Sightsong

自縄自縛日記

万年筆のペンクリニック(7)

2015-03-07 23:38:05 | もろもろ

待ちに待った、日本橋丸善での「世界の万年筆展」。いや特に新たな万年筆が欲しいというわけではなく、ペン先の調整である。大阪や神戸にはいいお店があって、頻繁にペンクリニックを開いているのに、東京ではあまりない。

そんなわけで、書き味が渋いことがある万年筆を2本握って駆けつけた。受付開始の9時半から10分も経っていないのに、もう16人も先客がいた。(もっとも、前日の残りかもしれないのだが、人気があることは確かだ。)

ドクターは、何度か診ていただいた、サンライズ貿易の宍倉潔子さんである。

■ マーレンの「サクソフォーン」

チャーリー・パーカーへのオマージュとして作られたペン。バードなのに書き味が渋くて何がバードか。

ペン先の開き具合が悪く、少し歪んでいたようだった。

■ スティピュラの「エトルリア」

ペン先が14Kの現行品と違い18K。ペン先とクリップに刻んである模様は、イタリアのアカントという葉であり、また、ペン軸のふくらみはトスカーナの大地だということである(受け売り)。イタリア物は洒落ている。

これもペン先の開きが今ひとつということで、調整していただいた。1年ほど前にも診てもらったのだが。

ところで、インクフローが渋いのには、ペン先の物理的な問題のほかに、変な角度で書いてしまうという書き手の癖や、インクとの相性も原因となっていることがあるのだという。

特に「ブレンド物」のインクは、粘性が高く、ペンを選んでしまうらしい。そういえば、マーレンにはパイロットの「色彩雫」、スティピュラには丸善のオリジナルインクを詰めていた。しばらくしたら、ペリカンのブルーブラックに戻すつもりだ。

まあ、当分はこれでストレスなし。

●参照
万年筆のペンクリニック
万年筆のペンクリニック(2)
万年筆のペンクリニック(3)
万年筆のペンクリニック(4)
万年筆のペンクリニック(5)
万年筆のペンクリニック(6)
本八幡のぷんぷく堂と昭和の万年筆
沖縄の渡口万年筆店
鉄ペン
行定勲『クローズド・ノート』
モンゴルのペンケース
万年筆のインクを使うローラーボール
ほぼ日手帳とカキモリのトモエリバー


大河内直彦『チェンジング・ブルー 気候変動の謎に迫る』

2015-03-07 07:29:13 | 環境・自然

大河内直彦『チェンジング・ブルー 気候変動の謎に迫る』(岩波現代文庫、原著2008年)を読む。前々から、そのうちにと思っていた本であり、文庫化大歓迎。

言うまでもなく地球は生き物であり、大気を通じて宇宙とつながっている。また、地球の側でも、多くの物質や相が相互に作用している。それらの複雑な相互作用の結果としてあらわれる現象を、メカニズムという形で読み解くためには、海底の堆積物や分厚い氷床といった、地球上に残されたものを「記録」として扱い、分析していくほかはない。

その鍵として本書において大きくフィーチャーされるものは、「同位体」である。同じ炭素や酸素であっても、自然界にはごくわずか、質量が微妙に異なる「同位体」が存在する。質量が違うということは物理的な挙動が異なるということであり(時間が経てば姿を変えていく「放射性同位体」もある)、その結果、大昔の堆積物や氷床をトレースすれば、それがいつどのような環境にあり、どのような道をたどってきたのかということが解きほぐされていく。こういったからくりを、科学史とともに解説するあたりは見事である。

科学を丁寧に書くと厚くなってしまうという難点はあるが、じっくりと付き合う価値がある本だ(もちろん、くだらぬ環境陰謀論を、ではなく)。それは現在の環境政策の重要さを認識することにもつながっている。

「・・・少々二酸化炭素濃度が上昇しても、氷期から間氷期に移ったような大規模な気候の再編は起きない。しかし、この「ひと押し」がどんどん大きくなっていったら、どうなるだろう? 気候システムが異常をきたしたとしても、それは決して不思議なことではない。いずれ「障壁」を乗り越え、別の安定解へとまっしぐらに突き進む非線形性が現れるかもしれない。気候の暴走である。それが、気候学者が現在もっとも恐れていることなのである。」
「人類が危険な火遊びをしていることは間違いないのである。」

●参照
多田隆治『気候変動を理学する』
米本昌平『地球変動のポリティクス 温暖化という脅威』
小嶋稔+是永淳+チン-ズウ・イン『地球進化概論』
ジェームズ・ラブロック『A Rough Ride to the Future』
ナオミ・クライン『This Changes Everything』
ナオミ・オレスケス+エリック・M・コンウェイ『The Collapse of Western Civilization』
ナオミ・オレスケス+エリック・M・コンウェイ『世界を騙しつづける科学者たち』
ノーム・チョムスキー+ラリー・ポーク『複雑化する世界、単純化する欲望 核戦争と破滅に向かう環境世界』
ノーム・チョムスキー+ラレイ・ポーク『Nuclear War and Environmental Catastrophe』
ノーム・チョムスキー講演「資本主義的民主制の下で人類は生き残れるか」
『グリーン資本主義』、『グリーン・ニューディール』
吉田文和『グリーン・エコノミー』
ダニエル・ヤーギン『探求』
『カーボン・ラッシュ』
『カーター大統領の“ソーラーパネル”を追って』 30年以上前の「選ばれなかった道」


ブリガン・クラウス『Good Kitty』、『Descending to End』

2015-03-07 06:42:10 | アヴァンギャルド・ジャズ

メアリー・ハルヴァーソンとよく共演しているようで気になり、ブリガン・クラウスの2枚を聴く。両方ともニッティング・ファクトリー盤(もうCDは出していないのだったか?)。

■ 『Good Kitty』(Knitting Factory、1996年)

Briggan Krauss (as)
Chris Speed (ts, cl)
Michael Sarin (ds)

もうひたすらに、クリス・スピードとの吹きまくり絡みまくり合戦。愉しんだのではあるけれど、こちらの耳と脳は、一時代前の音のようにしか処理してくれない。それに、まさにこのジャケットのようにペラペラでキッチュな音(もちろん、褒め言葉)という面では、スピードのほうが一枚上手のような。

■ 『Descending to End』(Knitting Factory、1999年)

Briggan Krauss (all instruments)

ひとりでサックスだの電子楽器だのいろいろなノイズだのを発した多重録音。やはりこれも、時代に即した音楽のように聞こえてならないのだがどうか。ときおり聞こえるバリトンサックスの音には嬉しくて反応してしまう。

そんなわけで、ほかのインプロヴァイザーと共演するクラウスの裸のサックスを聴きたいと思うのだった。