Sightsong

自縄自縛日記

アピチャッポン・ウィーラセタクン『Fireworks (Archives)』

2014-09-13 22:13:55 | 東南アジア

谷中のSCAI THE BATHHOUSEに足を運び、アピチャッポン・ウィーラセタクンの個展『Fireworks (Archives)』を観た。

同名の映像作品が中心となった展示である。

タイ北部、ラオスとの国境近くにあるノンカイ。アピチャッポンによる『ブンミおじさんの森』(2010年)の舞台も、ラオスから働き手が来る、このあたりの森の中だった。『Fireworks (Archives)』では、夜、花火や人工的な閃光により、不連続的に、寺院のオブジェや彷徨う人びとを浮かび上がらせている。

石で出来たオブジェには、さまざまなものがある。象、犬、猿、よくわからない生き物。それらは、おそらくは民間信仰の対象であり、またおそらくは中央に抑圧された人びとの表現の場である。森と人びとの息遣いとともに、潜在的な叫びが鮮烈に提示されているように思える。

●参照
アピチャッポン・ウィーラセタクン『ブンミおじさんの森』


ジョイス・キャロル・オーツ『Daddy Love』

2014-09-13 08:32:54 | 北米

サウジへの行き帰りに、ジョイス・キャロル・オーツ『Daddy Love』(The Mysterious Press、2013年)を読む。

6歳の男の子ロビーは、突然、駐車場で誘拐される。母親ダイナは、息子をさらったバンを止めようとして、顔も身体も滅茶苦茶にされてしまう。誘拐犯は、「ダディ・ラヴ」と名乗り、ロビーを自分の息子「ギデオン」として育て、支配する。 

この、ダディ・ラヴの狂気があまりにも怖い。まずは、顔と身体とが別個に開く木箱にロビーを閉じ込める。逃げようとすると銃で撃つ。友達作りを許さず、ギデオンに与えた犬が吠えると途端に銃殺する。やがて、ダディ・ラヴは、ギデオンを精神的に支配し、ギデオンは逃げる機会があっても逃げることができなくなる。

オーツは、短いセンテンスのひとつひとつにおいて「Daddy Loveは・・・」と書く。それは畳みかけるような技術であり、読む者にも強迫観念を抱かせるものだ。実際に、怖れながらも、次へ次へと読むことをやめることができない。しかも、この極端に独りよがりな「愛情」は、たとえその1パーセントであっても、おそらく誰もが身に覚えのある人間の狂気なのであり、だからこそ怖いのである。

ダディ・ラヴは、12歳になったギデオンに厭き、殺そうとする(彼の美意識では、もはやその年齢では純真さを失う)。ギデオンは逃げ、6年ぶりに発見され、親元に戻されることになる。しかし、時間は戻らない。母親の抱く恐怖は、また別の姿になっていく。このあたりの迫りくる描写もさすがである。 

●参照
ジョイス・キャロル・オーツ『Evil Eye』
林壮一『マイノリティーの拳』、ジョイス・キャロル・オーツ『オン・ボクシング』


ダンテ・ラム『魔警』

2014-09-13 00:16:16 | 香港

香港からの帰国便で、ダンテ・ラム『魔警』(That Demon Within)(2014年)を観る。

香港警察の主人公(ダニエル・ウー)は、生真面目だが、精神のバランスを欠き、しばしば暴走する。理由は、幼少時のトラウマであった。

宝石犯グループを追うが、その中心人物(ニック・チョン)は、主人公の幼少時に父親を殺した人物であり、その報復として殺した人物であり(つまり、もうこの世にはいない)、また自分の二重人格的な存在でもある。

出来が良いとはとても言えないサイコ・ホラー。せっかくのジョニー・トー映画の常連ニック・チョンを活かしてもいない。こんな映画作ってんじゃない。『火龍』(2010年)も、冴えない映画だった。ダンテ・ラムは自分には合わないようである。

●参照
ダンテ・ラム『コンシェンス/裏切りの炎』