産経新聞の論説委員・小林毅(こばやし・つよし)氏は、同紙「大阪特派員」欄で健筆を揮っておられる。毎回のテーマは多岐にわたるが、同欄7/18付のタイトルは「大仏商法にさよならを」だった。かいつまんで内容を紹介すると、
故井上光貞氏(歴史学者・国立歴史民俗博物館初代館長)は、大仏開眼を大阪万博にたとえた。《地盤沈下が続く大阪がイベント型の再生を試みては失敗しているのは、今も万博の夢から覚めきれていないから、といわれる。奈良も「努力しなくても座っていれば客が来る」と揶揄(やゆ)される「大仏商法」が行き詰まっていることを考えると、氏の指摘は示唆的だ》。
《国土交通省が初めて実施した全国同一基準による宿泊旅行統計調査は観光・奈良の不振をみせつけた。平成19年の奈良県の延べ宿泊客数は116万人、47都道府県中最下位だったのだ。宿泊施設が少なく、電車で約40分の京都や大阪に泊まり、奈良に来る人が多い。「関東からの修学旅行も多くは、京都駅八条口迎え、奈良観光、京都の旅館送りです」と奈良交通地域振興部の吉田和久次長は苦笑する》。

猿沢池畔の土産物店で(6/12撮影)
小林氏は「観光不振の原因は大仏商法に尽きる。私たちも知恵を出し、1300年祭に来た人が吉野など県南まで簡単に足を伸ばせる仕掛けを考えたい」(南都銀行バリュー開発部地域振興対策局長 石井和人氏)、「プランを提供すれば宿泊してもらえる感触はある。奈良はこれまでその努力を怠っていた」(吉田氏)というコメントを紹介する。
締めくくりは、次のような言葉である。《「観光とはその土地の光を見せること」という。仏像、寺院、県南などの豊かな自然。数百年続いたとされる大仏商法と縁を切れば、緩やかな時間の流れの中で日本の原風景に浸る地として、奈良の新しい光を見せることはできるはずだ》。
http://sankei.jp.msn.com/culture/academic/080718/acd0807180110000-n1.htm
奈良は「毎年同じ映画が上映されている映画館のような、旧来型の観光地だ」と揶揄されることがある。「大仏商法」という言葉も、もとは「大仏さまという素晴らしい観光コンテンツで人を引きつける優れた商法」という褒め言葉だった。それがいつからか、名の通った神社仏閣ばかりを頼りにして「努力しなくても座っていれば客が来る」安易な商法、という悪い意味に使われるようになった。
《緩やかな時間の流れの中で日本の原風景に浸る地》である奈良県下には、きら星のごとく小さな観光名所が点在する。各地では、地元の観光ボランティアグループやNPOなどが、地道な努力を積み重ねているところであり、地域おこしを担う地域プランナー・コーディネーターも、徐々に育ちつつある。先日の「地域貢献活動助成事業」の公開プレゼンテーションでは、その一端を垣間見せていただいた。
http://blog.goo.ne.jp/tetsuda_n/e/331e42acce1228571499f4b84e319ae1
東洋文化研究家のアレックス・カー氏も「奈良には素晴らしい観光資源がたくさんある。奈良にしかない静けさや自然を生かして、奈良ならではの観光地を目指せば、観光は活性化するだろう」と語っていた(「国際文化観光都市奈良として進むべき道」県商工会議所青年部連合会講演会 08.7.18)。
なお小林氏は《奈良市では22年の「平城遷都1300年祭」を前にホテル建設ラッシュが起きている。宿泊施設不足もかなり緩和されそうだ。それでも1300年祭頼みでは、イベント後は客足が絶える「いつか見た風景」の繰り返しになりかねない》と指摘されていたが、今日(7/19)の朝刊によると、1300年祭の年にJR奈良駅前にホテルを誘致するとして奈良市と契約を締結していた不動産会社ゼファー(東証一部上場)は、民事再生手続きに入り、東証は上場廃止を決定した。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-32822920080719
奈良市の幹部は「倒産ではないので、事業を継続してやってもらえるよう今後も働き掛けていく」(奈良新聞 7/19付)というコメントを発表していたが、このノー天気さには呆れる。ちゃんとしたブレーンがいないのだろうか。
http://www.nara-np.co.jp/n_all/080719/all080719a.shtml
http://www.nara-np.co.jp/n_all/080720/all080720a.shtml
これでホテル誘致計画は重大な岐路に立たされたことになるが、いずれにしても、ポスト1300年祭の絵をきちんと描かなければ、祭りの後は客足も途絶え「いつか見た風景」の再現になりかねない。1988年のシルク博の後は観光客が激減し、奈良は今もその後遺症に苦しんでいるのだ。
※外資系ホテル「コートヤード・バイ・マリオット」を初体験(当ブログ内)
http://blog.goo.ne.jp/tetsuda_n/e/915b373dd43308b2df7689da279b5657
奈良県下で成功しているイベントは、行政ではなく、NPOなどの「民」が実施しているものばかりだ。
本来、地域おこしや観光まちづくりは行政の仕事ではない。むしろ私たち住民主導で進めるべきものである。
果たして奈良は、新たな観光客を引きつけることができるのだろうか。それは、行政やハコ物に頼らず、地域住民がコツコツと「その土地の光」を見出して魅力を発信し、観光客をもてなす「仕掛けづくり」如何にかかっている。
※冒頭の写真は東大寺講堂跡(大仏殿裏)。ドラマ「鹿男あをによし」で主人公の小川先生(玉木宏)が、ここでよく鹿と会っていたことから、最近はわざわざ訪ねてくる人が増えた(07.8.10撮影)。
※参考:観光地奈良の勝ち残り戦略(13)松下幸之助氏の「観光立国論」
http://blog.goo.ne.jp/tetsuda_n/e/eb8e7504fc92400f1301d54ad1be2c5c
故井上光貞氏(歴史学者・国立歴史民俗博物館初代館長)は、大仏開眼を大阪万博にたとえた。《地盤沈下が続く大阪がイベント型の再生を試みては失敗しているのは、今も万博の夢から覚めきれていないから、といわれる。奈良も「努力しなくても座っていれば客が来る」と揶揄(やゆ)される「大仏商法」が行き詰まっていることを考えると、氏の指摘は示唆的だ》。
《国土交通省が初めて実施した全国同一基準による宿泊旅行統計調査は観光・奈良の不振をみせつけた。平成19年の奈良県の延べ宿泊客数は116万人、47都道府県中最下位だったのだ。宿泊施設が少なく、電車で約40分の京都や大阪に泊まり、奈良に来る人が多い。「関東からの修学旅行も多くは、京都駅八条口迎え、奈良観光、京都の旅館送りです」と奈良交通地域振興部の吉田和久次長は苦笑する》。

猿沢池畔の土産物店で(6/12撮影)
小林氏は「観光不振の原因は大仏商法に尽きる。私たちも知恵を出し、1300年祭に来た人が吉野など県南まで簡単に足を伸ばせる仕掛けを考えたい」(南都銀行バリュー開発部地域振興対策局長 石井和人氏)、「プランを提供すれば宿泊してもらえる感触はある。奈良はこれまでその努力を怠っていた」(吉田氏)というコメントを紹介する。
締めくくりは、次のような言葉である。《「観光とはその土地の光を見せること」という。仏像、寺院、県南などの豊かな自然。数百年続いたとされる大仏商法と縁を切れば、緩やかな時間の流れの中で日本の原風景に浸る地として、奈良の新しい光を見せることはできるはずだ》。
http://sankei.jp.msn.com/culture/academic/080718/acd0807180110000-n1.htm
奈良は「毎年同じ映画が上映されている映画館のような、旧来型の観光地だ」と揶揄されることがある。「大仏商法」という言葉も、もとは「大仏さまという素晴らしい観光コンテンツで人を引きつける優れた商法」という褒め言葉だった。それがいつからか、名の通った神社仏閣ばかりを頼りにして「努力しなくても座っていれば客が来る」安易な商法、という悪い意味に使われるようになった。
《緩やかな時間の流れの中で日本の原風景に浸る地》である奈良県下には、きら星のごとく小さな観光名所が点在する。各地では、地元の観光ボランティアグループやNPOなどが、地道な努力を積み重ねているところであり、地域おこしを担う地域プランナー・コーディネーターも、徐々に育ちつつある。先日の「地域貢献活動助成事業」の公開プレゼンテーションでは、その一端を垣間見せていただいた。
http://blog.goo.ne.jp/tetsuda_n/e/331e42acce1228571499f4b84e319ae1
東洋文化研究家のアレックス・カー氏も「奈良には素晴らしい観光資源がたくさんある。奈良にしかない静けさや自然を生かして、奈良ならではの観光地を目指せば、観光は活性化するだろう」と語っていた(「国際文化観光都市奈良として進むべき道」県商工会議所青年部連合会講演会 08.7.18)。
なお小林氏は《奈良市では22年の「平城遷都1300年祭」を前にホテル建設ラッシュが起きている。宿泊施設不足もかなり緩和されそうだ。それでも1300年祭頼みでは、イベント後は客足が絶える「いつか見た風景」の繰り返しになりかねない》と指摘されていたが、今日(7/19)の朝刊によると、1300年祭の年にJR奈良駅前にホテルを誘致するとして奈良市と契約を締結していた不動産会社ゼファー(東証一部上場)は、民事再生手続きに入り、東証は上場廃止を決定した。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-32822920080719
奈良市の幹部は「倒産ではないので、事業を継続してやってもらえるよう今後も働き掛けていく」(奈良新聞 7/19付)というコメントを発表していたが、このノー天気さには呆れる。ちゃんとしたブレーンがいないのだろうか。
http://www.nara-np.co.jp/n_all/080719/all080719a.shtml
http://www.nara-np.co.jp/n_all/080720/all080720a.shtml
これでホテル誘致計画は重大な岐路に立たされたことになるが、いずれにしても、ポスト1300年祭の絵をきちんと描かなければ、祭りの後は客足も途絶え「いつか見た風景」の再現になりかねない。1988年のシルク博の後は観光客が激減し、奈良は今もその後遺症に苦しんでいるのだ。
※外資系ホテル「コートヤード・バイ・マリオット」を初体験(当ブログ内)
http://blog.goo.ne.jp/tetsuda_n/e/915b373dd43308b2df7689da279b5657
奈良県下で成功しているイベントは、行政ではなく、NPOなどの「民」が実施しているものばかりだ。
本来、地域おこしや観光まちづくりは行政の仕事ではない。むしろ私たち住民主導で進めるべきものである。
果たして奈良は、新たな観光客を引きつけることができるのだろうか。それは、行政やハコ物に頼らず、地域住民がコツコツと「その土地の光」を見出して魅力を発信し、観光客をもてなす「仕掛けづくり」如何にかかっている。
※冒頭の写真は東大寺講堂跡(大仏殿裏)。ドラマ「鹿男あをによし」で主人公の小川先生(玉木宏)が、ここでよく鹿と会っていたことから、最近はわざわざ訪ねてくる人が増えた(07.8.10撮影)。
※参考:観光地奈良の勝ち残り戦略(13)松下幸之助氏の「観光立国論」
http://blog.goo.ne.jp/tetsuda_n/e/eb8e7504fc92400f1301d54ad1be2c5c