原題:『Cosmopolis』
監督:デヴィッド・クローネンバーグ
脚本:デヴィッド・クローネンバーグ
撮影:ピーター・サシツキー
出演:ロバート・パティンソン/ポール・ジアマッティ/サマンサ・モートン/ジュリエット・ビノシュ
2012年/フランス・カナダ・ポルトガル・イタリア
読みにくいエンターテインメント
『アウトレイジ』(北野武監督 2010年)の冒頭のパロディのような、オープニングの連なる白いリムジンの映像で、かなりの期待を持たせるものの、一般のSF作品のような派手さを最後まで見せない本作に我慢できずに途中で席を立ってしまった観客に対してかける慰めの言葉は持ち合わせていないが、‘味読’してみれば見えてくるものはある。
主人公で投資家のエリック・パッカーは、28歳にして大富豪で、ニューヨークの街を走る白いリムジンの中に最先端のハイテク装備を施して仕事場にしているが、国際通貨が中国の人民元になったことから、‘読み’が難しくなり、もはや通貨は人々に楽しみをもたらすことのない「ネズミ」と呼ばれるようになっていた。エリックにはエリーズ・シフリンという妻がいるのであるが、エリックがエリーズに出会えるのは彼女のタクシーの中や本屋であり、一緒に食事はするものの夫婦関係が無い原因はエリックが浮気を疑われているからであろう。代わりにエリックは絵画のコンサルタントを務めているディディ・ファンチャーやボディガードのキンドラ・ヘイズとひと時の‘逢瀬’を楽しんでいる。エリックは投資の代わりになるような楽しみを探していたが、ロスコーチャペルの購入はディディに反対される。そのような時に友人でラップミュージシャンのブラザ・フェズが死んだことを教えられる。何とフェズはラップミュージシャンらしい事件や抗争に巻き込まれて死んだのではなく、普通に病気で死んでしまっていた。やがてエリックはアンドレ・ペトレスクという反資本主義者に顔面にパイを投げつけられる。アンドレは4、5人のパパラッチを引き連れており、その一部始終を写真に撮らせることでシニカルな享楽を満喫している。エリックは毎日のようにメディカルチェックを受けているのであるが、ある日、医師から前立腺の歪みを指摘される。
命が狙われているということで、通りの向かい側にあるにも関わらずなかなか馴染みの床屋に行かせてもらえず、様々な鬱屈が溜まっていたエリックは、ボディガードのトーヴァルを銃殺して運転手と共に父親の世代から馴染みの床屋を訪れる。食事をして髪も右半分を切ってもらった頃、銃を持っていないことを知った理髪師は、護身用にとエリックに自分の銃を渡す。エリックは散髪の途中で運転手と帰宅し、リムジン置き場で銃撃を受ける。ベノ・レヴィンという名の暗殺者はかつてエリックの会社で働いていた男だった。自分で左手の甲を撃ち抜いたエリックにベノは人民元に関しても前立腺に関しても完璧を求めるから却って上手くいかなくなることを教え、最後にエリックの頭に銃口を突きつけながらも、救いを求める。その救いとは金銭では手に入らないエンターテインメントであるはずなのだが、高度資本主義を止められない中で、エンターテインメントはシニカルにならざるを得ず、それは‘完璧’の本作も免れてはいないと思う。