MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『ナイフ・プラス・ハート』

2023-08-05 22:10:40 | goo映画レビュー

原題:『Knife + Heart』
監督:ヤン・ゴンザレス
脚本:ヤン・ゴンザレス/クリスティアーノ・マンジョーネ
撮影:シモン・ボーフィス
出演:ヴァネッサ・パラディ/二コラ・モーリー/ケイト・モラン/ジョナサン・ジェネット/フェリックス・マリトー
2018年/フランス・メキシコ

作品のテーマの不明瞭さについて

 なかなか評価するのが難しい作品だと思うのだが、時代背景は考慮されるべきだと思う。1979年のパリで、主人公のアンはゲイ映画の監督とプロデューサーを兼ねている。アン自身も同性愛者で何故か元恋人だったルイスは今でもアンの作品の編集を手掛けている。
 よくよく考えるならば、1979年のゲイ映画に携わる人間は、優秀な人材ならば自身がゲイであることを隠してメジャー作品に出演するはずだから、実質、ゲイ映画はゲイの人たちが作りゲイの人たちだけで観賞する「内輪ウケ」するものになりがちである。言い換えるならばメジャー映画が大学院の映画学科で制作されるものであるとするならば、ゲイ映画は映画同好会、あるいは映画サークルで制作されるようなもので、そのクオリティには雲泥の差が生じるであろうことは想像に難くないし、実際に、周囲で殺人事件が起こっているにも関わらず警察が動こうとしないのは偏見によるものであろう。しかし一見グダグダに見える映像ながら上手く撮れていると思う理由は、ゲイ映画であるにも関わらず一度も陰部が見えないことで、それが本作のクオリティを保証しているはずである。
 ストーリーは明瞭ではないが、犯人はアンの前回の作品に出演していたガイという男性で火事で顔全体を火傷していたのであるが、おそらく誰にも助けられなかったことに対する恨みが男根をナイフに変えさせたように見える。
 ところでラストにアンとルイスが和解したように見えるのだが、カメラマンのフランシスに撮影に集中するように促されたアンは消えていくルイスを目撃する。ルイスが実在する人物なのかよく分からなくなるのだが、それは本作が、あるいは映画内映画が本当に「編集」されているのかという疑問を生じさせもする。
 また日本語字幕に関することなのだが、アンが現在撮っている作品は『Homicidal』で、これは『怒りのアナル』と訳されていたと思うが、元々「ゲイ殺し」という意味だからこれは悪くはない。しかしアンが1977年に撮った作品は『De Sperme......et D'eau Fraiche』で、これが『精液と孤立した田園』と訳されているのであるが、これは『精液と冷たい水』という意味で、熱い液体と冷たい液体を対照させたはずなのである。ところが英語版のウィキペディアを見ると英語で『Spunk and the Land Alone』となっており、これならば『精液と孤立した田園』で良いのである。そもそもタイトルからして英語では邦題と同じ「ナイフ・プラス・ハート」なのだが、フランス語では「心の中のナイフ(Un couteau dans le cœur)」で微妙に違っており、この不明瞭なタイトルのつけ方からして、テーマをはっきりさせない監督の作品意図が感じられるのである。
gooニュース
https://news.goo.ne.jp/article/eiga_log/entertainment/eiga_log-148166


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