原題:『好色家族 狐と狸』
監督:田中登
脚本:宮下教雄
撮影:安藤庄平
出演:田中真理/堺美紀子/高山千草/小森道子/原英美/山口明美/影山英俊
1972年/日本
灰とダイヤモンドの「類似性」について
タイトルの「狐と狸」と来るならば次のフレーズは「ばかし合い」と続くように本作の登場人物たちはなかなかアイデンティティーが定着しない。まず主人公の宝田タマ子の母親である宝田ユメを診察した医師が医師免許を持たない偽者であり、だからといって診察そのものは正確だったとしてもカルテそのものが別人のものだったためにユメが3日後に末期がんで死ぬはずもなく、だからといって必ず死なないということではなく、娘に遺産を残したくないという一心で金庫に入れてあったダイヤモンドを大量に飲み込んだことによる窒息死でユメは本当に死んでしまうのである。
ユメの娘たちの父親はそれぞれ違い、長女のクラ子の亭主の古田は真面目そうに見えるが実は下着泥棒で、次女のカネ子の亭主はヤクザの親分なのだが失踪中で弟分の高森が付き添いで一緒に来ているのであるが、カネ子の本当の亭主は既に新しい妻と子供もいてカネ子に離婚届を突き付ける。三女のキン子と四女のギン子は二卵性双生児ではあるがギン子は男と縁がなくギン子は女優の卵で全く似ていない。ギン子はアブノーマルなセックスを好み、タマ子のボーイフレンドの新川をベッドに誘うのであるが、とりあえず新川がしたいことはセックスではなく小便だった。
タマ子の部屋にベンチャーズ(The Ventures)のアルバム『Surfing』とイーゴリ・ストラヴィンスキー(Igor Stravinsky)のアルバム『兵士の物語(L'Histoire du Soldat)』が一緒に飾ってあるように、タマ子の趣味の志向は全く定まらず、何を考えているのか分からない。結局、ユメの遺体の口から飛び出してきたダイヤの指輪をユメと一緒に燃やしてしまうからである。
だからスラップスティック・コメディ映画というよりもテレビのホームドラマのパロディーとして観た方が面白いように思うのだが、ラストシーンは火葬中の穴を覗く身内たちが映し出される。それは火葬されているユメの視点なのであるが、ユメは本当に死んだのであろうか?