原題:『Killing Them Softly』
監督:アンドリュー・ドミニク
脚本:アンドリュー・ドミニク
撮影:グレッグ・フレイザー
出演:ブラッド・ピット/リチャード・ジェンキンス/ジェームズ・ギャンドルフィーニ
2012年/アメリカ
表社会と闇社会の政治の起源
作品冒頭でフランキーが歩いている中で流れるスピーチは2008年アメリカ大統領選挙で共和党候補のジョン・マケイン上院議員と対決していたバラク・オバマ上院議員のものである。「リス」と呼ばれているジョニー・アマートの儲け話に乗っかり、フランキーがヘロイン中毒で犬泥棒のラッセルと共にマーキーが主催しているポーカー賭博場を襲撃している最中に、静まり返った賭博場の中でテレビから流れているスピーチは当時のジョージ・W・ブッシュ大統領が国の財政危機を訴えているものである。その後も、たびたび財政危機を巡るブッシュとオバマのスピーチが流れ、問題を解決した殺し屋のジャッキー・コーガンが連絡員の「ドライバー」から報酬を受けとっているバーでは選挙に勝利したオバマがアメリカの自由を力説している様子がテレビで放送されるように、本作は極めて政治色が濃いものであるのだが、もちろん本作における政治とは、作品が始まってからおよそ25分後にようやく現れるブラッド・ピットが演じるジャッキー・コーガンの闇社会における暗躍である。表社会では民主主義により正当な手続きでトップが選ばれる。裏社会においても秩序は必要で、誰が仕切るのかは実力次第であろう。ジャッキー・コーガンの手腕は極めて正確で、事件に関わったジョニー、フランキー、ラッセル、マーキーの始末の手筈を整える。ジョニーに顔を知られていたジャッキーはニューヨークからミッキーを呼び寄せるのであるが、酒乱のミッキーが使い物にならないと悟ると売春婦を使って警察に逮捕させ、ヘロイン中毒だったラッセルも麻薬所持の現行犯で警察に逮捕させる一方、2人の仲間がマーキーを雨が降る中でボコボコにするような生ぬるいことはせずに、タイトルの「Killing Them Softly」通りに銃で「一気にマーキー、ジョニー、フランキーを殺す」。『レザボア・ドッグス』(クエンティン・タランティーノ監督 1992年)を彷彿とさせる作風は、ジャッキーの問題解決の鮮やかさによる闇社会の政治の起源を表社会の政治同様に、第3代アメリカ合衆国大統領のトーマス・ジェファーソンに見るというジャッキーの捨て台詞で、より強烈な皮肉が込められることになる。