崎山多美『うんじゅが、ナサキ』(花書院、2016年)を読む。
主人公は突然わけのわからない力に呼び止められ、奇妙な世界を旅する。力とはシマコトバであり、ゆく先は海であったり地下壕であったりする。言ってみれば崎山多美お得意の展開だが、過去の作品に比べても、そのわけのわからなさは際立っているようだ。崎山多美版の『不思議の国のアリス』のようなものだ。
理解してはならぬ、それはすなわち、世界と歴史を「括る」暴力に身をゆだねてはならないからだ。主人公を襲う無数の理解できぬ存在と理解できぬコトバは、それが歴史そのものであることを意味する。そして不可能であると知りながら、無数の声を記録してゆこうとすることとは何か。
イマジネーションを喚起してやまない過去の崎山作品ほどの傑作ではないが、この意図的な「放置プレイ」が、つぎの声を呼び寄せるようである。
●崎山多美
崎山多美講演会「シマコトバでカチャーシー」
崎山多美『ムイアニ由来記』、『コトバの生まれる場所』
崎山多美『月や、あらん』
『現代沖縄文学作品選』
『越境広場』創刊0号
『越境広場』1号