Sightsong

自縄自縛日記

Ideal Bread『Beating the Teens / Songs of Steve Lacy』

2015-03-19 00:26:05 | アヴァンギャルド・ジャズ

関西への行き帰りに、ずっと、Ideal Bread『Beating the Teens / Songs of Steve Lacy』(Cuneiform Records、2014年)を聴く。

Josh Sinton (bs)
Kirk Knuffke (cor)
Adam Hopkins (b)
Tomas Fujiwara (ds)

タイトルの通り、スティーヴ・レイシー集。しかもサックスは、当然ながらレイシーのソプラノとは全く違う重さを持つジョシュ・シントンのバリトン。

レイシーのストイックな変態性のようなものはない。シントンとほかの3人は、無理に盛り上がるでもなく、敢えてヘンな音を出して緊張感を持続させようとするでもなく、ひたすら何かのプロセスを続ける。ずっと付き合っていると、泥の中に潜ってじっとしているような気がしてくる。あるいは、苔の上に横たわって木々と空を呆然と視ているような。ヘンな感じ。


南喜一『ガマの闘争』

2015-03-19 00:10:09 | 関東

平井玄『彗星的思考』において言及されていた南喜一という人物に興味が湧いて、『ガマの闘争』(蒼洋社、1980年)を読む。

南喜一、1893年生まれ。18歳で上京し、苦労して事業を始め、成功させる。30歳のとき(1923年)、関東大震災時の「亀戸事件」において、弟を官憲に虐殺される。デマに煽られた一般市民が多数の朝鮮人・中国人を中心に殺したときと同時期に、官憲は、それに乗じて社会主義者・労働運動指導者たちも殺したのだった(藤田富士男・大和田茂『評伝 平澤計七』)。南喜一の筆は、このときの様子を生々しく描いている。

そのことがあってから、南は労働運動に身を投じ、出来たばかりの日本共産党に入党する。しかし1928年の三・一五大検挙により入獄。平井氏は獄中での脱党を「転向」と書くが、実際のところ、思想的な転向ではなく、党の組織を見限っての行動であったようだ。

その後の八面六臂の活動がすさまじい。遊郭のあった玉ノ井において、多数の娼婦たちが田舎から騙して連れてこられ、劣悪な条件で働かされているのを知るや、彼女たちを助け出したり、労働条件の改善を求めて大奮闘。獄中にいたときからはじめた再生紙の「研究」(たいへん素朴で一途なものだが)を生かし、陸軍の援助を得て、国策パルプ工業を設立。ヤクルトの事業も手掛けているし、本書には言及されていないものの、合気道養神館の設立にも手を貸したらしい。「性豪」としても有名。何なんだ。

しかしここまでの怪人となると、左も右もなく、転向も非転向もない。国策も社会運動もこの人の中では普通につながっていたのだろうね。いまの薄っぺらな何某とはたいへんな違いだ。