市場、エネルギーセキュリティなど、まったく一筋縄ではいかない。つい最近の常識さえもリアルタイムでどんどん変貌していく。

つまり、原子力を考える上でも、再生可能エネルギーの可能性を見る上でも、それから国家間の関係や貿易を広く考える上でも、エネルギー問題のさまざまな要素をじっくり見極めなければ話にならないということだ。「巨悪」の存在を前提としたり、知識なく陰謀論に加担することは、誰のためにもならない。

大推薦。


松村美香『利権鉱脈 小説ODA』

2013-01-23 11:08:57 | 北アジア・中央アジア

松村美香『利権鉱脈 小説ODA』(角川書店、2012年)を読む。

モンゴルでのODA調査をネタとした小説である。産業小説ゆえ、たとえば黒木亮『排出権商人』(>> リンク)と同様に、解説的・説明的であり、さまざまな要素を詰め込もうとしすぎたきらいはある。

しかし、相当に面白い。もちろん、わたし自身が身を置く業界と近い世界だからでもある。ハノイに居る間に一気に読んでしまった。

著者は、かつて国際開発コンサルタントであった経歴を持つようだ。おそらくJICAの業務経験もあるのだろう(小説では、JIDOという微妙な名前になっている)。それゆえ、内情の描写には厚みがある。それぞれの省庁のキャラだとか、ODAが辿って来た紆余曲折だとか、モンゴルでの鉱山開発や省庁再編だとか。これらを、モンゴルでのウラン開発や放射性廃棄物の最終処分問題と結び付ける展開は、なかなかの手腕である。

もっとも、コンサルタントを兵隊、省庁を大本営のように言われたり、産業の海外展開を戦争であるかのように言われたりすると、それは古い時代への回帰願望ではないかと思ってしまうのではあるが。ちょっと、「プロジェクトX」的。

それは置いておいても、模索しながら奮闘する人たちへのエールとして、広く読まれていい本だと思う。大企業がどうのグローバル企業がどうのという悪口だけ言い放つよりは遥かに人間的である。