Sightsong

自縄自縛日記

齋藤徹+今井和雄+ミシェル・ドネダ『Orbit 1』

2017-07-07 13:38:18 | アヴァンギャルド・ジャズ

齋藤徹+今井和雄+ミシェル・ドネダ『Orbit 1』(Travessia、2006年)を聴く。

Tetsu Saitoh 齋藤徹 (b)
Kazuo Imai 今井和雄 (g)
special guest:
Michel Doneda (ss)

「Orbit」は齋藤徹・今井和雄のコラボレーションに付せられたプロジェクトであり、CD化されたものとしては、前年の2005年に録音された『Orbit 2』(バール・フィリップス、ローレン・ニュートン、ウルス・ライムグルーバーが客演)、2009年にデュオのみで録音された『Orbit Zero』がある。また「Orbit」名義ではないものの、ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+齋藤徹+今井和雄+沢井一恵『Une Chance Pour L'Ombre』(2003年)もこれらに先立つ共演だった。

本盤は、「Orbit」の2とZeroとの間の2006年に、中野のPlan-Bで録音された、まるまる1時間の即興演奏である。

いきなり、ドネダの吹く風に巻き込まれる。自然の中で風が優しくも荒々しくも吹き、樹々が騒ぐ、そのようなありようを体現したソプラノサックスである。ドネダの癖というのか、キキキキキと横滑りしてくるフレーズも多発。音楽が強すぎて、幻視しました、としか言いようがないものだ。もちろんそれは今井和雄さんも齋藤徹さんも同じことであって、楽器を絞って演奏しているだけなのに、何が起きているのか把握しきることはできない。

今回のミシェル・ドネダとレ・クアン・ニンの来日は、テツさんを加えて「MLTトリオ」と命名されたのだが、テツさんは入院で少なくともツアーの半ばまでは参加できないことになった。だが、また次の機会を楽しみにすればよいだけのことである。まずは初日の2017年7月9日、松戸にて、ミシェル・ドネダ、レ・クアン・ニン、今井和雄。

>> MLT Trio Japan Tour

●齋藤徹
齋藤徹+喜多直毅@巣鴨レソノサウンド(2017年)
齋藤徹@バーバー富士(2017年)
齋藤徹+今井和雄@稲毛Candy(2017年)
齋藤徹 plays JAZZ@横濱エアジン(JazzTokyo)(2017年)
齋藤徹ワークショップ「寄港」第ゼロ回@いずるば(2017年)
りら@七針(2017年)
広瀬淳二+今井和雄+齋藤徹+ジャック・ディミエール@Ftarri(2016年)
齋藤徹『TRAVESSIA』(2016年)
齋藤徹の世界・還暦記念コントラバスリサイタル@永福町ソノリウム(2016年)
かみむら泰一+齋藤徹@キッド・アイラック・アート・ホール(2016年)
齋藤徹+かみむら泰一、+喜多直毅、+矢萩竜太郎(JazzTokyo)(2015-16年)
齋藤徹・バッハ無伴奏チェロ組曲@横濱エアジン(2016年)
うたをさがして@ギャラリー悠玄(2015年) 
齋藤徹+類家心平@sound cafe dzumi(2015年)
齋藤徹+喜多直毅+黒田京子@横濱エアジン(2015年)
映像『ユーラシアンエコーズII』(2013年)
ユーラシアンエコーズ第2章(2013年)
バール・フィリップス+Bass Ensemble GEN311『Live at Space Who』(2012年)
ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+齋藤徹@ポレポレ坐(2011年)
齋藤徹による「bass ensemble "弦" gamma/ut」(2011年)
『うたをさがして live at Pole Pole za』(2011年)
齋藤徹『Contrabass Solo at ORT』(2010年)
齋藤徹+今井和雄『ORBIT ZERO』(2009年)
齋藤徹、2009年5月、東中野(2009年)
ミシェル・ドネダと齋藤徹、ペンタックス43mm(2007年)
明田川荘之+齋藤徹『LIFE TIME』(2005年)
ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+齋藤徹+今井和雄+沢井一恵『Une Chance Pour L'Ombre』(2003年)
往来トリオの2作品、『往来』と『雲は行く』(1999、2000年)
齋藤徹+ミシェル・ドネダ+チョン・チュルギ+坪井紀子+ザイ・クーニン『ペイガン・ヒム』(1999年)
齋藤徹+ミシェル・ドネダ『交感』(1999年)
久高島で記録された嘉手苅林昌『沖縄の魂の行方』、池澤夏樹『眠る女』、齋藤徹『パナリ』(1996年)
ミシェル・ドネダ+アラン・ジュール+齋藤徹『M'UOAZ』(1995年)
ユーラシアン・エコーズ、金石出(1993、1994年)
ジョゼフ・ジャーマン 

●今井和雄
Psychedelic Speed Freaks/生悦住英夫氏追悼ライヴ@スーパーデラックス(2017年)
”今井和雄/the seasons ill” 発売記念 アルバム未使用音源を大音量で聴くイベント・ライブ&トーク@両国RRR(2017年)
第三回天下一Buzz音会 -披露”演”- @大久保ひかりのうま(2017年)
齋藤徹+今井和雄@稲毛Candy(2017年)
今井和雄『the seasons ill』(2016年)
Sound Live Tokyo 2016 マージナル・コンソート(JazzTokyo)(2016年)
広瀬淳二+今井和雄+齋藤徹+ジャック・ディミエール@Ftarri(2016年)
坂田明+今井和雄+瀬尾高志@Bar Isshee(2016年)
齋藤徹+かみむら泰一、+喜多直毅、+矢萩竜太郎(JazzTokyo)(2015-16年)
今井和雄 デレク・ベイリーを語る@sound cafe dzumi(2015年)
今井和雄、2009年5月、入谷
齋藤徹+今井和雄『ORBIT ZERO』(2009年)
バール・フィリップス@歌舞伎町ナルシス(2012年)(今井和雄とのデュオ盤)
ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+齋藤徹+今井和雄+沢井一恵『Une Chance Pour L'Ombre』(2003年)

●ミシェル・ドネダ
ミシェル・ドネダ『Everybody Digs Michel Doneda』(2013年)
ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+齋藤徹@ポレポレ坐(2011年)
ロル・コクスヒル+ミシェル・ドネダ『Sitting on Your Stairs』(2011年)
ドネダ+ラッセル+ターナー『The Cigar That Talks』(2009年)
ミシェル・ドネダと齋藤徹、ペンタックス43mm(2007年)
ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+齋藤徹+今井和雄+沢井一恵『Une Chance Pour L'Ombre』(2003年)
齋藤徹+ミシェル・ドネダ『交感』(1999年)
齋藤徹+ミシェル・ドネダ+チョン・チュルギ+坪井紀子+ザイ・クーニン『ペイガン・ヒム』(1999年)
ミシェル・ドネダ+アラン・ジュール+齋藤徹『M'UOAZ』(1995年)
ミシェル・ドネダ『OGOOUE-OGOWAY』(1994年)
ミシェル・ドネダ+エルヴィン・ジョーンズ(1991-92年)


二コラ・ハイン+ヨシュア・ヴァイツェル+アルフレート・23・ハルト+竹下勇馬@Bar Isshee

2017-07-07 09:10:23 | アヴァンギャルド・ジャズ

前夜の演奏が刺激的なものだったこともあり、また観たいと思い、千駄木のBar Issheeに足を運んだ(2017/7/6)。

Nicola Hein (g)
Joshua Weitzel (三味線, g)
Alfred 23 Harth (cl, bcl, voice)
Yuma Takeshita 竹下勇馬 (b)

はじめは竹下勇馬さんのベースソロ。かれの楽器にはさまざまな電子機器が貼りつけてあり、また、アナログ的に軋みながら動作する部品もある。それらと共存しながらの演奏は、向こう側からの音の出し入れが新鮮なものだった。その、出し入れは、弦に手を近づけるだけで行われてもいるのだった(まるでテルミンのように)。

つぎに、二コラ・ハイン、ヨシュア・ヴァイツェル、アルフレート・23・ハルトのドイツ人トリオ(かれらだけの談笑はドイツ語でなされており、ほとんどわからない)。ハルトの希望で照明をほとんど落とし、その代わりに、テレビのサンドストームを明かりとした。

ハルトは、まず、静かに不穏にクラリネットを吹いた。ヴァイツェルは三味線を振動子で震わせたり弾いたりして、大きな流れからのしなやかな逸脱を図る。それに対しハインはモーターでの回転盤で弦を擦ったりもし、連続的な音で攻める。突如音を止めるときのヴァイツェルとの絡みには、まるで邦楽のような匂いもした。

しかし、これは予兆に過ぎなかった。休憩後、竹下さんが加わって全員での演奏は、次第に強度を増してゆき、眼も耳もはなせなくなった。

ヴァイツェルは三味線からギターに持ち替えた。弦の3人が繰り広げる個性の違いは明らかで、そのことが、サウンドに単なる厚みではなく絶えざる彩りの変化を付加し、さらに面白さを増した。ハインの操るギターはまるで弾性体であり、弦と胴との違いを持たない。拳や金属板でギターを殴打する音には、ためらいを超えたときの凄みがある。ヴァイツェルはやはり逸脱に向かった。竹下さんの音は対照的に連続体ではなく、一音ごとの尖りがあった。

そしてハルトは、クラやバスクラを持ち替え、ときに喉にセンサーを付けてエフェクターで闇の向こうの唸りを発した。余裕というのか冗談というのか、いつまで聴いてもポテンシャルを把握できないような人である。

ハルトさんは、カシーバー時代のことや京都精華大学で行ったレクチャーのことなんかを語った。ついでに、「23」について尋ねてみた。

「ああそれは、アーティストとして活動を開始した1985年から付けたんだ」
「大友良英さんは23を付けずに書いていますよ」
「かれはその前の私の活動から知っているからだろう」
「カバラから取ったそうですが」
「うーん、まあね。それよりもあれだ。1+9+8+5は23だろ」
「!! ・・・で、呼ぶときは何と?ドライウントツヴァンツィヒ?」
「それでもいいし、トウェンティ・スリーでも、韓国語でイーシップサムでも、日本語の」「にじゅうさん」「でも、フランス語の○○(わからない)でもいいし。場所によって異なるマジックナンバーだ」

ところで、ハインさんが実に独特なギタリストだということを今回知ったわけだが、さらに興味深い録音もしているという。まずは8月頃に出る3枚組(ソロや、エレクトロニクスとの「オーケストラ」を含む)。そしてネイト・ウーリーとのデュオ(!)。

ヴァイツェルさんもハインさんもこれでひとまず日本を去るのだが、たぶん来年また来るという。

Fuji X-E2、XF35mmF1.4、XF60mmF2.4

●参照
大城真+永井千恵、アルフレート・23・ハルト、二コラ・ハイン+ヨシュア・ヴァイツェル+中村としまる@Ftarri(2017年)
『《《》》 / Relay』(2015年)
『《《》》』(metsu)(2014年)