(雪原を行く@柏農高校前駅)
赤い待合室がチャームポイントの、柏農高校前の駅。通学時間には多くの学生たちが乗り降りをした駅のホームは、朝の輸送力列車のために非常に長いものになっている。ただ、既に朝の輸送力列車を止めてしまった駅のホームは、2両編成の電車が止まる場所以外は除雪もされないままだ。津軽の白く染まる沃野の中を、遠くから弘南線の電車がやってくる。見渡す限りの白い世界だが、この雪が涵養する豊かな水が大地を潤し、春の雪解けが田園を潤し、夏の陽射しが稲穂を育て、秋の実りに繋がっている。また、雪で冷やし込まれることによって病害虫が息絶え、土壌が清浄化される効果もある。そして雪の下でじっと冬を越す小さな動物や昆虫は、春の訪れを前に動き始めて、雪混じりの田んぼの土をせっせせっせとこねくり回し、ふっくらと空気を含むよい土になるのだそうだ。自然というものは非常に良く出来ていて、そして深遠である。
さて、そんなこんなで弘前の街から館田温泉で朝湯を使い、平賀の街の方面へ繰り出しつつぼちぼちとカメラを握って撮り歩いていると、にわかに腹が減ってきた。そういえば、朝から夜行バスに乗る前に上野のセブンイレブンで買ったスティックパンしか口にしていない。旅に出ると、とりあえず行動を起こすことが先になってしまって腹が減っても適当に食事とも言えないようなコンビニメシで食いつないでしまう。そもそも、もう弘南線沿線に来る回数も増えてきた中で、そこまでガッツリと線路っぱたにいるのも芸がない。地方のローカル私鉄を味わうことは、その路線が走る街に惚れ込むことでもある。たまにはそういう街場のお店でも・・・ということで、平賀の街中で見つけた食堂へ入ってみた。入った理由は、目に入ったから何となく・・・というのが一番だが、11時過ぎでまだ早い時間なのに結構クルマが止まってたから。少なくとも一定の地元人気がありそうで、悪くないんじゃないかなあと。
暖簾をくぐり、がらりと扉を開けると雪落としの小部屋がある造りがいかにも北国の食堂。少し古びたショーケースに並ぶ食品サンプルの数々・・・おお、まさに昭和の食堂という感じの、和洋中なんでもありのレトロなラインナップ。そしてわざわざ「出てくるものはサンプルと少々異なる場合があります」みたいなことが書いてあるのもバカ丁寧だ。中に入ると思いのほか店内は広々としていて、真ん中でダルマストーブが赤々と燃えている。入口の近くの椅子に座ったおっちゃんが一人だけ、大きな灰皿を貰ってうまそうにタバコをふかしていた。あれ、止まっているクルマのヌシたちはどこへ行ったのかと思ったのだが、奥から賑やかな声が時折聞こえて来て、会合なのか寄合なのか、まあそういうものをやっているらしい。
旅する先の孤独のグルメ。ラーメンひとつ頼むにも、細切れちぢれ麺と手打ち風太麺の二つから選べるというのも心憎い。井之頭五郎であれば、これだけで注文に5分は悩んでしまうだろう。私は五郎さんみたいに注文で悩む事ってそんなにない。わりとなんでも食えるし、インスピレーションで決める方だし、何より待つのが嫌いだ。結構な年配のお母さんがやや足元おぼつかずに水を持ってきてくれて一言「お決まりになりましたら・・・」の言葉に被せるように「五目中華そばで」というオーダーを返した。壁に絵が貼ってあって何だか美味そうだったし、五目そばって長いこと食ってねえな、というのもあったので。
帳場の奥の調理場から、何やら具材を炒める音や、麺をチャカチャカと湯がく音などが聞こえてくる。調理をするのは、水を持ってきてくれたお母さんの息子の役割か。息子ったって、80代後半っぽいお母さんの子供だから、齢にしては還暦はとうに過ぎているだろう。団塊世代&団塊ジュニアというより少し上の世代のコンビが提供する五目中華そば。この手の料理の「五目」って何を指すのか別に決まってはいないのだけど、チャーシュー、冬菇(しいたけ)、タケノコ、赤カマボコ、ゆで卵で五目達成、白菜、もやしときくらげはエキストラというところか。ちょっと塩味強めのスープがシミシミの冬菇や白菜が美味いねえ。特に、冬菇の味がスープに溶け込んで、中華と言いつつ「和」の風味をより高めている。津軽のラーメンってーと「鶏ガラと煮干し」を中心にした醤油スープだったり、煮干しを砕いてドロドロにした「セメント」なんて言われるアクの強い煮干しスープが特徴だけど、こういう気取らないシンプルなあっさり塩スープもいいね。遠慮なく色を付けた赤カマボコに赤ナルトも郷土の味という感じで箸が進む。ごちそうさまでした。
平賀、昼下がりの検車区の横を電車が行き交う。検車区の入口の通路には、スプリンクラー代わりに水道のホースがくくり付けられて、ぴちゃぴちゃと水が撒かれていた。古びた木造の検修庫に入る東急7000系は、原形顔が修理中。東急7000もね、改造されて日本中の地方私鉄にバラまかれましたけど、とっくの昔に使うのを止めちゃった秩父鉄道はともかく既に福島交通とかは更新を終えてしまったし、北陸鉄道とかも虫の息。未だにバリバリ現役なのはここと水間くらいでしょうか。おそらく一番最後まで生き残るのが養老鉄道なんだけど、あそこは東急時代に7000系を池蒲線系統向けにチューンアップした7700系を、さらに近鉄の塩浜で改造して入れてるんで少しヒストリーが違うんですよね。車体はともかく、艤装品がかなり新しいので。
それにしても、雪国で外付けディスクブレーキとか大丈夫なの?といっつも無駄な心配をしてしまうのだが、そこまでスピードを出すもんでもないから、雪を挟み込まないように軽く制輪子を当てて走ってれば平気なのかな。弘南線で一番速度が出るのって平川の鉄橋あたりだと思うけど、軌道がそこまで強くないから出しても60km/hくらいなもんですしね。
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