tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

観光地奈良の勝ち残り戦略(37)知事と県民のつどい

2010年08月22日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
昨日(8/21)、奈良県社会福祉総合センター(橿原市大久保町)で開かれた平成22年度第3回「知事と県民のつどい」に参加した。知事と県民の集いとは《県政の現状を県民の皆様にお伝えするとともに、今後の県政運営の参考とさせていただくため、荒井知事が県民の皆様から直接ご意見をいただく機会として、「知事と県民のつどい」を開催します。平成22年度は、奈良の未来を創るうえで、「こうあればいい」「これをやりたい」という願いをまとめた「5つの構想案」について県民の皆様と意見交換を行います》というものだ。
http://www.pref.nara.jp/dd_aspx_menuid-12017.htm

まず知事が50分ほどの話をされ、5人の「意見発表者」が提案・質問(5分間)、それに対して知事と担当部局長が答える。会場からも質問ができ、同様に答えてもらえる。意見発表者は、あらかじめ意見(提言)を500字以内にまとめて応募する。審査により選ばれれば、その意見を5分間(1600字程度)に敷衍(ふえん)して発表する。

この日のテーマは「5つの構想案」のうち、「ポスト1300年祭構想(観光振興)」だった。この催しを知ったのは、応募締切日の3日前だったが、興味のあるテーマだったので、すぐさま提言を書いて応募したところ、幸い意見発表者の1人に選ばれた。
※5つの構想案(県のホームページ)
http://www.pref.nara.jp/dd_aspx_menuid-16382.htm

この日、意見を発表したのは私のほか、発表順に野村幸治さん(高取土佐街なみ天の川計画実行委員会代表)、西川佳廣さん(飛鳥京観光協会会長)、勝川喜昭さん(明日香村伝承芸能保存会代表)、宮本貴之さん(大和橿原シティホテル代取)の4人。すべて観光や地域おこしに携わっておられるベテランばかりで、一介のサラリーマンは私だけ。それなのに私は質問のトップバッターだったので、緊張した。何とかピタリ5分に収まって、ホッとしたが…。この日はうだるような暑さとなったが、会場参加者(事前申し込みが必要)は約120人もお越しになり、最後まで熱心に聞き入っておられた。


会場内の写真は、N先輩の撮影。有り難うございました!

最初は知事のお話。1300年祭の「中間まとめ」と、「ポスト1300年祭構想(観光振興)」の概要を説明された。中間まとめでは「巡る奈良」事業の好調、特に「秘宝・秘仏特別開帳」の好評ぶりに触れておられた。来場者アンケートでは、宮跡会場の清掃状況やトイレ・休憩所の満足度の高さ、ボランティアなどの対応の良さをアピールされた。一方、「飲食・物販の満足度の低さは、残念」。

菟田野(宇陀市)製の鹿皮の話もされた。イタリアのフィアットの関連グッズに、菟田野製のセーム革(鹿皮)を使ったキーホルダーや眼鏡ケース、ストラップが採用されたという話だ。将来的には、座席カバーなど自動車部品への販路拡大も視野に入れているという。県産セーム革は、全国9割以上のシェア誇っており、そのブランド力の向上をねらっているのだ。

さて、私の提言は「奈良県における『ツアーオペレーター』組織の必要性について」。これまで当ブログでは「ランドオペレーター」と表記してきた旅行のプランナー、コーディネーターのことだ。今回は、分かりやすさに配慮して「ツアーオペレーター」とした。以下、提言の概要を紹介する。
※奈良に「ランドオペレーター」を!(当ブログ内)
http://blog.goo.ne.jp/tetsuda_n/e/fa0f7a902e18a70a7670b2d99ed017aa

《今日は「ツアーオペレーター」(ランドオペレーター、旅行コーディネーター)の導入に関する提案をさせていただきます。私は5年前から、奈良の観光に関するブログを書いておりまして、ただ今の知事さんのお話は、大変興味深く拝聴いたしました。これまで奈良の観光に関する大きな出来事といたしましては、1988年に「なら・シルクロード博」が開催されました。この年、奈良に来られた観光客は4100万人で、当時、この博覧会は大成功だと言われました。しかし翌年から観光客が激減しました》。


私が赤で野村さんが緑。「次に黄が来ると、信号機ですね」と笑い合った

《その反省を踏まえ、今回早々に打ち出された「ポスト1300年祭」の16の構想は、素晴らしい提案であると思いました。特に私の印象に残りましたのは、4. 中南和の魅力振興に取り組みます、6.「食」の集客力に着目した奈良の食の魅力向上に取り組みます、14.「歩くなら」の新しい取り組みを進めます、16.記紀・万葉集を題材とした記念事業を実施するためのプロジェクトを立ち上げます、の4つです》。

《ただ、これらは大変素晴らしい構想ですが、料理にたとえますと「食材」「材料」の段階です。現実には、これらの素晴らしい食材を、上手に調理して、美味しい料理に仕上げてお客さんに出すというプロセスが必要です。つまり、奈良には観光の「シェフ」、観光の「コーディネーター」が必要なのです》。

《6年前、「私のおすすめ“奈良の朝”50選」が選ばれました。奈良公園の朝が素晴らしいと聞いて、実際にやって来た人がいました。しかし、飛火野を朝早く散歩したあと、ちょっとひと休みしてコーヒーを飲みたい、サンドイッチをつまみたいと思っても、お店がありません。お寺に行っても、お堂は閉まっています。その人は結局諦めて奈良公園を一周したあと駅まで戻り、チェーン店のハンバーカーを食べて帰った、ということでした。これは、笑い話のような本当の話です》。



《「奈良公園の朝」を観光振興に結びつけるためには、臨時のオープンカフェを開くとか、お寺の朝のお勤めに参加させていただくとか、朝だけの特別開帳をしていただくとか、そういった仕掛けが必要です。そのようなコーディネートをすることによって、奈良に来られたお客さんが1泊して、翌朝、奈良公園に散歩に行ってくれるわけです》。

《今回の16のカテゴリー別構想も、互いに関連づけて、旅行商品に仕立て上げ、それを強力にPRする必要があると思います。いわば、自前で「デスティネーション・キャンペーン」を張るのです。そのためには、観光情報を発信し、旅行をプランニングし、自らツアーを催行できる組織が必要です。それが奈良の「ツアーオペレーター」です。イメージ的には、旅行業の免許を持った、半官半民の組織、ということになります》。

《また県下には、たくさんの「観光ボランティアガイド」さんがいらっしゃいます。お隣の野村さんは、まさにそのリーダーでいらっしゃいます。1300年祭の「奈良大和路 秘宝・秘仏特別開帳」では、南都銀行のOB・36人による「ナント・なら応援団」が大活躍しています。奈良県下の観光ボランティアガイドは1,261と、人数的にも全国で5位です。このようなボランティアとタイアップして旅行商品を組み立てるということも、「ツアーオペレーター」の大切な役割です》。

《観光業の振興は、奈良県の経済活性化のために残された「数少ないカード」の1枚です。このカードを生かすも殺すも、ポスト1300年の取り組みに如何にかかっていると思います。ぜひ強力な奈良の「ツアーオペレーター」を組織していただいて、「観光立県」を実現していただきたいと思います》。

私のあと、野村さんが「奈良の観光力向上と中南部振興について…歴史文化を見て回る観光から、住民と交流する観光へ」というテーマで、野村さんご自身がプロデュースされた「町家の雛めぐり」を例に、「住民が交流する観光は、シニア住民にとっては心身の活性化にもつながる」と、マイクも持たずに力説された。



発表のあと、まず文化観光局長の廣野隆信氏が「奈良県ビジターズビューローの商品企画部が、ツアーオペレーターの役割を担えると思います。旅行商品は、旅行業者である奈良交通とタイアップすることにより組成が可能で、まほろば巡礼ツアーや、奈良・大和路秘宝秘仏特別開帳バスツアーなどの実績があります」と答えられた。

そのあと知事が「おだやかな口調でおっしゃいましたが、大変深い問題点を指摘されました。観光の組織は難しいです。なぜ今まで十分機能しなかったのか、それを考えるところから始めなければなりません。『旅行業の免許を持つ半官半民の組織』とは、良い着眼点だと思います」。知事は運輸省で運輸政策局観光部長や鉄道局次長、自動車交通局長などを歴任されたので、観光には造詣が深いのだ。

「私は知事になって初めての年、観光プロモーションのためソウルを訪れました。先方はびっくりして『ヨソからはたくさん来られるが、奈良がプロモーションに来られたのは初めてだ。大仏さまが歩いてきたのか』と言われました。従来の『大仏商法』を揶揄されて、そうおっしゃったのでしょう」。



「地域おこしができるのは『ヨソ者、若者、バカ者』だとよく言われます。燈花会の朝廣さんも、ヨソからお嫁に来られた方です。観光振興は、このような『元気リーグ』と手を携えて(任せっぱなしにするのではなく)やらなければなりません。私は県庁で『バカよばわりされるほどやれ』とハッパをかけています。前向きの失敗経験は、大切です」。

「観光客の『財布を狙うのではなく、その下のハートを狙え』と言われます。おカネを愛しているのか、地域を愛しているのか。奈良にはありがちですが、短絡的におカネを狙ってはいけません。ハートが開けば、自然と財布も開くものです」「県は、ヤル気のある市町村とタイアップして、連携事業を進めたいと思っています。相手が1つの市町村では難しいので、複数の市町村がタッグを組んでくれれば、県としても進めやすいのですが」。

「私は、インターネットで情報発信するのが最も大切だと考えています。信頼性のある商品・サービスをどんどん発信しましょう。小規模な新商売を立ち上げたいという人には、『マイクロファイナンス』のような手法が使えないものか、と考えています」。
http://tv.starcat.co.jp/channel/tvprogram/0432201008202200.html



マイクロファイナンスは、前日(8/20)にNHKが「常識破りの金融マンに密着 貧しい人向け金融ビジネスに世界が注目 格差ぶっ飛ばす斬新秘策大公開」というドキュメンタリー番組で紹介していて、これを知事が見て感動したということだった。
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/archive/20100821

マイクロファイナンス(マイクロクレジット)とは《1970年代の中頃、それまで融資の対象とされていなかった貧困層に対して、生産活動・所得創造のための資金を小額ながら無担保で提供するという画期的な取り組みがバングラデシュで始まり、アジアやラテンアメリカの幾つかの国々においても、同じ時期に同じような試みがそれぞれ独自の手法で行われました。それは壮大な実験でした。貧困層に無担保で融資するなんてとんでもない - それが当時の常識であり、いずれ行き詰るという冷やかな視線の中でのチャレンジだったと言います》。
http://www.daiwa.jp/microfinance/01.html


会場のすぐ近く、本薬師寺跡のホテイアオイ(トップ写真とも。04.8.18撮影)
※参考:本薬師寺跡のホテイアオイ(当ブログ内)
http://blog.goo.ne.jp/tetsuda_n/e/ab5007636b14f0228af2822c0ddf68ff

《しかし、「担保なんて裕福な人しか持ち得ないのに、それを前提にしたサービスしか提供できないのでは、いつまでたっても貧困にあえぐ人々の自立を促すことはできないではないか。彼女たちは最初の一歩を踏み出すためのわずかな資金さえあれば、経済的に自立に向けた道を進んでいけるはずだ」という信念のもと、単なる融資を超えた地道な活動が各地で行われました》。

《やがてそれらが実を結び、多くのプログラムが既存の銀行融資を大きく上回る返済率を示していることが明らかとなります。こうしてマイクロクレジットが開発プログラムとしてもビジネスとしても持続可能であることが明らかになるにつれ、慈善事業家や開発機関だけでなく研究者や実務者の間でも大きな注目を集めるようになりました。そして2006年、マイクロクレジットのビジネスモデルを確立したグラミン銀行のムハマド・ユヌス総裁がノーベル平和賞を授与されたことで、マイクロクレジットという用語が一般に広く知られるようになったのです》。



このあと西川さんが「明日香における歴史展示の推進について」、勝川さんが「明日香村伝承芸能保存について」、宮本さんが「中南和エリアにおける観光振興策について」、それぞれ意見を発表された。これらに対する知事のコメントで印象に残った部分を紹介する。

「飛鳥は韓国の人が評価しています。『百済のあとが飛鳥にある』と言われます。百済は660年に滅びたので、遺物がほとんど残っていないからです。百済と飛鳥は地形がよく似ています。法興寺(飛鳥寺)と百済の寺は、伽藍配置を始め、共通する点が多いです」「京都と奈良は大きく違います。京都は国風文化ですが、奈良は国際交流のなかで出来上がった文化です」。

「富山県の高岡市では毎年、(万葉集全20巻朗唱の会が)万葉集全20巻4,516首の歌のすべてをリレー方式で歌い継ぐイベントを行っています。朗唱者は全国から募集し、連続3昼夜にわたり2千人を超える人々が朗唱します」「鳥取県では、大伴家持が万葉集の最後の一首(新しき年の初めの初春の 今日降る雪のいや重け吉事)を詠んだというだけで、因幡万葉歴史館という立派な記念館を建てられました」。



「中南和には車で来てもらって駐車したあと、コミュニティバスや自転車で移動してもらうのが良いと思います」「県立橿原公苑の宿泊室を、ジョガーズステーション(ランニングステーション)にしようと思っています。走って汗をかいた人に、ここでシャワーを浴びて休憩してもらえます」。

会場からは4人の質問があった(会場で紙ペースにより受付)。2012年の「古事記編纂1300年」にちなみ、古事記などを活用したイベントを行うという知事の構想(16.記紀・万葉集を題材とした記念事業を実施するためのプロジェクトを立ち上げます)について、N先輩が「古事記だと、神話と歴史の峻別が難しいのでは」という質問をした。知事は「神話は神話として、歴史は歴史として、区別して取り上げることで問題は回避できると思います」とお答えになっていた。



最後に知事が「今日は良いご意見をいただきました。ポスト1300年祭の事業を推し進める上で、具体的に参考とさせていただきます」と締めくくられた。

今回の「知事と県民のつどい」は、とても参考になった。特に荒井知事のコメントは、議会の答弁のようなものではなく、相当踏み込んだもので(ブログに書けない話もある)、知事のホンネや奈良観光の問題点が浮き彫りになった。私が遠慮して遠回しに発言した部分も、ちゃんと本心を読み取っていただき、フォローして下さったのも有り難かった。話に夢中になるあまり、知事の持ち時間が相当オーバーし、2度ほどレッドカードが回っていた。

「つどい」が終わって、会議室を出てエレベーターに乗り、玄関先の車に乗り込むまで、ずっと知事とマイクロファイナンスの話をしていた。実際にグラミン銀行などの先例があるので、何か条件を付け加えれば、日本でも可能かも知れない。秘書に急かされて知事が車に乗り込んだあとも、気になっていた。少し、考えてみることにしよう。

今回は初めて「観光振興」がテーマとなったが、こんなに有益な話が聞けるのなら、毎回来たいと思う。次回を楽しみにしている。
コメント (3)
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