原題:『実録阿部定』
監督:田中登
脚本:いどあきお
撮影:森勝
出演:宮下順子/江角英明/坂本長利/橘田良江/花柳幻舟
1975年/日本
「尖端」の取り扱いについて
作品前半は主人公の阿部定と石田吉蔵が旅館の一室に籠って少々危険な情事に明け暮れる日々が描かれ、定が吉蔵の首を絞めて殺し、斬り落とした局部を持ったまま行方をくらましてから、定の過去が描かれることになる。
定の実家は畳職人の裕福な家族だった。彼女が5歳の時には目の前で父親が畳縁を大きな針で突き刺す様子を目撃しており、男に処女を奪われた15歳の頃から生活が荒れ始め、18歳の時には父親から錐で着物のあちらこちらを刺されて動けなくさせられ、ここから「尖端」に対するトラウマが生まれたのかもしれない。
家出をして様々な職業を経験し、様々な名前を騙りながら、時には「ナイフ」を持った男たちに追いかけられ、31歳で石田吉蔵が経営する料理屋に女中として働きだしてから、2人は親密になったのである。
「尖端」恐怖症である定はそれでも「尖端」という食い扶持無しでは生きていけない。だから一番好きな男の「尖端」を個人で所有することでようやく自分のアイデンティティーを確立することが出来たのである。『好色家族 狐と狸』(1972年)の登場人物たちの不確かなアイデンティティーの物語から、『人妻集団暴行致死事件』(1978年)の「屍姦」の物語に至るまでのブリッジを司っている作品だと思う。