原題:『Hitchcock』
監督:サーシャ・ガヴァシ
脚本:ジョン・マクラフリン
撮影:ジェフ・クローネンウェス
出演:アンソニー・ホプキンス/ヘレン・ミレン/スカーレット・ヨハンソン
2012年/アメリカ
芸術家の幸福について
作品冒頭は『サイコ』(1960年)の原作の主人公であるノーマン・ベイツのモデルとされた実在の人物、エド・ゲインが兄のヘンリーを撲殺する場面から始まり、それを横で見ていたアルフレッド・ヒッチコックの解説が付くというものであり、最後にも家の周囲を警察に囲まれ慌てるエド・ゲインを背後からヒッチコックが見ているのであるが、どうもこのエド・ゲインに対するヒッチコックのこだわりが、『サイコ』という作品に具体的にどのように影響したのかが上手く描かれていない。寧ろ主演のジャネット・リーの有名なシャワーシーンで見せたヒッチコックの狂気は、妻のアルマ・レヴィルと脚本家のホイットフィールド・クックの逢引に端を発しているはずであり、実際にそれはクックが脚本に参加したロバート・Z・レナード監督の『秘めたる心(The Secret Heart)』(1946年)という引用された映像のタイトルからも暗示されており、ヒッチコックの浮気がマザーコンプレックスを原因にしているとしても、ヒッチコックの‘映画’とエド・ゲインの‘工芸’がマザコンを介して上手くつながっていないのであるが、アルマがクックの別荘で楽しく書き上げた脚本「タクシーでドゥブロヴニクまで(Taxi To Dubrovnik)」はヒッチコックによって酷評されても、長年に渡る夫との様々な葛藤を経て作られた一連の映画が高い評価を得ているということは、改めて幸せとは何なのか考えさせられる。