気が向いて、スティーヴ・レイシーの旧盤『Weal & Woe』(Emanem、1972-73年)を聴いたところ、いやこんな傑作だったかと仰天したのはつい最近のこと。

Steve Lacy (ss)
Steve Potts (as) <The Woe>
Irene Aebi (cello, voice) <The Woe>
Kent Carter (b) <The Woe>
Oliver Johnson (ds) <The Woe>
特に、フランス・アヴィニヨンでのソプラノサックス1本によるソロライヴに少なからず惹かれた(もとのLPはこの部分のみ)。
どちらかというと、余計な装飾を削ぎ落とした核の音のみによる緊張感がレイシーの魅力でもあるのだが、ここでは、音を割ってみたり裏返したりと、吃驚するくらい攻める。聴いていると動悸動悸して眼がいつの間にかカッと開いてしまうようなものだ。レイシーの録音はあまりにも多くて付き合いきれないほどだが、ここまで多様性があるなら、あらためて探検に出てみようかなと思ったりして。
そんなわけで、先日またレコード店のレイシーの棚を眺めていたところ、この続編が出ていたことを知った。2014年の発掘盤『Avignon and After 2 (1972-7)』(Emanem、1972-77年)である。
「2」ということは「1」もあり、調べてみると、それは上のカップリング盤とは異なる。つまり、オリジナルのLP=カップリングCDの前半ではアヴィニヨンでの1972年8月7-8日のライヴ演奏が8曲収録されているのに対し、「1」では、同じライヴでのほかの演奏がさらに4曲、さらに、ベルリンでの1974年のソロ・ライヴまで追加収録されている。知らなかった。

Steve Lacy (ss)
それで「2」はというと、アヴィニヨンでの1972年8月7日がさらに3曲、そして同じアヴィニヨン・1974年、パリ・1975年、エドモントン・1976年、ケルン・1977年のソロ演奏が集められている。拾遺集といったところか。
形の上で特筆すべき点は、その同日のアヴィニヨンにおいて、なんと、ビリー・ストレイホーンの曲を演奏していることだ(「Johnny Come Lately」、「Lush Life」、「UMMG」)。スタンダード「Lush Life」を吹くレイシーなんて想像しにくいのだが、聴いてみると、実はたいして面白いものでもない。CDの解説でも、「These may not be the most profounf performances, but they are very nice to hear.」とばっさり。オリジナルに収録されなかったことには理由がある。
それはそれとして、レイシーのソプラノサックスは何度聴いても確かに「profound」であり、飽きることがない。多くの人が精神性とセットで解釈しようとしたことも納得できる。
●参照
『Point of Departure』のスティーヴ・レイシー特集(『Sands』)
『富樫雅彦 スティーヴ・レイシー 高橋悠治』
チャールス・タイラー(『One Fell Swoop』)
富樫雅彦『セッション・イン・パリ VOL. 1 / 2』
『Interpretations of Monk』
レイシーは最後まで前衛だった(『New Jazz Meeting Baden-Baden 2002』)
セシル・テイラー初期作品群
ザ・ジャズ・コンポーザーズ・オーケストラ
ハリー・コニック・ジュニア+ブランフォード・マルサリス『Occasion』(『Sands』にインスパイアされた演奏)
副島輝人『世界フリージャズ記』
村上春樹 編・訳『セロニアス・モンクのいた風景』(レイシーのモンク論)
中平穂積『JAZZ GIANTS 1961-2002』