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「奈良を大いに学ぶ」講義録(7)正倉院宝物

2009年09月27日 | 奈良にこだわる
すぐわかる正倉院の美術―見方と歴史
米田 雄介
東京美術

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今回は9/9(水)に行われた奈良大学・三宅久雄教授(美術史)による「正倉院宝物の成り立ちと特色」を紹介する。奈良大学のサイトによれば、三宅教授は「文化庁美術工芸課彫刻担当技官、東京国立文化財研究所美術部第一研究室長、宮内庁正倉院事務所長などを経て、2005年より本学教授。文化審議会文化財分科会専門委員」という経歴の持ち主である。例によって私のノートと、宮内庁のサイトなどを参照しつつ書かせていただく。
(トップ写真は教授の推薦図書である。正倉院展のガイドブックとしても使える。)

1.正倉院宝物の成り立ち
《奈良・平安時代の中央・地方の官庁や大寺には,重要物品を納める正倉が設けられていました。そしてこの正倉が幾棟も集まっている一廓が正倉院と呼ばれたのです。しかし諸方の正倉は歳月の経過とともに亡んでしまい,僅かに東大寺正倉院内の正倉一棟だけが往時のまま今日まで残りました。これがすなわち正倉院宝庫です》(宮内庁:正倉院ホームページ。以下《 》内はすべてこのHPから引用)。
http://shosoin.kunaicho.go.jp/treasure/shousouin/index.html

正倉院宝物は、「東大寺盧舎那仏への献納品」と、「東大寺の物品(寺の運営に必要な什器・備品)および造東大寺司の物品(公文書=正倉院文書、作業着など)」に大別される。

《8世紀中頃,奈良時代の天平勝宝八歳(756)六月二十一日,聖武天皇の七七忌(四十九日)にあたり,光明皇后は天皇の御冥福を祈念して御遺愛品など六百数十点を東大寺の本尊盧舎那仏(大仏)に奉献されました。皇后の奉献は前後5回に及び,その品々は同寺の正倉(現在の正倉院校倉宝庫)に収蔵して,永く保存されることとなりました。これが正倉院宝物の起こりです。そしてこれより二百年ばかり後の平安時代中頃の天暦四年(950)に大仏開眼をはじめ重要な法会に用いられた仏具,什器類が東大寺羂索院の倉庫からこの正倉に移され,光明皇后奉献の品々と併せて厳重に保管されることとなったのです。正倉院宝物は大別してこの二つの系統より成り立っています》。



《この正倉院宝庫は,千有余年の間,朝廷の監督の下に東大寺によって管理されてきましたが,明治八年,宝物の重要性にかんがみ内務省の管轄となり,次いで農商務省を経て宮内省に移り,引き続き宮内庁の管轄するところとなっています。なお宝庫としては現在,古来の正倉のほかに西宝庫と東宝庫があり,いま宝物はこの両宝庫に分納して保存されています》。

まず「正倉」について。《正倉は前述のとおり,もとの東大寺の正倉で,奈良時代以来宝物を収蔵してきた宝庫です。檜造り,単層,寄棟本瓦葺きで高床式に造られています》《内部は三室に仕切られ,北(正面向かって右)から順に北倉,中倉,南倉とよばれます。北倉と南倉は大きな三角材を井桁に組み上げた校倉造りであり,中倉は北倉の南壁と南倉の北壁を利用して南北の壁とし,東西両面は厚い板をはめて壁とした板倉造りです。また各倉とも東側の中央に入り口があり内部は二階造りとなっています。北倉は主として光明皇后奉献の品を納めた倉で,その開扉には勅許を必要としたので勅封倉とよばれ,室町時代以降は天皇親署の御封が施されました。中倉は北倉に准じて勅封倉として扱われ,南倉は諸寺を監督する役の僧綱の封(後には東大寺別当の封)を施して管理されましたが,明治以降は南倉も勅封倉となりました》。

《正倉院宝物が現在もなお極めて良好な状態で,しかも多数のものがまとまって残されているのは,一つには勅封制度によってみだりに開封することがなく,手厚く保護されてきたことに負うところが大きいのです。また建築の上からみると,宝庫がやや小高い場所に,巨大な檜材を用いて建てられ,床下の高い高床式の構造であることが,宝物の湿損や虫害を防ぐのに効果があったものと思われます。その上,宝物はこの宝庫で辛櫃に納めて伝来されたのですが,このことは湿度の高低差を緩和し,外光や汚染外気を遮断するなど,宝物の保存に大きな役割を果たしました》。



次に「西宝庫・東宝庫」(現在、宝物が収納されている建物)について。《正倉の西南と東南に建っている宝庫で,西宝庫は昭和37年(1962)に,東宝庫は昭和28年(1953)に建築されました。ともに鉄骨鉄筋コンクリート造りで,空気調和装置が完備されています。西宝庫は正倉に代わって整理済みの宝物を収蔵している勅封倉で,毎年秋季に開封され,宝物の点検,調査などが行われます。東宝庫には現在,染織品を中心とした整理中の宝物と聖語蔵(しょうごぞう)経巻が格納されています》。

「聖語蔵(しょうごぞう)」という蔵もある《聖語蔵は東宝庫の前方にある校倉がそれで,平安末期あるいは鎌倉時代の建築といわれています。もと東大寺の塔頭尊勝院の経倉で,転害門内にありましたが,明治年間,収蔵の経典類とともに皇室に献納され,現地に移築されたものです。経典類は,中国の隋経・唐経をはじめ,奈良,平安,鎌倉時代の古写経その他の約五千巻で,いま東宝庫に収納されています》。
※参考:「よみがえれ!現代のシルクロード」の正倉院サイト。子供向けだが画像も豊富で、とても分かりやすい。
http://www.kodomo-silkroad.net/heizyoukyou/syousouin/index.html

2.正倉院宝物の特色
《正倉院宝物は,そのほとんどのものが奈良時代,8世紀の遺品であり,波涛をこえて大陸から舶載され,あるいは我が国で製作された美術工芸諸品や文書その他です。いま宝庫に伝えられている宝物の点数は整理済みのものだけでも約9000点という膨大な量に上っています。またその種類も豊富です》。

三宅教授の講義では、PowerPointを使いながら、画像に合わせて説明を聞かせていただいた。当ブログ読者の皆さんは、以下のサイトの画像などを参照して、感じをつかんでいただきたい。
※主な宝物(よみがえれ!現代のシルクロード)
http://www.kodomo-silkroad.net/heizyoukyou/syousouin/takaramono.html
※宝物の模様(同)
http://www.kodomo-silkroad.net/heizyoukyou/syousouin/pattern.html
※薬(同)
http://www.kodomo-silkroad.net/heizyoukyou/syousouin/medicine.html



三宅教授によれば、正倉院宝物の特色は以下の4点である。
(1)由緒・由来の確かさ
《このような内容をもった正倉院宝物はまた,次のような重要な特質をそなえています。それはまず,由緒伝来や製作年代,使用年代の明らかな宝物が少なくなく,このため学術上寄与するところが多いことです》。

(2)地上伝世、保存良好
《次には宝物が出土品でなく伝世品であるという点です。古代の遺品といえば,多くは地中から発掘された考古学的遺品ですが,正倉院宝物は出土品でなく木造の宝庫に納められて1200年余にわたって伝世してきたものです。したがって保存状態もよく,伝世品としての品格と美しさを保持していることは,誰もが感歎するところでしょう》。

(3)用途・材料・技法の多様性
《用途別に分類すると,書巻文書,文房具,調度品,楽器楽具,遊戯具,仏教関係品,年中行事用具,武器武具,飲食器,服飾品,工匠具,香薬類など生活の全般にわたっており,奈良時代の文化の全貌を眼のあたりに知ることができます。製作技法について見ても,金工,木工,漆工,甲角細工,陶芸,ガラス,染織など,美術工芸のほとんどすべての分野におよび,平脱(へいだつ),木画,螺鈿(らでん),撥鏤(ばちる),三彩,七宝といった高度の技法を用いたものが多くあります。また使用材料の種類も豊富です。光明皇后奉献の趣旨と品目を記載した献物帳,樹下美人像で知られる鳥毛立女屏風,世界唯一の遺品でもある華麗な五絃琵琶,遥かなシルクロードの旅路を偲ばせるカットグラスの白瑠璃碗,黄金,珠玉で飾った犀角の如意,現存最古の戸籍である大宝二年(702)の戸籍,狩猟文その他異国要素の文様をもった正倉院裂の数々,その他著名な宝物だけでも枚挙にいとまがありません》。

(4)世界性、国際性―製品、材料、意匠(デザイン)―
《さらにいまひとつの特質は世界性です。正倉院の宝物は国際色豊かな中国盛唐の文化を母体とするもので,大陸から舶来した品々はもとより,国産のものもまた,8世紀の主要文化圏,すなわち中国をはじめ,インド,イランからギリシア,ローマ,そしてエジプトにも及ぶ各国の諸要素が包含されています。なかでも注目されるのは,西方的色彩の濃厚なことですが,西方の要素は盛唐にとり入れられ,やがて我が国に伝来して,正倉院にとどまっているのです。「正倉院はシルクロードの終着点である」という言葉は,この宝物のもつ世界性の一端を言いあらわしたものと言えるでしょう。正倉院宝物は,ひとり奈良朝文化の精華を示すだけでなく,実に8世紀の世界文化を代表する貴重な古文化財なのです》。
※「主要宝物自動鑑賞」のサイト(宮内庁:正倉院ホームページ)
http://shosoin.kunaicho.go.jp/treasure/shousouin/slide/slideframe.html



さて、今年も正倉院展が、奈良国立博物館で開催される(10/24~11/12)。今年は、1月の天皇陛下の即位20年を記念し、正倉院宝物を代表する名品が出陳(しゅっちん)されるのが特徴だそうだ。北倉11件、中倉25件、南倉28件、聖語蔵3件の総計66件の宝物が出陳され(初出陳は12件)、正倉院宝物の全体が概観できるような構成になっている。
http://www.narahaku.go.jp/exhibition/2009toku/shosoin/shosoin_index.html

面白いのが「子日目利箒(ねのひのめとぎほうき)」という儀式用の玉かざり箒(ほうき)である(初出陳ではない)。中国の正月には皇帝が正月初子の日に自ら豊壌を祈願して田を耕し、皇后が蚕室を掃いて蚕神をまつる儀式がありこれが奈良時代に日本に伝わり、孝謙天皇により始められた儀式なのだそうだ。大伴家持の歌(万葉集)にも詠まれている。
「始春(はつはる)の初子(はつね)の今日の玉箒(たまばはき)手にとるからに ゆらぐ玉の緒」
http://www.narahaku.go.jp/exhibition/2009toku/shosoin/images/shosoin_011.jpg

子日目利箒の精巧なレプリカは、奈良国立博物館で常設展示されていたこともあるようだが、以前私は「正倉院『宝物レプリカ』展の開催を!」というブログ記事を書き、賛同の声をたくさんいただいたことがある。ご参考に。
※正倉院「宝物レプリカ」展の開催を!(当ブログ内)
http://blog.goo.ne.jp/tetsuda_n/e/2263ca324db9a77b4a1ed117e6bf0195

以上がこの日の講義の(私なりの)まとめである。三宅教授はとても豊富な知識をお持ちなので、特に話が脱線すると面白かった。9/11の「平城京の仏たち」も、三宅教授が担当された。次回も、お楽しみに。
コメント (4)
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