青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。日々の情景の中を走る地方私鉄を追い掛けています。

デキとホッパとレオナルド

2013年01月18日 23時00分00秒 | 秩父鉄道

(雪晴れの武甲山@秩父駅)

さて、引き続き年休消化週間なので、久し振りに秩父に行って来ました。いや、本当であれば信越山線の特雪に行こうかなあと思ってたんですが、ご存じの通り月曜日が大雪でしたからねえ。信越方面に行くのに「雪道走りたい」ってのもあったんですが、それが関東で満たされてしまいましたので。あと、一人で特雪なんか撮りに行って線路脇の雪壁をよじ登ったらすっぽり埋まっちゃって雪が溶けるまで見つからなかったとかなっても困るっしょ(笑)。いずれにしろいつかはリベンジはしたいなあと思ってますけど、調べれば調べるほど思いつきで行けるほどヤワなもんじゃねえなあと感じたのも事実でありまして。
雪の後は比較的安定した晴天続き、今日も朝から良く晴れた木曜日。家を朝5時前に出発し、ガッチガチに凍ったR299正丸峠を抜けて約3時間で秩父に到着。秩父駅で一日フリーパスを購入し、今日は基本的には徒歩鉄で乗り撮りしてみたいと思います。去年の8月に広瀬川原でSL(C58)を脱線させてからというもの、目玉の戦線離脱でアウェイの乗車客が激減してるらしいですからなあ。ちったあ売り上げに貢献してあげないと…キップを買ってホームに上がり、広い構内から仰ぎ見る秩父の名峰・武甲山をワンカット。思えば初めて来た時もこの構図からスタートしているようです(笑)。変わんねえなあ。


秩父鉄道は、一般的にはSLが人気ですけども、私的には貨物列車が運行されてるって事が魅力。と言う訳で今日はデキが牽く貨物列車を中心に撮る事として、まずは影森駅に来てみました。ここには秩父太平洋セメントの三輪鉱山があり、駅からは鉱山までの専用線が伸びています。距離にして地図上1km弱程度くらいとは言え、私鉄の貨物で普通列車が走らない専用線を走るシーンって珍しいんじゃないのかなあ。厳密に言えば影森駅の側線みたいな扱いらしいけど、三輪線と言う俗称も付いているし専用線だよね。影森駅の側線にデキ貨物が1編成停車していたので、その列車がヤマに向かって上がって来るものと思い三脚をセットしてしばし待っていると、後ろの方からなんか音がするぞ(笑)。


振り返ると、カーブの向こうからデキに牽かれた鉱石列車がヤマを降りて来ましたw
後で調べると朝の影森には2本の返空貨物が前日から停泊しているらしく、コイツは荷積みのためにヤマに向かった1本目らしい。うおお何たる調査不足…とは言え鉱石を満載した総重量1000トンの編成を持ってヤマを降りるその足並みは慎重極まりなく、正直人がジョギングしたら追いついちゃうくらいのスピードでゆーっくりゆーっくり下って来る。三脚からカメラを外し、設定を直してレリーズし直す時間は十分にあるのでした。雪の残る森の中、石灰石を満載にしたヲキ車を牽引するデキの姿は年甲斐もなく言わせてもらえばめっちゃカッコイイ(笑)。貨物列車の力強さ、勇ましさみたいなものが凝縮しているように見えます。


通過するデッキの運転士氏に軽く会釈をし、鉱石列車の通過を見送る。デキのグワァァァ~ンと言う吊り掛け音に続き、20両のヲキ車がレールのジョイントを叩く音がダンダン、ダンダンと20×4で計80回。たまんねえっすな(笑)。最後尾のヲキフ車には作業員の方が乗務しております。決して亡霊ではありませんw


なんか初手からかな~り秩父の鉱石列車の魅力にヤラれてしまったのでありますが、影森駅の方からピョ~と言うデキのホイッスルが聞こえて、続いて第2陣の編成がヤマに向かいます。第1陣がヤマを降りたのが9:20、第2陣はその約20分後の9:40頃なので、撮影の方は参考にされたし(笑)。影森駅から20パーミルの急勾配、積荷のない返空列車とは言えあえぎあえぎゆっくりと登って行くデキ301は昭和42年製造。足回りに見えている煙のようなものは雪ではなく、空転防止用に撒いている砂なんだそうです。


「いい写真撮れたかい!?」
平日のこんな時間に三脚を立ててガチ撮りしているのが珍しいのか、散歩中のニット帽の地元オヤジが声を掛けて来た。
私が遠方から来た事を告げると、「この奥のホッパー(積み込み施設)行かないんかィ?遠くから来たんだったらぜひ見て行くといいぞ。案内してやっから!」と言われたので付いて行く事に(笑)。何事にも先達はあらまほしきことなり。三輪鉱山の構内に頭を突っ込んで停車したヲキ編成の横をスタスタ歩く地元オヤジ、レオナルド熊みたいな顔をしてたからレオナルドでいいや。

  

三輪鉱山の入り口まで来ると、デキが牽引して来た空の貨車には構内入換用のDLが据え付けられ、20両のヲキ車をホッパーまで引き込む真っ最中。エンジンを唸らせながら一番奥のホッパー線まで空車を持って行くその姿、逆光で非常に撮り辛いのだが、天をも衝かんと言う勢いで噴き出すDLの煙が光に透けてきれいです。


秩父太平洋セメント・三輪(みのわ)鉱山。
正面に見える武甲山から石灰石を採掘する鉱山にて、大正14年に操業を開始。同社のHPによれば年間85万トンの採掘量があるそうです。この影森の秩父太平洋セメント以外にも、横瀬町側では三菱マテリアルと秩父石灰工業が操業しており計3社が採掘を続けております。三菱マテリアルも西武秩父線の東横瀬からセメントを出荷してましたけど、15年くらい前に止めちゃいましたね。あそこで動いてたE851とか見てみたかったわあ。
武甲山自体が石灰石の塊のような山なんだそうで、地図上で見てもこんな形になっちゃってる。まあいかにも自然保護団体とかが色々言って来そうな雰囲気もあり、国内のセメント需要の衰退と相まって今後の見通しは不透明ですが、この秩父の発展を文字通り身を削りながら支えて来た山であると言っても過言ではないでしょう。

  

DLがホッパ線にヲキを引き入れ鉱石の積み込み作業が開始されると、デキが転線し再びヲキ車の前に据え付けられます。積み込み作業の完了を待ちながら、レオナルドとしばし談笑。レオナルドによると、この三輪鉱山まで貨物が来るのは基本的には平日の午前中で、土曜は来たり来なかったり、日曜日は休みになる事が多いらしい。
「昔はよぉ、ホッパーが全部埋まるくらい貨車が来てたもんさ。ヤマで働いてる人もだーいぶ減っちゃったナ。大野原の工場もセメント作んのヤメちまったもんなあ。特殊(速硬セメントや脱硫用石灰等)はまだ作ってるみたいだけんども…」
「おらァ子供ん頃から見てっけど、前はこんなトコまで来る人なんかだーれもおらんかったよ。けんども最近は結構来るんだよ。珍しいらしいねえ。」
「こないだの雪の日も何人か来てたよ!ハタビ(祝日)だったんだけんども運転あったんさァ。そしたらそこの坂道、あんまり降るもんで機関車が登れねえでよォ。操車の係がいっくら砂撒いたって登れやせんのよ!貨物ってーのは電車と違って一回止まっちまったら動くのは容易じゃないんよ。車もそうだべ?発進の時が一番力使うんさァ。しょうがないからこっからディーゼル出して坂道の途中で繋いでさ、そいで引っ張り上げたんよ。あの重連は珍しいだんで、雪ん中来た連中は『いいもん見れた』って喜んでただでなァ!」

鉱山の従業員が出入りするたびに挨拶をするレオナルド。基本的にみんな顔見知りらしい(笑)。
特に鉄道ファンとは思えないレオナルドだが、さすがに昔っからの知識は秩父に限れば一介のファンを超えている様子。
「さっきと比べて石の落ちる音が大きくなったべ?ヲキが20両あると、まずは奥の10両に石灰落として、終わったら手前の10両に落とすの。だから音が大きくなると、もうすぐ積み込みが終わる合図。」
「終わったら機関車を貨車と繋いで、よーくブレーキのテストするんだよ。知らないかい?何年か前、ここで荷物積んで走り出したらサ、下りの坂道で機関車のブレーキが利かなくなっちゃって、そのまま駅を走り抜けて畑の中落っこちちゃったんよ!」
…あ、それ、知ってます
秩父に初めて乗りに行った後の事故だったから、よく覚えてますよ。

  

ブレーキテストを終え、デキが三ヶ尻の工場に向けて出発の態勢を整えました。短い汽笛を一発鳴らし、ヲキの一両一両に丁寧にテンションを掛けながら牽き出して行きます。牽き出して即座に20パーミルの下り込み、運転台のハンドル操作もさぞかし慎重でしょう。武甲山の向こうから差す朝日に包まれて走り出す秩父のデキ、普段は羽生側のパンタグラフだけを上げているんですが、冬季間は架線の霜取りを兼ねて2丁パンタになるのも「カマの勇ましさ」と言う意味ではポイント高いですなあ。

カーブの向こうへ消えて行くデキを一緒に見送ったレオナルドが一言。
「まあ機関車だの貨車だのがあっちゃこっちゃ動き回るのは、面白いもんだなァ。見てて飽きないよ。飽きない。ウン。」
それ、激しく同意(笑)。

長くなったので、次回へ続く。
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