tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

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森トラスト社長の本心は? 観光地奈良の勝ち残り戦略(91)

2015年05月12日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
「観光地奈良の勝ち残り戦略」は、早くも100回目を窺うところまで来た。しかし話題は尽きない。他の話を追っかけていて、紹介するのが遅くなった。今回は読売新聞奈良版(4/19付)に載った、森トラスト株式会社の森章社長(森ビルの創始者である森泰吉郎氏の三男)へのインタビュー記事を紹介する。
※当記事の画像は、県の募集概要(PDF)からの引用

少し前置きしておく。新聞各紙で報道されたとおり、森トラストは現時点では、奈良市の県営プール跡地への高級ホテル誘致を「約束」したわけではない。単に「優先交渉権者」になっただけである。今後、森トラストは世界的にも認知度の高い4つ星ホテル運営会社と正式交渉を進め、その交渉が確定した時点で、正式な契約手続きが開始される(来年3月がメド)、というものだ。このあたりの事情は「陽は西から昇る! 関西のプロジェクト探訪」に詳しい。だから森社長は、今回のインタビューでも慎重な物言いをしている。ポイントを先にピックアップすると、

●奈良は京都と違って外国人からは分かりにくい。仏像は(仏師の)運慶や快慶が分かっていないと同じに見えてしまう。そこが京都の庭とは違う。だから奈良を訪れるのは、外国人でも、ある程度の知識を持つ人。知識人に奈良に滞在してじっくり見てもらうためには、外資系のホテルが必要だ。

●外資系ホテルの需要は、今後さらに増える。なぜなら、ネットワークが違うからだ。ホテルのブランド自体が外国人客に対する吸引力を持っている。国内でいくら宣伝しても外国人客は来ない。ブランド力が必要だ。だから外国人を誘致できる組織力のあるホテル会社に任せたい。

●(「大阪や京都のホテルと競合する心配はないか」と聞かれて)地方創生には観光が一番いい。つまりは自分たちの地域に魅力があるかどうかであって、競合などは問題にならない。

●精進料理などの日本の伝統をPRできないだろうか。チーズもミルクも、そうめんも奈良が最初。様々な和食が元をたどれば奈良に行き着く。それを物語風にして、歴史を感じさせる食事として提供すれば評判になるのではないか。

●奈良にふさわしい集客力あるブランド(の高級ホテル)を選択する必要がある。契約は発掘調査が終わる1年後ぐらいをめどに考えている。

●今回のホテルは地下に大きな駐車場やバスターミナルを造る計画がある。仮に遺構が見つかってホテルを誘致できなければ仕方がない。従来路線か、街おこしか。どちらを選ぶのかは、県民が決めることだと思う


私が気になるのは「契約は発掘調査が終わる1年後」「遺構が見つかってホテルを誘致できなければ仕方がない。従来路線か、街おこしか。どちらを選ぶのかは、県民が決めることだ」というくだりだ。県営プール跡地は、長屋王邸のすぐ南東、藤原仲麻呂(恵美押勝)邸のすぐ北側の貴族の邸宅が密集していた一角で(いわば高級住宅街)、東二坊大路に面している。西側は曲水苑池の庭(平城京左京三条二坊跡庭園)跡地。

発掘すれば遺構が見つかる可能性は極めて高い。こんなところの「地下に大きな駐車場やバスターミナルを造る計画がある」とは…。森社長は、遺構の保存か、ホテル誘致かは「県民が決めること」と突き放している。奈良そごう(現イトーヨーカドー)建設に際しては、地元民や研究者の反対にも関わらず、長屋王邸の遺構の多くが建設により破壊されたことは、県民の記憶に新しいのに…。

このあたりについて、金田充史さんはFacebookで《注意頂きたいのは、このホテル、まだ決定はしていない。提案を受け入れたと云うだけだ。お互いの調印をして、初めて決定となる訳だが、この事は、森トラストの社長の「文化財が出てきて、その結果、地下が出来なければ、進出しない」と4月19日の、読売新聞で明言している。また「それを選択するのは、県民だ」と云う、あからさまに、奈良県民が、その責任であるかの様な、失礼千万な発言まである》と書かれている。

ならまち通信社さんもTwitterで《奈良県営プール跡地の高級ホテル誘致について、森トラスト社長の談話。ところどころ話が変。観光でそれほど奈良の「地方創生」になるとも思えない。荒井知事の話に合わせてると見せて、しおどきになったら退散する用意をしているようにも見える》とお書きである。くわばら、くわばら…。

ともあれ、当事者の現時点での発言として頭に入れておく価値はあると思うので、最後に全文を紹介する。



外資ホテル ブランド力発揮 
◇森トラスト・森章社長に聞く

奈良の観光を従来の「日帰り型」から、「宿泊滞在型」へ変えようという動きが出てきた。3選を決めた荒井知事は、奈良市役所南側の県営プール跡地に外資系の四つ星クラスのホテルを誘致。周辺には国際会議場や劇場などを整備して、外国人を中心に宿泊客数のアップを目指す。県と協定を結んでホテル誘致の実務を担う不動産開発大手・森トラスト(東京)の森章社長(78)に奈良観光の将来像などを聞いた。(聞き手・坂木二郎)

――奈良市へのホテル誘致を進める理由は
「昨年はシルクロードが世界遺産登録された。これから中国は、中央アジアのインフラ整備や海のシルクロードなどのPRにかなり力を入れるだろう。日本以外では、王朝が代わるたびに文化財が壊されてしまった。それがシルクロードの終着点の奈良には残っている。盛り上がると思う」

「ただ、奈良は京都と違って外国人からは分かりにくい。仏像は(仏師の)運慶や快慶が分かっていないと同じに見えてしまう。そこが京都の庭とは違う。だから奈良を訪れるのは、外国人でも、ある程度の知識を持つ人。知識人に奈良に滞在してじっくり見てもらうためには、外資系のホテルが必要だ」

――外国人観光客は県内でも増加している
「外資系ホテルの需要は、今後さらに増える。なぜなら、ネットワークが違うからだ。ホテルのブランド自体が外国人客に対する吸引力を持っている。国内でいくら宣伝しても外国人客は来ない。ブランド力が必要だ。だから外国人を誘致できる組織力のあるホテル会社に任せたい。国内でいくら中身が四つ星だ、五つ星だと言っても駄目。奈良に造るホテルでは、宿泊客の7割は外国人になると思う」

――大阪や京都のホテルと競合する心配はないか
「昨年のインバウンド(来日外国人観光客)の1340万人は、まだ数の内に入っていない。何千万人にもなる可能性を秘めている。今のゴールデンコースは東京―京都―大阪。それをどんどん、中国人は富士山と温泉が好き、東南アジアの人は雪が好きだから北海道とか、相手が何を望むかに合わせていけば、地方にも拡大する。地方創生には観光が一番いい。つまりは自分たちの地域に魅力があるかどうかであって、競合などは問題にならない」

――「奈良にうまいものなし」というイメージが定着している
「奈良は寺が多い。京都の南禅寺のように、精進料理などの日本の伝統をPRできないだろうか。チーズもミルクも、そうめんも奈良が最初。様々な和食が元をたどれば奈良に行き着く。それを物語風にして、歴史を感じさせる食事として提供すれば評判になるのではないか」

――奈良に誘致するホテルの構想は
「今は数社で調整している。後から『こういうホテルを作ってくれ』と要望しても、外資は自分たちのブランドを変えようとしない。あらかじめ、こちらの希望に合う、奈良にふさわしい集客力あるブランドを選択する必要がある。契約は発掘調査が終わる1年後ぐらいをめどに考えている」

――奈良市は地下に遺構が多い
「だから奈良は空白地帯になってしまった。荒井知事まで大きな構造物を建てさせなかったから。今回のホテルは地下に大きな駐車場やバスターミナルを造る計画がある。仮に遺構が見つかってホテルを誘致できなければ仕方がない。従来路線か、街おこしか。どちらを選ぶのかは、県民が決めることだと思う」

<森トラスト> 1970年設立で、資本金100億円。グループ全体でリゾート開発、ホテルの誘致、運営などを行う。東京マリオットホテル(東京)やコンラッド東京(同)、翠嵐ラグジュアリーコレクションホテル京都(京都)などのほか、オフィスや商業施設も手がける。森社長は大神(おおみわ)神社(桜井市)とゆかりがあり、崇敬者総代を務める。


[5/13追記]金田充史さんがFacebookに、こんなコメントを書かれましたので、紹介いたします。
VIPが来ると云うのはこちらの言い分で、使って貰えるかどうかは別の話。決定権は先方ですから「こんなホテルはあかん」となれば、使ってもらえない。しかし、その時にはホテルはもう建っている訳です。だから今の議論は需要を睨んだマーケティングではなく、「とにかく、ホテルありき」だけの議論に終始し、また森トラストも、できない理由を県民のせいにして、自社の責任回避をしています。

すばらしいホテルは、必ずしも駅前ではなく、周辺環境が第一に考えられた場所に建てられています。ロイヤルホテル然り、ニューオータニ然り、帝国ホテル然りです。この場所が果たしてその様な場所なのか、これは、森トラスト本人が、ホンネで言えば一番理解している筈。

企業は、採算ベースに乗らない投資はしません。しかし、知事や市長などに別の利権をちらつかせられて、そちらとのセットで行う例も多く、それも見逃せない所です。奈良でもその事例は数多く存在し、だから結果的に、そこでオペレーションしているホテルは、四苦八苦する訳です。経済観念のない行政が経済を語るとこうなる、と云う見本だけは避けたいところですね。
コメント (9)
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