サインホ・ナムチラック『Like A Bird Or Spirit, Not A Face』(Ponderosa Music & Art、2016年)を聴く。
Sainkho Namtchylak (vo, g)
Eyadou Ag Leche (b, g, vo)
Said Ag Ayad (perc)
Ian Brennan (loops)
ベースとパーカッションのふたりはマリ共和国を拠点とするトゥアレグ人のグループ・ティナリウェンのメンバーである。それゆえ、ジャケットの裏側には、ティンブクトゥにある砂のモスクが印刷されている。もちろんサインホはモンゴル文化圏のトゥヴァ共和国出身のヴォイス・パフォーマーだ。
このまったく異なる文化を背景に持つ者たちが、驚くほど親和性をもった音楽を展開している。サインホの喉歌はもともとトゥヴァのホーメイだが、ここでは、アフリカの女性が鳥の叫びのごとく甲高い声で鳴らす喉歌に近いものも披露している。
そしてサインホ自身のヴォイスは、かつての、壁も窓ガラスも鼓膜も突き破るような、また地の底から低音で唸るような突破的なものでは、もはやない。もちろんそのような要素はたくさんある。恐ろしさもある。しかしその一方で、愛らしさもある。
これは成熟と呼ぶべきなんだろうね。優しく英語で唄う「The Snow Fall Without You」など、サインホの活動の到達点と言ってもいいのではないか。
●参照
サインホ・ナムチラック『TERRA』(2010年)
サインホ・ナムチラックの映像(2008年)
モスクワ・コンポーザーズ・オーケストラ feat. サインホ『Portrait of an Idealist』(2007年)
テレビドラマ版『クライマーズ・ハイ』(2003年)(大友良英+サインホ)