原題:『舟を編む』
監督:石井裕也
脚本:渡辺謙作
撮影:藤澤順一
出演:松田龍平/宮崎あおい/オダギリジョー/黒木華
2013年/日本
言葉に対するこだわり不足について
評判は良い作品のようであるが、主人公の馬締光也が営業部から異動してきた、新しい辞書『大渡海(だいとかい)』の編纂を進める玄武書房の辞書編集部にリアリティが感じられない。もちろん見出し語24万語という大辞書の編纂過程をメインとして描いているのであるから、早雲荘の大家さんであるタケが亡くなる様子も、馬締光也と林香具矢の結婚シーンも、松本朋佑が亡くなる様子も敢えて描かないということは理解しつつも、ところでこの辞書編集部の部長は誰なのかと考えると、やがて他の部署に異動してしまう西岡正志であるはずはないし、人事異動に松本朋佑が関わっている風にも見えず、頼りなさそうな馬締に部長の職まで託されているようにも思えず、原作では気にならなかったことが気になってしまう理由は、意外と小説ほどには本作が言葉にこだわっていないためである。例えば、馬締が香具矢に認めたという巻紙に書かれた恋文は余りにも達筆で読めないということで香具矢は口頭で馬締の愛を確かめようとするのであるが、巻紙に書かれた恋文の内容が明らかにされることがなく、これではいわゆる「エクリチュール」と「パロール」の比較の妙など楽しませられるわけもなく、馬締が辞書編纂に苦しむ様子を、辞書のタイトルにかけて‘海’の中で溺れるというイメージの作り方もチープで、本作よりも三浦しをんの小説の方が言葉に関するネタが多いだけ面白いと思う次第である。