原題:『Beasts of the Southern Wild』
監督:ベン・ザイトリン
脚本:ルーシー・アリバー/ベン・ザイトリン
撮影:ベン・リチャードソン
出演:クヮヴェンジャネ・ウォレス/ドワイト・ヘンリー
2012年/アメリカ
悲しみの和解
南ルイジアナ州の沼沢地の入り江に「バスタブ島」と呼ばれるコミュニティがあり、そこの住人は堤防を挟んだ向かい側の先進文化を拒絶して生きている。早くに母親を亡くしていた5歳のハッシュパピーは、何故か娘を「ボス」と呼ぶ父親のウィンクと一緒に暮らしていたが、体調がすぐれないせいもあって家に戻らない時もあり、癇癪持ちの父親に似たハッシュパピーは鍋の火力を上げて火災を起こし、自宅を全焼させてしまう。
そんなある日、嵐がバスタブ島を襲う。嵐が去った後に、助かったハッシュパピーとウィンクは島を巡って生存者を探し始める。島の海水がなかなか引かないためにダイナマイトで堤防を破壊するものの、海水が引いた後の島は壊滅状態だった。やがて関係当局から避難命令が発動され、生き残った住人たちは避難シェルターに強制的に移動させられるのであるが、ハッシュパピーは避難民たちと、病床に臥せっていたウィンクも連れて「Old Glory(古い栄光)」というバスに乗ってバスタブ島に戻る。ハッシュパピーは友人4人と共に母親を探す旅に出る。海で泳いでいると「Glumpy(気難しい)」という名のボートの船長に引き上げられて、事情を聞いた船長はハッシュパピーたちを海に浮かぶナイトクラブに連れて行く。確かにそこでは多くの女性が働いており、ハッシュパピーたちはつかの間の‘母親のぬくもり’を堪能することになる。ハッシュパピーたちはそこで働きながら暮らすことも出来たのであるが、ハッシュパピーたちは敢えて‘楽園’を捨ててバスタブ島に戻るのである。
作品の中にしばしば出てくるオーロクスと呼ばれる野牛たちのイメージは、バスタブ島を襲う様々な災難の象徴であり、クライマックスで小さなハッシュパピーが大柄のオーロクスと対峙し、‘和解’するシーンは、結局、ウィンクの白血病が治ることはなく亡くなってしまうとしてもハッシュパピーのみならず、住人たちの「自然」を受け入れるという「南部未開地」で生きる覚悟が感じられるのである。