Sightsong

自縄自縛日記

Sono oto dokokara kuruno?@阿佐ヶ谷Yellow Vision

2017-07-09 09:15:04 | アヴァンギャルド・ジャズ

阿佐ヶ谷のYellow Visionに足を運んだ(2017/7/8)。久しぶりに柳川芳命さんが東京で演奏する機会であり、また、日本天狗党も観たかったのだ。

■ Hyper Fuetaico

Hyper Fuetaico:
Homei Yanagawa 柳川芳命 (as)
Meg (ds)
guest: 
Teruto Yamazawa 山沢輝人 (ts)

柳川さんは名古屋近辺でいつも活動しており、Megさんは近江八幡のドラマー。(柳川芳命『YANAGAWA HOMEI 2016』でも共演している。)

デュオだが、思い思いに音を発し、互いや自己との間合いを図り、再び音を発する。Megのドラムスは、まるで重力が働く向きを定めて一気に身を投げ出すようなスタイルであり、たいへんな迫力があった。そしてひさびさに柳川芳命の音を体感する。発散せぬよう律しながら、自身の磁場の中で情を朗々と吐露するソロであり、それはやはり濁流のアジアンブルースだった。

2曲目から山沢輝人さんがテナーで参加。濁流のなかに荒々しく介入し、サウンドは情のスープとなった。

■ 日本天狗党

日本天狗党:
Tobio Akagi 赤木飛夫 (as)
Houhi Suzuki 鈴木放屁 (ts)
Kenichi Akagi 赤木憲一 (ds)

鈴木放屁さんは今年橋本孝之さんとの共演を目にして(第三回天下一Buzz音会 -披露”演”- @大久保ひかりのうま)、そのテナーにビビっていたのだった。ここでもいきなり入ってきた最初の一音のでかさに思わずのけぞる。マウスピースを深くくわえ、ときに踊るようにしながら、瞬殺の爆音を放ち続ける。

一方の赤木飛夫さんのアルトは、一聴、端正にフレーズを積み上げていくようでありながら、その一音一音は、渾身の力が注入されているように強いものだった。そして赤木憲一さんはバスドラムによって次第にサウンドを高みへと持ち上げてゆく。天高く飛翔する天狗が3人。

そして、柳川・赤木・鈴木・Meg、鈴木・山沢・Megによるセッション。最後などは、鈴木・山沢のふたりともテナーを上下左右に振り回す狼藉ぶりであり、しばしの暴走のあと、なんとか着地した。

Fuji X-E2、XF35mmF1.4

帰りには、この2017年6月4日に録音されたばかりのCD『Hyper Fuetaico IV』をいただいた。

 

●柳川芳命
柳川芳命『YANAGAWA HOMEI 2016』(2016年)
柳川芳命+ヒゴヒロシ+大門力也+坂井啓伸@七針(2015年)
柳川芳命『邪神不死』(1996-97年)
柳川芳命『地と図 '91』(1991年)

●鈴木放屁
第三回天下一Buzz音会 -披露”演”- @大久保ひかりのうま(2017年)


大城美佐子『島思い~十番勝負』

2017-07-08 08:39:02 | 沖縄

大城美佐子『島思い~十番勝負』(tuff beats、-2017年、1962年)を聴く。

大城美佐子 with:
大城琢、ネーネーズ、宮沢和史、宮里恵美子、知名定男、喜友名朝樹、Churashima Navigator、安里勇、前川守賢、徳原清文

1曲ごとに違うゲストを呼んで共演した、文字通り、十番勝負。しかし勝負とは言っても、構えた感じは皆無であり、びっくりするほど自然体。

それにしても美佐子先生は本当に素晴らしいな~。素敵だな~。どこからでも独特のフェロモンがむんむんと発散されている。徳原清文との「でんすなー節」における余裕たっぷりの節回しなんてもう絶品。芸道60年、さすがである。那覇のお店にまた行きたいな~。

知名定男はまさに次のように書いている。もっとも、知名定男本人にも当てはまることだ。

「今のミサーの唄は若い頃の勢いこそないけれど年相応の味わいがある。これこそが芸歴60年の歴史だと感服します。これからも今までどおり肩ひじ張らず、だらしなく(笑)生きていてほしいですね。」

そして最後の11曲目として、1962年のシングル盤「片思い」が追加されている。いま80歳だから25歳頃の筈であり、やはり声に張りがあり、鼓膜を突き刺すパルスもある(嘉手苅林昌『ジル―』でも驚かせてくれた)。今回のChurashima Navigator(DJ)はこれをリミックスしているのだが、いまのビートにのせても自然に最高。

●大城美佐子
大城美佐子『琉球の風と海と月』(2016年)
OKI meets 大城美佐子『北と南』(2012年)
大城美佐子&よなは徹『ふたり唄~ウムイ継承』(2009年)
Leitz Elmarit 90mm/f2.8 で撮る栄町市場と大城美佐子(2007年)
Zeiss Biogon 35mm/f2.0 で撮る「島思い」(2007年)
代官山で大城美佐子を聴いた(2007年)
唄ウムイ 主ン妻節の30年(2007年)
もういちど観たい映画(1) ゴーヤーちゃんぷるー(2006年)
2005年、大城美佐子(2005年)
2004年、大城美佐子(2004年)
高嶺剛『夢幻琉球・つるヘンリー』 けだるいクロスボーダー(1998年)
久高島で記録された嘉手苅林昌『沖縄の魂の行方』(1996年)
知名定男の本土デビュー前のレコード(1975、77年)
大工哲弘『八重山民謡集』(1970年代?)
小浜司『島唄レコード百花繚乱―嘉手苅林昌とその時代』


永武幹子トリオ@本八幡cooljojo

2017-07-08 00:21:50 | アヴァンギャルド・ジャズ

本八幡のcooljojoにて永武幹子トリオ(2017/7/7)。

Mikiko Nagatake 永武幹子 (p)
Kosuke Ochiai 落合康介 (b)
Masatsugu hattori 服部マサツグ (ds) 

こんなにスーパーだったっけという印象。冒頭曲のスタンダード「I'll Be Seeing You」からいきなりびっくりする。凝っていて煌びやかでスピーディであり、80年代のキース・ジャレットを想起させられもする。2曲目はあっと驚くAtomicの曲(そういえば永武さんはニルセン・ラヴのファンだと書いていたことを思いだした)。そしてチャーリー・ヘイデンの「Sandino」、オスカー・ピーターソンの「Allegro」。

セカンドセットは一転してオリジナル曲を演奏。21拍子の曲、ダラー・ブランドにインスパイアされた曲、イスラエル・ジャズにインスパイアされた曲もあった。この多彩さも面白さのひとつである。アンコールはセロニアス・モンクの「Epistrophy」だが、これもまたユニークにためて弾いた。

印象が上書きされたのは永武さんだけではない。服部さんのドラムスは確信を持っているかのようにシンプル。落合さんのベースは中音域で実に巧みで柔軟に攻めるものだった。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4

●永武幹子
永武幹子+瀬尾高志+柵木雄斗@高田馬場Gate One(2017年)
MAGATAMA@本八幡cooljojo(2017年)
植松孝夫+永武幹子@北千住Birdland(JazzTokyo)(2017年)
永武幹子トリオ@本八幡cooljojo(2017年)


齋藤徹+今井和雄+ミシェル・ドネダ『Orbit 1』

2017-07-07 13:38:18 | アヴァンギャルド・ジャズ

齋藤徹+今井和雄+ミシェル・ドネダ『Orbit 1』(Travessia、2006年)を聴く。

Tetsu Saitoh 齋藤徹 (b)
Kazuo Imai 今井和雄 (g)
special guest:
Michel Doneda (ss)

「Orbit」は齋藤徹・今井和雄のコラボレーションに付せられたプロジェクトであり、CD化されたものとしては、前年の2005年に録音された『Orbit 2』(バール・フィリップス、ローレン・ニュートン、ウルス・ライムグルーバーが客演)、2009年にデュオのみで録音された『Orbit Zero』がある。また「Orbit」名義ではないものの、ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+齋藤徹+今井和雄+沢井一恵『Une Chance Pour L'Ombre』(2003年)もこれらに先立つ共演だった。

本盤は、「Orbit」の2とZeroとの間の2006年に、中野のPlan-Bで録音された、まるまる1時間の即興演奏である。

いきなり、ドネダの吹く風に巻き込まれる。自然の中で風が優しくも荒々しくも吹き、樹々が騒ぐ、そのようなありようを体現したソプラノサックスである。ドネダの癖というのか、キキキキキと横滑りしてくるフレーズも多発。音楽が強すぎて、幻視しました、としか言いようがないものだ。もちろんそれは今井和雄さんも齋藤徹さんも同じことであって、楽器を絞って演奏しているだけなのに、何が起きているのか把握しきることはできない。

今回のミシェル・ドネダとレ・クアン・ニンの来日は、テツさんを加えて「MLTトリオ」と命名されたのだが、テツさんは入院で少なくともツアーの半ばまでは参加できないことになった。だが、また次の機会を楽しみにすればよいだけのことである。まずは初日の2017年7月9日、松戸にて、ミシェル・ドネダ、レ・クアン・ニン、今井和雄。

>> MLT Trio Japan Tour

●齋藤徹
齋藤徹+喜多直毅@巣鴨レソノサウンド(2017年)
齋藤徹@バーバー富士(2017年)
齋藤徹+今井和雄@稲毛Candy(2017年)
齋藤徹 plays JAZZ@横濱エアジン(JazzTokyo)(2017年)
齋藤徹ワークショップ「寄港」第ゼロ回@いずるば(2017年)
りら@七針(2017年)
広瀬淳二+今井和雄+齋藤徹+ジャック・ディミエール@Ftarri(2016年)
齋藤徹『TRAVESSIA』(2016年)
齋藤徹の世界・還暦記念コントラバスリサイタル@永福町ソノリウム(2016年)
かみむら泰一+齋藤徹@キッド・アイラック・アート・ホール(2016年)
齋藤徹+かみむら泰一、+喜多直毅、+矢萩竜太郎(JazzTokyo)(2015-16年)
齋藤徹・バッハ無伴奏チェロ組曲@横濱エアジン(2016年)
うたをさがして@ギャラリー悠玄(2015年) 
齋藤徹+類家心平@sound cafe dzumi(2015年)
齋藤徹+喜多直毅+黒田京子@横濱エアジン(2015年)
映像『ユーラシアンエコーズII』(2013年)
ユーラシアンエコーズ第2章(2013年)
バール・フィリップス+Bass Ensemble GEN311『Live at Space Who』(2012年)
ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+齋藤徹@ポレポレ坐(2011年)
齋藤徹による「bass ensemble "弦" gamma/ut」(2011年)
『うたをさがして live at Pole Pole za』(2011年)
齋藤徹『Contrabass Solo at ORT』(2010年)
齋藤徹+今井和雄『ORBIT ZERO』(2009年)
齋藤徹、2009年5月、東中野(2009年)
ミシェル・ドネダと齋藤徹、ペンタックス43mm(2007年)
明田川荘之+齋藤徹『LIFE TIME』(2005年)
ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+齋藤徹+今井和雄+沢井一恵『Une Chance Pour L'Ombre』(2003年)
往来トリオの2作品、『往来』と『雲は行く』(1999、2000年)
齋藤徹+ミシェル・ドネダ+チョン・チュルギ+坪井紀子+ザイ・クーニン『ペイガン・ヒム』(1999年)
齋藤徹+ミシェル・ドネダ『交感』(1999年)
久高島で記録された嘉手苅林昌『沖縄の魂の行方』、池澤夏樹『眠る女』、齋藤徹『パナリ』(1996年)
ミシェル・ドネダ+アラン・ジュール+齋藤徹『M'UOAZ』(1995年)
ユーラシアン・エコーズ、金石出(1993、1994年)
ジョゼフ・ジャーマン 

●今井和雄
Psychedelic Speed Freaks/生悦住英夫氏追悼ライヴ@スーパーデラックス(2017年)
”今井和雄/the seasons ill” 発売記念 アルバム未使用音源を大音量で聴くイベント・ライブ&トーク@両国RRR(2017年)
第三回天下一Buzz音会 -披露”演”- @大久保ひかりのうま(2017年)
齋藤徹+今井和雄@稲毛Candy(2017年)
今井和雄『the seasons ill』(2016年)
Sound Live Tokyo 2016 マージナル・コンソート(JazzTokyo)(2016年)
広瀬淳二+今井和雄+齋藤徹+ジャック・ディミエール@Ftarri(2016年)
坂田明+今井和雄+瀬尾高志@Bar Isshee(2016年)
齋藤徹+かみむら泰一、+喜多直毅、+矢萩竜太郎(JazzTokyo)(2015-16年)
今井和雄 デレク・ベイリーを語る@sound cafe dzumi(2015年)
今井和雄、2009年5月、入谷
齋藤徹+今井和雄『ORBIT ZERO』(2009年)
バール・フィリップス@歌舞伎町ナルシス(2012年)(今井和雄とのデュオ盤)
ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+齋藤徹+今井和雄+沢井一恵『Une Chance Pour L'Ombre』(2003年)

●ミシェル・ドネダ
ミシェル・ドネダ『Everybody Digs Michel Doneda』(2013年)
ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+齋藤徹@ポレポレ坐(2011年)
ロル・コクスヒル+ミシェル・ドネダ『Sitting on Your Stairs』(2011年)
ドネダ+ラッセル+ターナー『The Cigar That Talks』(2009年)
ミシェル・ドネダと齋藤徹、ペンタックス43mm(2007年)
ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+齋藤徹+今井和雄+沢井一恵『Une Chance Pour L'Ombre』(2003年)
齋藤徹+ミシェル・ドネダ『交感』(1999年)
齋藤徹+ミシェル・ドネダ+チョン・チュルギ+坪井紀子+ザイ・クーニン『ペイガン・ヒム』(1999年)
ミシェル・ドネダ+アラン・ジュール+齋藤徹『M'UOAZ』(1995年)
ミシェル・ドネダ『OGOOUE-OGOWAY』(1994年)
ミシェル・ドネダ+エルヴィン・ジョーンズ(1991-92年)


二コラ・ハイン+ヨシュア・ヴァイツェル+アルフレート・23・ハルト+竹下勇馬@Bar Isshee

2017-07-07 09:10:23 | アヴァンギャルド・ジャズ

前夜の演奏が刺激的なものだったこともあり、また観たいと思い、千駄木のBar Issheeに足を運んだ(2017/7/6)。

Nicola Hein (g)
Joshua Weitzel (三味線, g)
Alfred 23 Harth (cl, bcl, voice)
Yuma Takeshita 竹下勇馬 (b)

はじめは竹下勇馬さんのベースソロ。かれの楽器にはさまざまな電子機器が貼りつけてあり、また、アナログ的に軋みながら動作する部品もある。それらと共存しながらの演奏は、向こう側からの音の出し入れが新鮮なものだった。その、出し入れは、弦に手を近づけるだけで行われてもいるのだった(まるでテルミンのように)。

つぎに、二コラ・ハイン、ヨシュア・ヴァイツェル、アルフレート・23・ハルトのドイツ人トリオ(かれらだけの談笑はドイツ語でなされており、ほとんどわからない)。ハルトの希望で照明をほとんど落とし、その代わりに、テレビのサンドストームを明かりとした。

ハルトは、まず、静かに不穏にクラリネットを吹いた。ヴァイツェルは三味線を振動子で震わせたり弾いたりして、大きな流れからのしなやかな逸脱を図る。それに対しハインはモーターでの回転盤で弦を擦ったりもし、連続的な音で攻める。突如音を止めるときのヴァイツェルとの絡みには、まるで邦楽のような匂いもした。

しかし、これは予兆に過ぎなかった。休憩後、竹下さんが加わって全員での演奏は、次第に強度を増してゆき、眼も耳もはなせなくなった。

ヴァイツェルは三味線からギターに持ち替えた。弦の3人が繰り広げる個性の違いは明らかで、そのことが、サウンドに単なる厚みではなく絶えざる彩りの変化を付加し、さらに面白さを増した。ハインの操るギターはまるで弾性体であり、弦と胴との違いを持たない。拳や金属板でギターを殴打する音には、ためらいを超えたときの凄みがある。ヴァイツェルはやはり逸脱に向かった。竹下さんの音は対照的に連続体ではなく、一音ごとの尖りがあった。

そしてハルトは、クラやバスクラを持ち替え、ときに喉にセンサーを付けてエフェクターで闇の向こうの唸りを発した。余裕というのか冗談というのか、いつまで聴いてもポテンシャルを把握できないような人である。

ハルトさんは、カシーバー時代のことや京都精華大学で行ったレクチャーのことなんかを語った。ついでに、「23」について尋ねてみた。

「ああそれは、アーティストとして活動を開始した1985年から付けたんだ」
「大友良英さんは23を付けずに書いていますよ」
「かれはその前の私の活動から知っているからだろう」
「カバラから取ったそうですが」
「うーん、まあね。それよりもあれだ。1+9+8+5は23だろ」
「!! ・・・で、呼ぶときは何と?ドライウントツヴァンツィヒ?」
「それでもいいし、トウェンティ・スリーでも、韓国語でイーシップサムでも、日本語の」「にじゅうさん」「でも、フランス語の○○(わからない)でもいいし。場所によって異なるマジックナンバーだ」

ところで、ハインさんが実に独特なギタリストだということを今回知ったわけだが、さらに興味深い録音もしているという。まずは8月頃に出る3枚組(ソロや、エレクトロニクスとの「オーケストラ」を含む)。そしてネイト・ウーリーとのデュオ(!)。

ヴァイツェルさんもハインさんもこれでひとまず日本を去るのだが、たぶん来年また来るという。

Fuji X-E2、XF35mmF1.4、XF60mmF2.4

●参照
大城真+永井千恵、アルフレート・23・ハルト、二コラ・ハイン+ヨシュア・ヴァイツェル+中村としまる@Ftarri(2017年)
『《《》》 / Relay』(2015年)
『《《》》』(metsu)(2014年)


大城真+永井千恵、アルフレート・23・ハルト、二コラ・ハイン+ヨシュア・ヴァイツェル+中村としまる@Ftarri

2017-07-06 07:35:10 | アヴァンギャルド・ジャズ

水道橋のFtarri(2017/7/5)。

■ 大城真+永井千恵

Makoto Oshiro 大城真 (self-made instruments)
Chie Nagai 永井千恵 (voice, objects)

虫の鳴き声かノイズかというような小さな音を、大城さんは奇妙な楽器類から発してゆく。スピーカーの中心に紐が結わえられ、天井へとつなげられている。また爆弾にも見える発振体。一方の永井さんも声が声としていかに成り立つのかを見極めるかのように、トライアルを続ける。ときに缶や風船を弄んだりもして。

中盤に、大城さんが大きな電子音を発するスピーカーをあちこちに置き始めた。その盛り上がりとともに永井さんも切り裂くような声を発し、ふたりの音が見事にシンクロした。

■ アルフレート・23・ハルト

Alfred 23 Harth (cl, bcl, vo)

さて主催のヨシュア・ヴァイツェルさんが何と紹介するのかと楽しみにしていたら、23は「ドライウントツヴァンツィヒ」ではなく「にじゅうさん」!

ハルトのパフォーマンスは、楽器の朝顔で壁を擦り、向こう側に語り掛けるところから始まった。それは実は、となりの神社にいる「狐さん」に向けられたものなのだった(てっきりドイツ語なので「Hi volks」と言っているのかと思ったのだが、あとでヨシュアさんが「ちがうよ、foxだよ」と教えてくれた。もっとも隣の神社は金毘羅さんではあるのだが)。

パフォーマンスは短めに区切られ、次に、クラリネット自体を擦り、そして、クラ、バスクラ、クラを順に吹いた。クラに再度持ち替えたときには、なんと、トランペットのマウスピースを装着した。面白い人である。

クラもバスクラも音がなかなか多彩であり、間合いをはかりがたい独特のユーモアとともに発した。

■ 二コラ・ハイン+ヨシュア・ヴァイツェル+中村としまる

Nicola Hein (g)
Joshua Weitzel (三味線)
Toshimaru Nakamura 中村としまる (no-input mixing board)

二コラ・ハインはギターをギターでないものであるように扱う。モーターで回る円盤で弦を擦り、鉄板や手でギターをばしばしと容赦なくスラップし、リズムや弦の不連続性を敢えて無視したひとつながりのものとしてサウンドを創っているようにみえた。

それに対し、ヨシュア・ヴァイツェルの三味線は、楽器が本来もつコードからの逸脱もあり、中村としまるの波のようなパルスとともに、ハインの創出するエクトプラズム的な連続体を揺るがさんとしていた。

ヨシュアさんはこの翌日のライヴを最後に、いったん日本を離れてカッセルに戻るそうである。

Fuji X-E2、XF35mmF1.4

●中村としまる
Spontaneous Ensemble vol.7@東北沢OTOOTO(2017年)
中村としまる+沼田順『The First Album』(2017年)
内田静男+橋本孝之、中村としまる+沼田順@神保町試聴室(2017年)


ウィレム・ブロイカー・コレクティーフ『The European Scene』

2017-07-05 00:24:23 | アヴァンギャルド・ジャズ

ウィレム・ブロイカー・コレクティーフ『The European Scene』(MPS、1975年)を聴く。LPオリジナル盤である。

Willem Breuker Kollektief:
Willem Breuker (cl, bcl, sax)
Bob Driessen (as)
Maarten Van Norden (ts)
Ronald Snijders (fl)
Boy Raaymakers (tp)
Jan Wolff (horn)
Willem Van Manen (tb)
Bernard Hunneking (tb)
Leo Cuypers (p)
Arjen Gorter (b) 
Rob Verdurmen (perc)

コレクティーフとしてはかなり初期の演奏であり、レーベルはBVHAASTではなくMPS。なぜかうきうきさせられる傑作『A Paris / Summer Music』よりもちょっと前である。レオ・キュイパーズはピアノに専念しており歌ってはいない。

初期とは言え、もうこの時点でコレクティーフらしさが花開いている。奇妙な明るさというのか、哄笑的というのか、とにかくハレの場で音楽という祭を創出するという意志に満ちているようである。焦燥感に駆られるように、前につんのめって、ともかくもペースを緩めずに走る。もう最高なのだ。

曲ごとにメンバーそれぞれの見せ場があり、面白いのだが、やはり最大のトリックスターはブロイカーだったようである。最後になってバスクラのソロを取り、ヘンな音を出しまくって客席を沸かせている。おそらくは劇場的なパフォーマンスでもあったのだろうな。

●ウィレム・ブロイカー、レオ・キュイパーズ
ウィレム・ブロイカーの映像『Willem Breuker 1944-2010』
ハン・ベニンク『Hazentijd』(2009年)
ウィレム・ブロイカーの『Misery』と未発表音源集(1966-94、2002年)
ウィレム・ブロイカーが亡くなったので、デレク・ベイリー『Playing for Friends on 5th Street』を観る(2001年)
レオ・キュイパーズ『Heavy Days Are Here Again』(1981年)
レオ・キュイパーズ『Corners』(1981年)
ウィレム・ブロイカーとレオ・キュイパースとのデュオ『・・・スーパースターズ』(1978年)
ギュンター・ハンペルとジーン・リーの共演盤(1968、69、75年)


フィル・ミントン+オッキュン・リー『Anicca』

2017-07-04 22:01:25 | アヴァンギャルド・ジャズ

フィル・ミントン+オッキュン・リー『Anicca』(Dancing Wayang、2009年)を聴く。350枚限定のLPである。

Phil Minton (voice)
Okkyung Lee (cello)

要するに、フィル・ミントンがヘンな声を出しまくり、オッキュン・リーが弦を擦るというものである。それにしてもふたりとも繰り出す技がデパートすぎる。従って要する意味はまるでない。

ミントンの声ときたら、心の底から純真に遊ぶようなスキャットもあり、喉から笛のような音を出したり、唸って何だかよくわからない倍音を出したり、朗々と民謡を唄うようであったりする。ときには異様に素早く動く。一方のオッキュン・リーは、チェロの胴体が破壊されるように全体がびりびりと不協和を起こしたり、弦の微分音でミントンのヴォイスと絡んだり。弦そのものが肌を持つ生き物のように艶めかしい。

そんなわけで、いちいち驚く。ナマで観るならいちいち痙攣するように笑ってしまうことだろう。

ライナーノートでは、クリスチャン・マークレイが書いている。なるほどね、というか、さすがの芸か。「You may recognize sounds like buzzing, shrieking, rustling, burping, spitting, plucking, gasping, vibrating, (この10倍くらい続く). But then again it will not sound like this at all. Words are powerless when it comes to describing what Okkyung Lee and Phil Minton are doing here.」

●フィル・ミントン
フィル・ミントン、2010年2月、ロンドン(2010年)
フィル・ミントン+ロジャー・ターナー『drainage』(2002年)
フィル・ミントン+ロル・コクスヒル+ノエル・アクショテ『My Chelsea』(1997年)
コクスヒル/ミントン/アクショテのクリスマス集(1997年)

●オッキュン・リー
オッキュン・リー+ビル・オーカット『Live at Cafe Oto』(2015年)
エヴァン・パーカー ElectroAcoustic Septet『Seven』(2014年)
アクセル・ドゥナー+オッキュン・リー+アキム・カウフマン『Precipitates』(2011、13年)
ジョン・エドワーズ+オッキュン・リー『White Cable Black Wires』(2011年)
エヴァン・パーカー+オッキュン・リー+ピーター・エヴァンス『The Bleeding Edge』(2010年)
オッキュン・リー+ピーター・エヴァンス+スティーヴ・ベレスフォード『Check for Monsters』(2008年)
オッキュン・リーのTzadik盤2枚(2005、11年) 


ニコラス・ペイトン『Letters』

2017-07-04 20:53:51 | アヴァンギャルド・ジャズ

ニコラス・ペイトン『Letters』(Paytone Records、2014年)を聴く。2枚組で発売直後はそれなりに高かったのだが、もうアウトレットのカゴに見つけることができるようになった。

Nicholas Payton (tp, p, Fender Rhodes, org, vo)
Vicente Archer (b)
Bill Stewart (ds)

前作の『Numbers』は、トランペットよりもフェンダーローズのほうを多用し、全体をダークな雰囲気でまとめたコンセプト・アルバムだった。そして本作では楽器をさらに増やしている。ときにはピアノトリオ、ときにはオルガントリオ。

ひとつひとつの曲は短く、完成度高くまとまっている。トランペットはどうなのかといえば、昔から変わらずエンジンの出力が半端なく大きいため、余裕を持って色気のある音が放たれている(90年代に来日して原朋直グループと対バンでやったときにはあまりの違いに驚愕してしまった)。この点ではジェレミー・ペルトよりも良いなとさえ思える。

しかし、なんでこんなに突破力が希薄なんだろう。サウンドのショーケースはもう要らないし、「BAM」という名のジャズに自らを押し込めることもないのだ。トランペットのトリオで1枚分厚いものを作ってくれればいいのに。

●参照
ニコラス・ペイトン『Numbers』(2014年)
ニコラス・ペイトン『#BAM Live at Bohemian Caverns』(2013年)


明田川荘之『This Here Is Aketa Vol.1』

2017-07-01 10:50:05 | アヴァンギャルド・ジャズ

明田川荘之『This Here Is Aketa Vol.1』(Offbeat Records、1975年)を聴く。

Shoji "THE R-ONE" Aketagawa 明田川荘之 (p)
Kouichi Yamazaki 山崎弘一 (b)
Takashi Miyasaka 宮坂孝 (ds)

「天才アケタ」24歳のときの作品。初リーダー作かどうかわからないがそれに近いものだろう。

ここでオリジナルもスタンダードも演奏しているのだが、既に、ベタな抒情と泣きのアケタ節を聴くことができるのが嬉しい。もっとも後年ほどは全面展開してはいないのだが、唯一性はすでにあった。ライナーノートに「この最高に狂った明田川のソロを馬鹿々々しいと思う人がもしいたら、そんなスクェアな人と話をするのをやめなさい。」とあって笑う。

●明田川荘之
明田川荘之『ライヴ・イン・函館「あうん堂ホール」』(2013年)
明田川荘之+齋藤徹『LIFE TIME』(2005年)
『生活向上委員会ライブ・イン・益田』(1976年)
中央線ジャズ


望月治孝『ガラスをとおして』

2017-07-01 09:09:26 | アヴァンギャルド・ジャズ

望月治孝『ガラスをとおして』(Armageddon Nova、2016年)を聴く。

Harutaka Mochizuki 望月治孝 (as)

何か目に視えない、超えられない障壁があるかのように、望月治孝のアルトは限界を表現する。息遣いの藪の中から管の共鳴が見え隠れする。その、マージナルな部分をのみ取り出して凝視するような音楽。


カラテ・ウリオ・オーケストラ『Garlic & Jazz』(JazzTokyo)

2017-07-01 07:26:16 | アヴァンギャルド・ジャズ

ヨアヒム・バーデンホルスト率いるカラテ・ウリオ・オーケストラの新作レコード『Garlic & Jazz』(KLEIN Records、2015年)のレビューを、JazzTokyo誌に寄稿させていただきました。

Carate Urio Orchestra:
Joachim Badenhorst (cl, sax, key, voice)
Sam Kulik (tb, g, voice)
Nico Roig (g, voice)
Brice Soniano (b, voice)
Sean Carpio (ds, g, voice)
Frantz Loriot (viola, voice)
Pascal Niggenkemper (b, voice)

>> #1424『Carate Urio Orchestra / Garlic & Jazz』

●ヨアヒム・バーデンホルスト
Spontaneous Ensemble vol.7@東北沢OTOOTO(2017年)
カラテ・ウリオ・オーケストラ『Ljubljana』(2015年)
パスカル・ニゲンケンペル『Talking Trash』(2014年)
ハン・ベニンク『Parken』(2009年)


「JazzTokyo」のNY特集(2017/7/1)

2017-07-01 07:08:48 | アヴァンギャルド・ジャズ

「JazzTokyo」のNY特集、Jazz Right Now(2017/7/1)。

■ 連載第23回 ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報

ニコール・ミッチェルへのインタビュー。翻訳・寄稿させていただきました。

蓮見令麻さんの連載「ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま 第15回 アリス・コルトレーンから紐解くニューヨークのヴァイナル・カルチャー」

アリス・コルトレーンの発掘盤『World Spirituality Classics 1: The Ecstatic Music of Alice Coltrane Turiyasangitananda』には驚かされたものだった。彼女の音楽とヴァイナル文化について。

●Jazz Right Now
「JazzTokyo」のNY特集(2017/5/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2017/4/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2017/3/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2017/2/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2016/10/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2016/9/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2016/8/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2016/7/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2016/6/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2016/5/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2016/4/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2016/1/31)
「JazzTokyo」のNY特集(2015/12/27)
「JazzTokyo」のNY特集(2015/11/21)
「JazzTokyo」のNY特集(2015/10/12)
「JazzTokyo」のNY特集(2015/8/30)
「JazzTokyo」のNY特集(2015/7/26)

●アリス・コルトレーン
アリス・コルトレーン『Translinear Light』(2000、2004年)
アリス・コルトレーン『Turiya Sings』(1981年)
アリス・コルトレーン『Universal Consciousness』、『Lord of Lords』(1971、1972年)
アリス・コルトレーン『Huntington Ashram Monastery』、『World Galaxy』(1969、1972年)