Sightsong

自縄自縛日記

ランディ・ウェストン+ビリー・ハーパー『The Roots of the Blues』

2013-12-14 11:50:54 | アヴァンギャルド・ジャズ

ランディ・ウェストン+ビリー・ハーパー『The Roots of the Blues』(SunnySide、2013年)を聴く。

Randy Weston (p)
Billy Harper (ts)

ずっとアイドルだったビリー・ハーパーと、大地的なランディ・ウェストンとのデュオとあって、ずいぶん楽しみにしていた盤である。過去にも、ハーパーはウェストンのグループで吹いていて、ルーツへの視線において重なり合うところがある。

ハーパーは1943年生まれの70歳、ウェストンは1926年生まれの87歳。ちょっと吃驚してしまうが、個性は薄まっていない。ただ、拍子抜けするほどのリラックスした演奏であり、気心の知れたふたりによるデュオだからなのか、年齢のためなのか、判断しかねるところではある。

それにしても、ふたりとも気持ちのいい音を発する。におい満点、大歓迎である。ハーパーのオリジナル曲は1曲のみ(「If One Could Only See」)、ほとんどはウェストンのオリジナル曲である。それらの演奏も勿論馴染み深くていいのだが、普段聴かないジャズ・スタンダード「Body and Soul」「How High the Moon」「Take the A Train」が意表をついて愉快。

最近のデュオでの来日は去年だったか、京都のみでの演奏ゆえ諦めた。無理してでも行くべきだったか。


ビリー・ハーパー(2009年、新宿サムデイ) Leica M3、エルマリート90mmF2.8、TRI-X(+2)、フジブロ3号


ランディ・ウェストン(2005年、神田明神) ライカM3、ズミクロン50mmF2、Tri-X、フジブロ2号

●参照
ビリー・ハーパー『Blueprints of Jazz』、チャールズ・トリヴァーのビッグバンド
ビリー・ハーパーの映像
ランディ・ウェストン『SAGA』


広瀬正『エロス』

2013-12-14 10:26:06 | 関東

広瀬正『エロス もう一つの過去』(集英社文庫、原著1971年)を読む。

東北なまりが残る大歌手・橘百合子。目が見えない学者・片桐慎一。初老の域に達して偶然再会したふたりは、戦前、恋人同士だった。百合子は、東京で身を寄せる叔父さんの収入が激減し(市電の運転手)、稼ぎのいいヌードモデルをやろうかどうか悩んでいた。とりあえず映画を観に出かけ、その帰りに、自動車に泥水を浴びせかけられてしまう。それが、歌手デビューのきっかけとなった。しかし、仮に映画を観に行かずモデルになっていたとしたら、別の運命があったはずだった。それは、「風が吹けば桶屋がもうかる」的に、歴史をも変えていたのかもしれなかった。

そのようなわけで、百合子の想像からはじまって、小説はヌードモデルとなった百合子という過去のパラレルワールドを、現在の実世界と並行して描いていく。さて、このまま何を落とし所にするのだろうと思っていたら、『ツィス』と同様、最後にやられた。騙された悦びというのかな。

のほほんとした文体は読みやすく、そして、解説で小松左京が指摘しているように、広瀬正は「ディテール」に異常なこだわりを見せる。いま読むと、国家総動員体制が構築され、愛国心が強要されていく展開を、現在の暗雲に重ね合わせずにはいられない。

●参照
広瀬正『ツィス』