青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。日々の情景の中を走る地方私鉄を追い掛けています。

白砂利の 瞼に見えた 白昼夢。

2023年08月24日 17時00分00秒 | 北条鉄道

(書き文字に歴史ありて@播磨下里駅)

北条鉄道ぶらぶら旅。お次は網引から三つ戻って播磨下里駅。ここの駅もたいそう古い播州鉄道時代からの年代物の木造駅舎が残されている。そしてその駅の壁に掛けられている駅名標の年代モノっぽいところは凄い。何度も書き直されては使われているものと見えて、下に右書きの駅名が透けて見える。右書きって事は相当昔なので、これも開業当時からのものなのかな?と思ったのだけど、この播磨下里駅、開業当時は播鉄王子(ばんてつおうじ)駅という名前だったそうな。なにそのカッコいい駅名。ハンカチ王子とか青汁王子みたいじゃん(笑)。

播磨下里の駅前。砂利敷きの車寄せに渋焦げ色の木造駅舎。自動販売機が少し無粋ですが、この時期コイン一つで水分が摂取出来るシステムというものはたいそうありがたいものです。焼けつくような真夏のトップライトが燦々と降り注ぐ駅前広場は、白い砂利に光が跳ね返って非常に照り返しがキツく、暑さでぼうっとする頭の中で白昼夢のように見える。先ほど網引の駅で、鶉野飛行場と特攻隊のお話なんかについてスマホでポチポチと調べていたものだから、こんな暑い夏の日はどうしてもこの駅からも兵隊に取られて出征して行った人が居たであろうシーンだとか、駅前にラジオを置いてみんなで首を垂れながら聞いた終戦の玉音放送だとか、そういう「どこかで見たような太平洋戦争モノの何か」が走馬灯のように頭の中を去来して、タイムスリップに陥ったようになったのでありました。

播磨下里駅前広場の奥にある農家のお店「ぬくもり亭」。北条鉄道を応援する有志の方々によって運営されているようで、近郷近在の農産物や雑貨、お店の中では持ち帰りのスナックフードや軽食も取れたりします。駅前にボーっと突っ立ってるとどうにも倒れそうなくらいの暑さなので、次の列車が来るまでお店に避難させてもらってアイスコーヒーなんぞをいただく。何か食べてみようかな?と思ったのだが、まだお昼ご飯の時間には早過ぎるので、卓上のゆで卵を一つ貰って食べてみるとこれが滅法美味い。壁に貼られた案内書きを見てみると、どうやら近所の養鶏場で獲れたタマゴで作っているものらしいのだが、半熟のゆで加減と塩味のつけ加減といい絶妙であった。たかだかゆで卵でそんなに感動する事もないと思うのだが、もし播磨下里の駅に立ち寄ることがあるのなら、ゆで卵を食べて欲しい(笑)。

今は1面1線の単式ホームだけの播磨下里の駅ですが、ホームの反対側にはホームらしき石積みが残っていて、かつては列車の交換も出来たのだろうか。それとも、小規模な貨物を積み下ろす貨物ホームの跡だったりするのだろうか。なんとなーくホームの向こう側の平地にかつては農業倉庫とかあったっぽいですね、という感じ。過去の文献を紐解くと、播州鉄道時代から北条線は播州織という織物や沿線の農産物の出荷がメインの貨物輸送が行われており、そう思うと、行き止まりの側線と貨物ホームに、有蓋車が1両2両繋がれて放置されているような景色が見えて来た。なべて私の一人の旅は、考察・推察・妄想で成立しているのだなあと思う。


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