Sightsong

自縄自縛日記

片岡義男『万年筆インク紙』

2017-01-15 23:16:09 | もろもろ

片岡義男『万年筆インク紙』(晶文社、2016年)を読む。

中身は、タイトル通りである。つまり、万年筆とインクと紙。あえて言えば、あとはボールペンと、出たてのワープロ。

著者は、たとえば、万年筆で敢えて書くことが、その書かれたことにとって世界とのかかわりがどのようなものかといったことや、あるいは、ブルーブラックというインクの色がどのような意味を持つのかといったことについて、折に触れ、考察する。というよりも、印象を語る。

はっきり言って、そんなことはどうでもいいのだ。文房具愛好家が、自分自身の常軌を逸したさまに不安を抱き、あれこれと落としどころを見つけようとしているだけの話である。面白いのは文房具への具体的な執着という各論なのであり、わたし自身は常軌は逸してはいないと信じるものの、わかるわかると思いながら読んでしまう。

つまり、大事なのは、リーガルパッドに万年筆で書くと盛大に滲むことであり、ライフのノーブルノートはなかなか良いことであり、インク瓶の形が重要なことであり、エルバンのローラーボール(万年筆用のカートリッジを使う)の書き心地が渋いことであり、三菱鉛筆のジェットストリームの書き心地は最高だが軸がダメなことであり、万年筆とインクと紙の相性が永遠の課題ということであり、・・・・・・。

●参照
万年筆のペンクリニック
万年筆のペンクリニック(2)
万年筆のペンクリニック(3)
万年筆のペンクリニック(4)
万年筆のペンクリニック(5)
万年筆のペンクリニック(6)
万年筆のペンクリニック(7)
本八幡のぷんぷく堂と昭和の万年筆
沖縄の渡口万年筆店
鉄ペン
行定勲『クローズド・ノート』
モンゴルのペンケース
万年筆のインクを使うローラーボール
ほぼ日手帳とカキモリのトモエリバー
リーガルパッド
さようならスティピュラ、ようこそ笑暮屋
「万年筆の生活誌」展@国立歴史民俗博物館


リー・コニッツ+ケニー・ホイーラー『Olden Times - Live at Birdland Neuburg』

2017-01-15 21:51:56 | アヴァンギャルド・ジャズ

リー・コニッツ+ケニー・ホイーラー『Olden Times - Live at Birdland Neuburg』(Double Moon Records、1999年)を聴く。

Lee Konitz (as)
Kenny Wheeler (tp, flh)
Frank Wunsch (p)
Gunnar Plümer (b)

ディスクユニオンの解説にあった通り、ライナーノーツには、2016年2月にリー・コニッツが当時のことを思い出し、「わたしは数千の録音に参加したけれど、あれがわたしの人生で真のベストだ」と語ったのだと書かれている。「あれ」とは、『Angel Song』(1996年)のことである。  

本盤が録音される3年ほど前の吹き込みで、やはりケニー・ホイーラーと、そしてデイヴ・ホランド、ビル・フリゼールと共演した作品である。どこまでコニッツがマジメに語ったのかはわからないけれど、雰囲気も熟度も、コニッツのプレイも確かに素晴らしいものだ。わたしもそれが出たすぐ後(たぶん1997年頃)に、新宿の旧DUGでケイコ・リーと共演したコニッツにサインを貰おうと盤を見せたところ、随分喜んで、「コレ良いだろう!」と勢いよく話してくれた。

99年の『Olden Times』は、ホイーラーの他の共演者は、現地ドイツのヴェテランふたり。プレイは堅実にして、突出した個性を発揮しているわけでもなく、言ってみれば「なんということもない」。しかし、そのことが非常にリラックスした雰囲気を生んでいるように聴こえる。『Angel Song』と共通する曲「Kind Folk」も「Onmo」もそうである(両方ともホイーラーのオリジナル)。

コニッツのアルトは程よくエアを含んでいて、まったく気負うことのない演奏のようだ。そしてホイーラーのトランペットとフリューゲルホーンは、雲の切れ目から光が差してくるような、あるいは雨のあとのひやりとした空気のような、実に爽やかなもので、この人にしか出せない音であったに違いない。

録音もとても良い。特筆すべき名盤の類ではないかもしれないが、これはもうひとつの『Angel Song』かもしれない。

●リー・コニッツ
今井和雄トリオ@なってるハウス、徹の部屋@ポレポレ坐(リー・コニッツ『無伴奏ライヴ・イン・ヨコハマ』、1999年)
ケニー・ホイーラー+リー・コニッツ+デイヴ・ホランド+ビル・フリゼール『Angel Song』(1996年) 
リー・コニッツ+ルディ・マハール『俳句』(1995年)
アルバート・マンゲルスドルフ『A Jazz Tune I Hope』、リー・コニッツとの『Art of the Duo』 (1978、83年) 
アート・ファーマー+リー・コニッツ『Live in Genoa 1981』(1981年)
ギル・エヴァンス+リー・コニッツ『Heroes & Anti-Heroes』(1980年) 
リー・コニッツ『Spirits』(1971年)
リー・コニッツ『Jazz at Storyville』、『In Harvard Square』(1954、55年)

●ケニー・ホイーラー
ケニー・ホイーラー『One of Many』(2006年)
ケニー・ホイーラー+リー・コニッツ+デイヴ・ホランド+ビル・フリゼール『Angel Song』(1996年) 
『A Tribute to Bill Evans』(1991年)
ジョン・サーマン『Flashpoint: NDR Jazz Workshop - April '69』(1969年)  


イルテット『Gain』

2017-01-15 08:35:08 | アヴァンギャルド・ジャズ

イルテット『Gain』(RogueArt、2014年)を聴く。アナログ盤である。

Illtet:
Mike Ladd (vo, sampler, ems syn)
Jeff Parker (g)
HPRIZM/High Priest (moog, sampler, syn, vo)
Tyshawn Sorey (ds, tb, rhodes)

本盤はヒップホップからふたり、スティーヴ・リーマン『Sélébéyone』(2016年)でもラップで参加していたHPRIZMと、主役のマイク・ラッド。ここで目立っているのは圧倒的にラッドのポエトリー・リーディングなのであって、もとより、ヴィジェイ・アイヤー『In What Language?』(2003年)などでもジャズと交錯するサウンドを残してきている。

ジェフ・パーカーの「昔の近未来」のような艶をぎらぎらさせるギターも、状況に応じた巧いドラミングをみせるタイショーン・ソーリーも悪くない。サウンド全体としては、ラッドの声の雰囲気も、パーカーのギターの気怠さもあって、「アメリカ」を諦念とともに視ているような感覚がある。

とくに、気力を振り絞ってなんとか声を出すこところから、朗々と語るところまでの、ラッドのヴォイスである。とりわけ、気怠い最後の曲「Rome」に惹かれる。チケットを買って知らない街へ、ここは火星のコロニーか、ローマだ。

●参照
スティーヴ・リーマン『Sélébéyone』(2016年)
ヴィジェイ・アイヤー『In What Language?』(2003年)