Sightsong

自縄自縛日記

ICPオーケストラ『Bospaadje Konijnehol』の2枚

2017-03-05 09:56:16 | アヴァンギャルド・ジャズ

2017年3月3日に亡くなったミシャ・メンゲルベルクへの個人的な追悼として、ICPオーケストラ『Bospaadje Konijnehol』(ICP、1986-91年)の2枚組を聴く。

Ernst Reijseger (cello)
Ernst Glerum (b)
Han Bennink (perc)
Misha Mengelberg (p)
Ab Baars (reeds)
Michael Moore (reeds)
George Lewis (tb)
Wolter Wierbos (tb)
Evert Hekkema (tp)
Maurice Horsthuis (viola)
Maartje Ten Hoorn (vln)

Ernst Reijseger (cello)
Tristan Honsinger (cello)
Ernst Glerum (b)
Han Bennink (perc)
Misha Mengelberg (p)
Ab Baars (reeds)
Michael Moore (reeds)
Wolter Wierbos (tb)
Evert Hekkema (tp)
Maartje Ten Hoorn (vln)

両方ともアートワークは例によってハン・ベニンクの手による。ほとんど似たようなジャケット画をわざわざ別々に描いているのが愉しい。

2枚目にはミシャ・メンゲルベルクのサインを貰った。それは1997年10月11日に世田谷美術館において豊住芳三郎と共演した後のことだったが、同時にみせたFMP盤の『Impromptu』を一瞥して、「これはFMPなのか?そうなのか?」と真顔で訊ねてきた奇妙な記憶がある。あれはどういうことだったのだろう。

そのときも、酸いも甘いも噛み分けたうえでユーモラスに迫るふたりの演奏はとても刺激的だったのだが、ICPオーケストラの演奏もまた素晴らしいものだった。オケの来日は1982、2006、2008、2014年の4回であり、2014年には既にミシャは体調を崩していて同行しなかった。わたしが新宿ピットインで目撃したのは2006年のこと(2008年は不都合で行けなかった)。それは大人の玩具箱、衒いも迎合も皆無だった。

本盤も聴けば聴くほど味わいがある。タイトルはオランダ語であり、英語では「Forest Path Rabbithole」。確かにこのサウンドは森林であり、人を騙すウサギも落とし穴もある。

1枚目は「Ellington Mix」と「De Purperen Sofa」(The Purple Sofa)。いちいち「It Don't Mix」とかふざけたタイトルが付されていて顔がひきつる。アンサンブルもハンのパーカッションも大変な運動量を自在に急停止させ、急発進させる(何なんだ!)。ミシャのピアノは悠然たるものだ。そして「De Purperen Sofa」はミシャによる作品であり、ヴィオラなど弦をフィーチャーしている。

2枚目は「K-Stukken」(K-Pieces)、「Tegenstroom」(Countercurrent)、「Epiloog」(Epilogue)のミシャ3連作。「K-Stukken」ではなかなか出てこないミシャがピアノを弾き始めると実にホッと嬉しくなる。「Epiloog」で叫ぶのは誰だ、ハンか。油断も隙もない、ソファに深々と座って安心すると同時に、唐突に展開が変わり仰天させられ、また、何てことないという感覚でソロイストが突然暴れはじめるので動悸動悸する。ダダイストか。

愛すべきアヴァンギャルディスト、ミシャ・メンゲルベルク、安らかに。


ICPオーケストラ ミシャ・メンゲルベルグ、トリスタン・ホンジンガーら(2006年) Leica M3、Elmarit 90mmF2.8、Tri-X(+2)

●参照
ハン・ベニンク@ディスクユニオン Jazz Tokyo(2014年、ICPオーケストラで来日時)
ペーター・ブロッツマンの映像『Soldier of the Road』(2011年)(ハン・ベニンク)
ハン・ベニンク『Hazentijd』(2009年)(ミシャ・メンゲルベルグ登場)
イレーネ・シュヴァイツァーの映像(2006年)(ハン・ベニンク)

ハン・ベニンク キヤノン50mm/f1.8(2002年)
ペーター・コヴァルトのソロ、デュオ(1981、91、98年)(ハン・ベニンク)
レオ・キュイパーズ『Heavy Days Are Here Again』(1981年)(ハン・ベニンク)

ウェス・モンゴメリーの1965年の映像(1965年)(ハン・ベニンク)
エリック・ドルフィーの映像『Last Date』(1964年)
横井一江『アヴァンギャルド・ジャズ ヨーロッパ・フリーの軌跡』(2011年) 


姜泰煥『素來花』

2017-03-04 09:25:18 | アヴァンギャルド・ジャズ

姜泰煥『素來花』(AudioGuy Records、2011年)を聴く。

Kang Tae Hwan 姜泰煥 (as)

アルトサックスのみによるソロ2枚組。

韓国ソウルのスタジオにおける録音だと書かれているが、その反響はまるで地下空間のようである(まるで大谷石の採石場跡で録られたジョン・ブッチャー『The Geometry of Sentiment』のように)。もちろんサックスから音が発せられた後の外界においてだけではなく、サックスの管の中、姜さんの体内においても音は共鳴し増幅させられているだろう。

1990年代にはじめて姜泰煥を聴いたとき、荒々しい龍がエネルギーの発散場所を求めてのたくるようなエネルギーの太い奔流に驚き、恐怖も覚えた。その後、循環呼吸による長いパッセージだけでなく微分的なものにも移っていったのかと思ったりもしたが、必ずしもそうでもなかった。

本盤を聴いても、さまざまな色合いと厚さの音が何層にも重なり、ダイナミックに変貌し、その都度異なる響きを創り出している。そして昨年(2016年11月)に、教会というやはり素晴らしい響きが得られる空間で聴いたときには(TON KLAMI@東京都民教会)、複数の異なる貌を見せてくれた。

●姜泰煥
TON KLAMI@東京都民教会(2016年)
映像『ユーラシアンエコーズII』(2013年)
ユーラシアンエコーズ第2章(2013年)
姜泰煥・高橋悠治・田中泯(2008年)
姜泰煥・高橋悠治・田中泯(2)(2008年)
姜泰煥+美妍+朴在千『Improvised Memories』(2002年)
『ASIAN SPIRITS』(1995年)


上間陽子『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』

2017-03-01 22:59:01 | 沖縄

上間陽子『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』(太田出版、2017年)を読む。

実は、那覇の松山や辻など歓楽街の観察だろう位に思って、興味本位で読み始めたのであった。

ここに記録されているのは、DV、性暴力、極度の貧困などの辛酸を舐めた女性たちの生きる姿である。しかし、社会学的な分析とは対極にある。読後に総括し、類型化したり、統計的にアプローチしたり、括ったりして脳内で整理することは許されていない。見せ、隠し、話す、あるがままの佇まいが記されている。

驚いた。このようなルポがあったのか。


アイヴィン・オプスヴィーク『Overseas V』(JazzTokyo)

2017-03-01 08:02:50 | アヴァンギャルド・ジャズ

アイヴィン・オプスヴィーク『Overseas V』(Loyal Label、2016年)のレビューを「JazzTokyo」誌に寄稿させていただきました。

>> #1384『Eivind Opsvik / Overseas V』

Eivind Opsvik (double-bass, analog bass synth, Oberheim drum machine)
Tony Malaby (tenor saxophone)
Brandon Seabrook (electric guitar)
Jacob Sacks (piano, RMI Rock-Si-Chord organ)
Kenny Wollesen (drums, percussion, Rhythm Ace drum machine)

「Overseas」シリーズ第5作。前作と同じテイストを残しながら趣向をがらりと変えている。トニー・マラビー、ブランドン・シーブルックらの演奏も素晴らしい。傑作。

●アイヴィン・オプスヴィーク
アイヴィン・オプスヴィーク Overseas@Seeds(2015年)
トニー・マラビー『Incantations』(2015年)
ネイト・ウーリー『(Dance to) The Early Music』(2015年)
イングリッド・ラブロック、メアリー・ハルヴァーソン、クリス・デイヴィス、マット・マネリ @The Stone(2014年)
アイヴィン・オプスヴィーク『Overseas IV』(2011年)
ネイト・ウーリー『(Put Your) Hands Together』(2011年)
トニー・マラビー『Paloma Recio』(2008年)
アイヴィン・オプスヴィーク『Overseas III』(2007年)
クリス・デイヴィス『Rye Eclipse』、『Capricorn Climber』(2007、12年)
アイヴィン・オプスヴィーク『Overseas II』(2004年)


「JazzTokyo」のNY特集(2017/3/1)

2017-03-01 07:46:36 | アヴァンギャルド・ジャズ

「JazzTokyo」のNY特集(2017/3/1)。

■ 連載第20回 ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報

翻訳・寄稿させていただきました。

マシュー・シップの最後となるかもしれない録音、ジェームス・ブランドン・ルイスのライヴ。

■ ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま 第12回 ヘンリー・バトラー~ニューオーリンズの面影

蓮見令麻さんの連載。今回はニューオーリンズのピアニスト、ヘンリー・バトラーのライヴ。

●参照
「JazzTokyo」のNY特集(2017/2/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2016/10/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2016/9/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2016/8/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2016/7/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2016/6/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2016/5/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2016/4/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2016/1/31)
「JazzTokyo」のNY特集(2015/12/27)
「JazzTokyo」のNY特集(2015/11/21)
「JazzTokyo」のNY特集(2015/10/12)
「JazzTokyo」のNY特集(2015/8/30)
「JazzTokyo」のNY特集(2015/7/26)