(秋色に咽ぶ@アプトいちしろ駅)
アプト区間の千頭側の基地にあたるアプトいちしろ駅。以前は川根市代駅と呼ばれていて、古びた山あいの小駅だったそうです。長島ダム建設に伴う井川線の大付け替え工事によって、井川線のこの区間だけは電化され、ELの検修庫と小さな変電所が作られました。非電化の路線にこうして一部分だけ電化された区間があるのは非常に珍しいですよね。アプト区間を降りて来た列車がEDのコンビを解放しています。大井川ダムによって堰き止められた川のほとりにある駅で、周囲の山々が見頃に色付いていました。
ラックレールの三つの軌条にラックホイールを噛み合わせて、アプト区間を上り下りするED90形。基本的に重連運用。アプトいちしろ~長島ダム間の僅か1.4kmの限定運用。井川線の車両限界が極めて厳しいため横幅が取れず、カステラのように細く上に伸びた車体が特徴です。日本に3台しかないアプト方式の現役ELは、日本国内の鉄道趣味的にもものすごくマニアックな機関車だと思うのですが、あまり語られる事が少ないのは、その生息地のあまりの不便さゆえでしょうか。
ED90は井川線の列車のエスコートを終えると、素早く解放されて千頭側の引き上げ線に入ります。このELは稼働する区間が非常に短いので、その活躍のシーンを切り取ることが極めて難しい車両だと思います。沿線で撮影するったって、切り立った断崖にへっついたアプト区間の桟道を行ったり来たりするだけなので、接近してその姿をゆっくり収められるのはアプトいちしろの駅くらいのもんでしょうか。横の15号トンネルが井川線の車両限界だと考えると、EDの車高はちょっと異様なものがあります。ラックホイールと車輪という二つの走り装置を抱えているためか、かなり腰高な印象。
EDの機関士さんは引き上げ線に機関車を停止させると、そのままスタスタと駅の詰所に戻ってしまった。深く切り立った大井川の谷に憩うED90。寸又峡へ向かう県道が通る山肌の色付きが見事である。元々の川根市代駅は今の引き上げ線の辺りにあり、ここで方向を東に変えて尾根をトンネルで抜けて行っていた。井川線規格のトンネルはくぐれないので、重要部品を検査する場合には併設の検修施設で分解の上で陸送されるらしい。
トロリと淀んだ大井川の水を横目に、山男が塒(ねぐら)に休む。大井川ダムの発電所に続く吊り橋からは、見頃の紅葉が眺められます。コンビニで買ってきたおにぎりを齧りながら、深と静まり返った奥大井の紅葉を愛でる。こういう一人の時間に心が洗われるような思いがする。ヨメとうまくいってない訳じゃないし、子供が嫌いな訳じゃない。上司が疎ましい訳でもないし、同僚と付き合わない訳じゃない。友達がいない訳じゃないけれど、たまには一人にして欲しい。
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