tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

奈良の街づくりを考えるシンポジウム

2008年07月15日 | 奈良にこだわる
7/12(土)、奈良市革新懇が主催する「奈良の街づくりを考えるシンポジウム~今一度見直そう、伝統・景観の力~」を聞きに行ってきた。当ブログの常連コメンテーター・金田充史さんがパネラーとして参加されるとの情報を得て、駆けつけたのだ。

金田さんは魚佐旅館(創業約150年という奈良で最古の老舗)の専務で、また奈良県旅館・ホテル生活衛生同業組合の奈良支部修学旅行部会長も務めておられる。同シンポは県中小企業会館(奈良市登大路町)で行われた。

第1部は、熊田眞幸氏(元和歌山大学教授)の講演だった。氏のご専門は美学・美術史(東京芸大卒)だが、奈良市にお住まいになり「奈良と景観」というエッセイを書かれてから、景観問題について研究されるようになったそうだ。



氏は、景観は主観的なものではなく、公共性を持ち、人権(幸福追求権)・人格権に直結するものだという。ただし現状の「景観法」では、「景観権」の確立までには至っておらず、景観利益を認めるという段階にとどまっているのだそうだ。

興味深いのはこの次だ。京都の新景観条例では36の眺望点を決めるなど「眺望景観」を重視しているが、奈良で大切なのは「囲繞(いにょう)景観」だという。囲繞景観とは耳慣れない言葉だが「enclosed landscape」の直訳だろう。ネットで検索すると《一定の範囲を有する空間領域中での視覚的な環境状況を意味する。山々に囲まれた盆地状の景観、農地の中に農家が散在する景観、歴史的な施設の散在する景観、などとして捉えられる景観であり、「景観」を把握するための技術手法のひとつ》。


中央の塔(薬師寺西塔)右側に重なる白い建物はホテル日航奈良


薬師寺の南側(写真は2点とも07年11月撮影)

《これに対して、視点場(展望台など)から視対象(山や川など眺望する対象)を見る、つまり、視覚を通じて認知される景観像として捉える方法があり、「眺望景観」と呼ばれる。景観の保全は、特定の眺望点から特定の景観資源を眺める「眺望景観」を維持するだけでなく、身近な身のまわりの景観(「囲繞景観」)の構成要素を全体として保全していくことにより達成される》。
http://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&ecoword=%B0%CF%E5%E5%B7%CA%B4%D1


東を向くと興福寺(07年6月撮影)


そのまま回れ右をすると生駒山(奈良市小西町付近 08年7月撮影)

これは目からウロコだ。よく「奈良は写真になりやすいが、映像にはなりにくい」といわれるのはこのことだったのだ。囲繞景観という視点から奈良の景観を見ると、問題がハッキリしてきそうだ。

このほか熊田氏は、平城宮跡周辺のスプロール化(計画的に街路が形成されず、虫食い状に都市郊外の宅地化が進むこと)の現状や、大和北道路によって地域の囲繞景観が損なわれる可能性を指摘された。


大仏殿を覆い隠す奈良県分庁舎(08年7月撮影)

第2部はパネルディスカッションで、コーデイネーターは田中康夫氏(らぼ アート・くらし・まち代表 元梅花女子大学教授)、バネラーは金田さんと熊田氏のほか西本守直氏(日本共産党奈良市会議員団長)、浜田博生氏(奈良世界遺産市民ネットワーク世話人代表・奈良市革新懇世話人)、村岡高史氏(西九条・佐保線について考える会)の5人だった。

金田さんは、A4版3枚の資料を配布され「景観が破壊されることは、奈良の観光資源が失われること」「行政がホテルをわざわざ誘致することよりも、ホテルに『奈良に進出すれば儲かる』と思わせるような街づくりが先決」「シャンゼリゼのように、街路にオープンカフェを設けるような道路使用を検討すべき」と主張。



西本氏は、ドイツの世界遺産「ドレスデン・エルベ渓谷」が、「新たな橋を造るなら世界遺産登録を抹消する」という通告を受けた話を紹介し、浜田氏は、大和北道路(地下トンネル)や1300年祭の千台の駐車場計画で「平城宮跡が世界遺産登録リストから外れる可能性がある」ことを示唆した。

また会場の参加者からは、「1/3もの地権者が反対している三条通の拡幅は、意味がない。約63億円かけて拡幅しても、並木道ができるだけで、かえって買い物がしにくくなる。むしろ道に仏像のレプリカを置いたり、春日大社の鳥居(一の鳥居の手前なのでゼロの鳥居)を建てる、金魚すくいの常設館を設ける、といった方法の方がずっと良い」との意見が寄せられた。

開始が13:30、終了は16:30と、3時間もの中身の濃いシンポジウムだった。約150名の参加者は、熱心にメモを取られていた。なお昨年のこの会は「奈良の観光を考えるシンポジウム」として実施され、パネラーは金田さんはじめ、久保田幸治氏(県観光課長=当時)、柳谷勝美氏(南都経済センター顧問)などだったそうだ。

それにしても、奈良の景観や町づくりに、こんなにたくさんの人が関心を寄せておられるとは、とても有り難いことだし、大切なことだ。しかしどういうわけか、奈良市が募集する「すばらしい眺め」については、応募はたったの3件しか集まっていないそうだ(賞品がないので応募が少ない、とは考えたくないが)。これは従来型の「眺望景観」のビューポイント(視点場)を増やすための意見募集だが、電子メールで簡単に応募できるものだ。
http://www.nara-np.co.jp/n_soc/080709/soc080709a.shtml

市のHPによれば、《奈良を感じるすばらしい眺めを募集します!》《奈良市では、数多くある眺望景観を保全していくことが必要であると考えております。そのためには、あなたがまもりそだてていきたいと思う奈良を感じる眺めを教えてください。みなさまの意見をもとに、眺望景観を選定し、その保全施策を検討していきたいと考えています》《「眺望景観」と明記し、1.眺めの良い場所 2.眺める景色、対象 3.選んだ理由》を書くだけだ。写真や地図も添付できる。もちろん市外在住者も応募できる。締切は8/29だ。
http://www.city.nara.nara.jp/icity/browser?ActionCode=content&ContentID=1207733087509&SiteID=0&ParentGenre=1000000000594

かくいう私も、これから応募するところである。市内に眺めの良い場所はたくさんある。それがこの募集で広く認知されれば、ビューポイントとして守ってもらえることにつながる。市内の素晴らしい歴史的景観を守るため、皆さんも、ぜひ応募していただきたいと思う。
コメント (10)
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