テザード・ムーンは、どう考えようとも不世出のピアノトリオだった。なぜか以前すべてのテザード・ムーンのCDを手放してしまったのだが、廉価盤が再発されていて、また聴きたくなって、『Triangle』(King Records、1991年)を手に入れた。
Tethered Moon:
Masabumi "Poo" Kikuchi 菊地雅章 (p)
Gary Peacock (b)
Paul Motian (ds)
メンバー的にも時期的にも、テザード・ムーンがキース・ジャレットのスタンダーズを意識していたことは間違いないように思われる。菊地雅章が、キースの『Bye Bye Blackbird』を聴いて、その前の絢爛豪華なピアノ・プレイからシンプルなものへと移行しようとする姿に感銘を受けたのだとか、菊地雅章のプレイを聴きにきたキースがぼそりと褒めて帰ったのだとか、そのような逸話を読んだ記憶がある。
ポール・モチアンのドラムスは、キースとであろうと、ビル・エヴァンスとであろうと、菊地雅章とであろうと、焼き鈍した柔らかい鋼のスプリングのように伸び縮みする。そしてここでは、菊地雅章のピアノもまた、柔軟に、思索的に、伸び縮みする。ふたつの伸縮する音楽生物に、都度チャンスを見出してはブリッジを架けるのが、ゲイリー・ピーコックのベースか。
テザード・ムーンの演奏を2回、南青山のBody & Soulとサントリーホールで観る機会があった(サントリーホールでの演奏はジミヘン集としてCD化もされた。また聴きたいものだ)。Body & Soulでのこと。モチアンが興に乗りすぎて、自分のドラムソロを引っ張って叩きすぎてしまった。直後に、ピーコックが苦笑いして指で×印を出した。しかし、それも大きな伸び縮みの中にある一コマに過ぎなかった。
オリジナルの名曲「Little Abi」も、スタンダードの「The Song Is You」も、オーネット・コールマンの「Turnaround」も、本当に素晴らしい。吐きそうになるくらい素晴らしい。聴いても聴いても汲み取れないものがある。
●参照
菊地雅章『エンド・フォー・ザ・ビギニング』(1973年)
菊地雅章『ヘアピン・サーカス』(1972年)
菊地雅章+エルヴィン・ジョーンズ『Hollow Out』(1972年)
菊地雅章『ダンシング・ミスト~菊地雅章イン・コンサート』(1970年)
菊地雅章『POO-SUN』(1970年)
菊地雅章『再確認そして発展』(1970年)
『銀巴里セッション 1963年6月26日深夜』