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インバウンドの今後/観光地奈良の勝ち残り戦略(112)

2016年12月27日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
南都銀行グループの地域シンクタンク、一般財団法人南都経済研究所の「ナント経済月報」2016年11月号に、興味深いレポートが掲載されていた。特集「奈良県におけるインバウンド(訪日外国人旅行)の現状と今後の方向性」で、筆者は研究員・太田宜志(たかし)さん。A4版で8ページもの大レポートで、全文はこちら(PDF)に掲載されている。以下、要点だけを抜粋して紹介する。

[リード文]人口減少社会に突入したわが国では、経済活動の縮小が懸念されている。一方、日本を訪れた外国人旅行者数(訪日外客数)はここ4年間で急増し、今年中の年間2,000万人達成が確実視される中、3兆4,771億円と推計される旅行消費額はわが国経済に好影響をもたらしている。

全国平均を上回るスピードで少子高齢化が進む奈良県においても、人口減少に伴う消費減少を補う上でインバウンド・ツーリズム(訪日外国人旅行、以下インバウンド)誘致による経済活性化が有効と期待されるが、現状は日帰り観光が中心であるため県内経済への効果は限定的と見られる。本稿では奈良県経済活性化の可能性を探るべく、インバウンドの現状と今後の方向性を考えたい。

[はじめに]期待されるインバウンド消費
観光庁「訪日外国人消費動向調査」(2015年)によれば、外国人旅行者1人あたりの旅行支出は17.6万円であることから、定住人口1人減少分の年間消費額を補うには、年間7人の外国人旅行者を新たに誘致することが必要と算出される。

またインバウンドの増加は、経済面にとどまらず様々な好影響をもたらす。例えば、異文化の相互理解が進み国際親善の増進につながる、地域の魅力が外国人旅行者から評価されることで住民にとって愛着や誇りの醸成につながる、等の副次効果が考えられる。



Ⅰ.世界から見た日本の国際観光競争力
1.日本の旅行・観光競争力指数は世界9位
日本の旅行・観光競争力指数(TTCI)2015は世界9位、アジア太平洋地域では豪州に次ぐ2位であった。固有の文化遺産(2位)等の豊富な文化資源(6位)、鉄道等の効率的な陸上輸送(17位)・航空輸送(19位)インフラ、充実したICT環境(9位)、高品質な顧客対応を実現する人的資源(15位)等が評価された結果である。一方で、物価が高く価格競争力(119位)は低いと指摘されている。

2.日本の国際観光収入は対名目GDP比で低水準
名目GDPに占める国際観光収入の割合を見ると、日本は0.6%と米国(1.1%)や欧州各国の水準(概ね1~2%前後)に比べて低く、成長の余地を残していると考えられる。

Ⅱ.全国のインバウンドの現状
1.訪日外客数の推移
2015年の訪日外客数は2010年比で約2.3倍に増加し1,974万人となった。国籍別に内訳をみると、中国(499万人)が全体の約4分の1を占め、韓国(400万人)、台湾(368万人)の順に多い。

これまで掲げていた「2020年に2,000万人」という目標を前倒しで達成することが確実な情勢となったことを受け、政府は「2020年に4,000万人」と倍の目標を新たに設定。

2.訪日外国人旅行消費額の国籍別内訳
国籍別の内訳をみると、中国(1兆4,174億円)が全体の約4割を占め、次いで台湾(5,207億円)、韓国(3,008億円)の順に多い(図表5)。旅行消費を特定の国に依存することはリスクが大きく、多様な国々から旅行者を受け入れることが重要である。

3.訪日前に最も期待されていること
全体では「日本食を食べること」(26.0%)、「ショッピング」(17.0%)、「自然・景勝地観光」(14.9%)の順となった。このほか、中国・韓国・米国・フランスの4か国別に回答傾向を見ると、中国は「ショッピング」(25.9%)が1位、韓国では「温泉入浴」(15.5%)が2位と他の国に比べてニーズが高い。米国・フランスでは「日本の歴史・伝統文化体験」(米10.9%、仏9.3%)が3位に入っていることが特徴的である。

4.外国人に人気の観光スポット
1位の「伏見稲荷大社」は参道の千本鳥居が、3位の「厳島神社」は満潮時に海上に浮かぶ鳥居が、日本らしさの感じられる美しい情景として外国人旅行者に人気が高いと見られる。これら社寺のほか、「サムライ剣舞シアター」(剣舞の鑑賞・体験施設)や「アキバフクロウ」(フクロウと触れ合えるカフェ)、「ギア専用劇場」(国籍問わず楽しめるノンバーバル(=言葉に頼らない)パフォーマンス)等がランクインしていることから、自国にはない非日常的な体験ができるコンテンツが人気であることがうかがえる。

奈良県からは東大寺(4位)・奈良公園(7位)が上位にランクインしているが、これは「大仏と鹿」というコンテンツが外国人にわかりやすく、高い評価を受けているためと考えられる。



Ⅲ.奈良県のインバウンドの現状
1.奈良県訪問外客数(推計)の推移
2015年の奈良県訪問外客数(推計)は1,033千人で、前年(664千人)比55.7%増となった。訪問外客数が全国3位の大阪府(同91.7%増)や同4位の京都府(同63.8%増)が急速に訪問外客数を伸ばす中、両府県から交通アクセスの良い奈良県にもその一部が流入していると見られ、奈良県訪問外客数は全国13位と高い水準となっている。

2.奈良県訪問外客数(推計)の国籍別内訳
中国(36.3%)、台湾(19.0%)、韓国(12.3%)の順で多く、全国と比べて中国が多い。対人口比奈良県訪問率をみると、香港(0.996%)や親日家が多いことで知られる台湾(0.834%)で高く、これらの国・地域では総人口の約1%に相当する旅行者が2015年の1年間に奈良県を訪れた計算になる。また、絶対数は少ないもののフランス(2.0%)やイタリア(1.4%)が構成比では全国を大きく上回っている。これら欧州からの旅行者は日本の歴史や文化に関心が高く、奈良県に所在する伝統的建築物にも興味があると考えられる。

3.奈良県の1人あたり旅行消費単価は全国最低
外国人旅行者の旅行消費額(推計)は56.9億円と全国24位であった。1人あたり旅行消費単価が5,505円(同最下位)と低いことが影響しており、その理由の一つは、大阪府や京都府からアクセスの良い東大寺や奈良公園等への日帰り観光が中心で、県内での宿泊を伴う滞在型観光につながっていないためである。実際、訪問目的を観光・レジャー目的に限ると、奈良県を訪問した外国人の平均泊数は0.5泊と全国46位で、千葉県(0.3泊)に次いで少ない。

4.1人あたり旅行消費単価は欧米系が高い
訪問外客数では下位にある豪州やドイツは1人あたり旅行消費単価が高い。総じて欧米からの旅行者は1人あたり旅行消費単価が高く、宿泊を伴った滞在型観光を行っていると見られる。一方で韓国や香港は、訪問外客数が多いものの1人あたり旅行消費単価は低水準にある。これらの国・地域は地理的に日本と近く、日本の歴史や文化に興味が高くないためと考えられる。



Ⅳ.奈良県が歩むべき今後の方向性
1.旅行消費額の増加に向けて
(1)1人あたり旅行消費単価の上昇が課題
奈良県訪問外客数は66.4万人(14年)から103.3万人(15年)へと増加した。外国人旅行者のもたらす消費は魅力的に映るが、1人あたり旅行消費単価の低さから旅行消費額の増加は約20億円にとどまると見られる。人口減少に伴う消費減少をすべて外国人旅行者の消費で補うことは難しくとも、県内経済活性化に向け1人あたり旅行消費単価を上昇させることが課題である。

(2)日帰り観光を宿泊へ繋げる工夫が重要
2015年の奈良県における外国人宿泊者は前年比78.0%増加した(観光庁「宿泊旅行統計調査」)が、その中には大阪府・京都府での客室不足に伴い、奈良県に流入した宿泊者が含まれると考えられる。大阪府・京都府での客室数増加により不足が解消されると、宿泊者の流入は減少する。

こうした中、奈良県は外国人旅行者の滞在を促すため、2015年7月に外国人観光客交流施設「奈良県猿沢イン」を開業。外国人旅行者向け観光情報の提供や観光ツアー商品の取次販売の他、日本文化を気軽に体験できる催しを開いている。外国人旅行者の滞在時間を延ばし、宿泊を促す取組みとしては、ライトアップイベントや飲み歩きツアー等も有効と考えられる。

2.個人旅行の獲得に向けて
(1)団体旅行から個人旅行へのニーズの変化
観光・レジャー目的で日本を訪れた中国人旅行者のうち、個人旅行者(団体旅行以外の旅行者)の割合は28.5%(2012年)から43.8%(15年)へと高まっている(観光庁「訪日外国人消費動向調査」)。眼前の団体旅行者に対して滞在時の満足度を高めることが、将来、個人旅行者として長期滞在してもらう布石となると考えられる。

(2)狙いを絞った誘致活動と観光コンテンツの充実
欧米系旅行者は、近隣のアジア諸国に比べて絶対数は少ないものの、個人旅行が約9割を占め、1人あたり旅行消費単価が高く、奈良県にとっては理想的な顧客と言える。

奈良県内での滞在型観光を増やすためには、奈良県に所在する歴史・文化的な遺産に関心が高く、かつ時間に余裕のある個人旅行を好む層に狙いを絞った誘致活動が必要である。加えて、個々のニーズに合わせた、日本や奈良県らしさの感じられる観光コンテンツを充実させる必要がある。

(3)地域一体となった観光戦略の策定と実行
個人旅行者の獲得も含め、インバウンドの誘致にあたっては、観光関連事業者や交通事業者、自治体等の多様な関係者間で目標を共有し、明確なコンセプトのもと地域が一体となって戦略を策定・実行していく必要がある。また、県北部地域に集中する観光客を中南部へ誘導する等、地域間の連携も求められる。

一方で、外国人旅行者に限らず観光客の増加を歓迎しない住民も存在する。多様な関係者間で複雑な利害関係を調整しつつ、中長期的な観点から地域の観光戦略を練り、積極的に取り組むことが必要となるが、個別的な取組みには限界がある。そこで注目されているのが、DMO(Destination Management Organization)である。

DMOとは、観光経済の最大化を実現するため観光を中心に据えた地域づくりを担う法人である。DMOには多様な関係者間で合意を形成し、着地型旅行商品の企画・販売や、ランドオペレーター業務※等の機能を果たすことが期待されている。(※旅行会社の依頼を受け、旅行先のホテルやレストラン、ガイドやバス・鉄道等の手配・予約を¬行うこと。)

奈良県内市町村を対象としたDMOとしては、一般財団法人奈良県ビジターズビューロー、一般社団法人高野吉野路ツーリズムビューロー(仮称)が候補法人として観光庁に登録されている(2016年10月現在)。今後、これらDMOを核として観光地域づくりが進展し、消費拡大による県内経済活性化を果たすことが望まれる。

[おわりに]東京五輪後を見据えた観光戦略を
これまでの五輪開催国の状況から、2020年の東京五輪開催まで訪日外客数は増加すると予測されている。しかし、その反動で翌年以降来訪が落ち込まないとも限らない。奈良県においては「2020年がピークだった」とならないよう、顧客ニーズをとらえた満足度の高いコンテンツ作りとリピーター化に努めることが求められている。奈良県が国際観光都市として一層輝きを放つことができるかは、これからの取組みにかかっている。 


このレポートで改めて気づかされたのが、Ⅳ.(3)の「DMO」だ。これが奈良県は弱い。全県一丸となったヨコの連携が少ないので、お客は奈良市だけを半日回り、大阪や京都に泊まりに帰ってしまう。私が会社帰りに近鉄奈良駅から電車に乗ると、車内は大阪や京都に泊まりに行く(帰る)外国人観光客ですし詰め状態である。車内ではにこやかに鹿と撮った写真などを眺め合っているが結局、おカネを落とさずゴミだけ落として奈良を離れるのだ。

DMOを県ビジターズビューローに丸投げしていては何も進まないし、高野吉野路ツーリズムビューローは、今のところ何の動きも見えない。故郷(紀州九度山)に帰ると、たくさんの外国人観光客が高野山をめざす姿が目につく。宿坊での宿泊や精進料理、早朝のお勤めなどが「異文化体験」といて支持されているのだ。大阪→高野→吉野→飛鳥→奈良、という観光コースを整備すれば、多くの(内外)観光客が利用することだろう。

今回の特集記事は、日本と奈良県のインバウンドの状況と今後めざすべき方向性がよく示されたレポートだった。幸か不幸か「爆買い」バブルがはじけ、これからはコンテンツで勝負する時代、奈良県の本領を発揮する時だ。


 
コメント (4)
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