毎日新聞夕刊(2024年11月29日付)に〈「期間限定」支援、もったいない 地方創生のパイオニア、奈良県川上村 交付金や職員配置「国は息長く」〉という記事が出ていた。川上村(奈良県吉野郡)は、移住者の増加など村の活性化に力を入れていて、着実に成果を上げている。そこに記者が注目したようだ。川上村さん、おめでとうございます! 以下に全文を紹介する。
※トップ写真は、毎日新聞の記事サイトから拝借した
(義務教育学校の校庭で開かれたモルック大会=2024年6月16日)
スーパーも鉄道の駅もない過疎の村が、人口流出と少子化に歯止めをかけようと挑戦を続け、全国から注目を集めている。10月に就任した石破茂首相は「地方創生2・0」を始動させるとして自治体向けの交付金を倍増する方針を表明。「新しい地方経済・生活環境創生本部」を創設するなど地方創生に力を入れる。移住者の増加など着実に地方創生の成果を上げてきた村に、国の政策はどう映るのか。
奈良県南東部の吉野川源流に位置する川上村。村の95%を山林が占め、高級材「吉野杉」の産地として知られている。1955年の人口は約8000人だったが、大型ダム建設に伴う立ち退きや林業の衰退で住民が流出した。「自治体消滅」への危機感を抱いた村はこの10年間、買い物支援など村民が住み続けられる環境を整え、子育て世代への手厚い支援を展開するなど移住者を呼び込む対策に力を入れてきた。
その結果、改善の兆しが見られるようになってきた。2024年3月末時点では1202人と村全体の人口は減少が続くが、子育て世代を中心に移住者は増加し、0~14歳の人口は75人と14年に比べて41%増えた。国立社会保障・人口問題研究所が18年に公表した将来推計人口は、45年に「270人」になると予測されたが、23年公表の推計では「505人」に改められるなど人口減少のスピードは緩やかになっている。
全国の過疎地が地方創生に向けて妙案を見いだせない中、村の取り組みには全国の自治体関係者や議員らの視察も多い。奈良市の中心部から車で約2時間かけて訪ねた。
集会施設「ふれあいセンター」に着くと、村民の生活を支援する一般社団法人「かわかみらいふ」の事務局長、三宅正記さん(47)が迎えてくれた。16年に村などが出資して立ち上げた法人で、移動スーパーの運用や食品の宅配を活動の柱にしている。
買い物と見守り両立
スーパーのない村では、買い物弱者となった高齢者が村外に移り住むことも課題になっていた。移動スーパーのトラックには野菜や魚などの生鮮食品や洗剤などの日用品、菓子などを積み、週5日、村内の集落を巡っている。「あそこの住民は豚肉なら肩ロースが好き」と、回るコースによって積む商品をきめ細かく変更。看護師や歯科衛生士を帯同して、健康相談にも応じている。
「買い物支援はツールで、見守りが目的になっている」と三宅さん。利用者との会話の中で認知症の疑いに気付けば、役場や社会福祉協議会と情報を共有している。25人ほどいる職員は全員が村内在住で、古くからの住民と移住者が協力して支援に取り組み、雇用の創出にもつながっている。三宅さんは「村民が主体となっていることの意味が大きい」と強調していた。
17年に村唯一のガソリンスタンドが廃業した際には運営を引き継ぎ、家庭への灯油の配達も担っている。大阪から移住した50代女性は「10月初めに県道が崩れて孤立世帯が出たが、食料や生活用品は何とかして運んでもらえる安心感がある」と話していた。
移動スーパーの車両購入や事務所の整備には、地方創生交付金を充てたという。14年から初代・地方創生担当相を務めた石破首相の地方創生への思い入れは強く、10月の所信表明演説で、当初予算ベースで地方創生交付金を倍増する方針を打ち出した。地方創生交付金は16年度から当初予算で毎年1000億円が計上され、補正予算と合わせると約1・3兆円が国から自治体に配られた。
交付金について三宅さんは「事業の初期投資には使い勝手がいい」と一定の評価をしつつも、多くの場合、交付が5年程度に限られている点を踏まえて、注文を加える。「交付金を利用して事業が立ち上がっても、過疎地において自力で継続していくことは難しい。事業の内容が適切か評価した上で、交付終了後も、人件費などランニングコストの一部でも支援してもらえる仕組みがあれば助かる」と話す。
現在、職員には国から財政支援を受けられる「地域おこし協力隊員」や「地域活性化起業人」も配置している。どちらも最長3年の任期があり、三宅さんは「良い制度だが、期限が切れて終わりではもったいない」とも感じている。村では、外からの移住を促す施策にも力を入れてきた。13年から移住定住施策「川上ing作戦」に取り組み、村営住宅やシェアハウスなど住居の紹介や仕事の相談などに応じている。これまでの移住実績は129人になる。
修学旅行も無料に
子育て支援も手厚く、児童手当を高校生まで拡充した国の動きに先駆けて、15年から高校生へ月5000円の手当を支給してきた(児童手当の拡充に伴い廃止)。保育料や高校生までの医療費、小中学校では修学旅行を含めた教材費も無料になり、習い事の費用の助成もある。
4月には保育所と小中一貫の義務教育学校を同じ敷地に開設し、保健師ら専門職が常駐する子育て支援施設「こども家庭センター」を併設している。休日には校庭を「公園」として利用でき、6月に開かれた、年齢や障害の有無に関わらず楽しめるスポーツ「モルック」の大会では3歳から90代まで多世代の村民約110人が交流を楽しんだ。学校周辺には村内初のコンビニもオープンした。
三宅さん自身も三重県から移り住み、妻潤子さん(44)と共に「かわかみらいふ」で働きながら、中学3年と小学3年の姉妹を育てている。子育て支援の充実も実感する三宅さんは「村が良い方向に進んでいくには、子育てと高齢者支援の両輪を回していることが大切」と話し、「地方の活性化は、すぐに結果が出るものではない。お金のバラまきではなく、活動に対する息の長い支援にも力を入れてもらえればありがたい」と期待を語った。【塩路佳子】
※トップ写真は、毎日新聞の記事サイトから拝借した
(義務教育学校の校庭で開かれたモルック大会=2024年6月16日)
スーパーも鉄道の駅もない過疎の村が、人口流出と少子化に歯止めをかけようと挑戦を続け、全国から注目を集めている。10月に就任した石破茂首相は「地方創生2・0」を始動させるとして自治体向けの交付金を倍増する方針を表明。「新しい地方経済・生活環境創生本部」を創設するなど地方創生に力を入れる。移住者の増加など着実に地方創生の成果を上げてきた村に、国の政策はどう映るのか。
奈良県南東部の吉野川源流に位置する川上村。村の95%を山林が占め、高級材「吉野杉」の産地として知られている。1955年の人口は約8000人だったが、大型ダム建設に伴う立ち退きや林業の衰退で住民が流出した。「自治体消滅」への危機感を抱いた村はこの10年間、買い物支援など村民が住み続けられる環境を整え、子育て世代への手厚い支援を展開するなど移住者を呼び込む対策に力を入れてきた。
その結果、改善の兆しが見られるようになってきた。2024年3月末時点では1202人と村全体の人口は減少が続くが、子育て世代を中心に移住者は増加し、0~14歳の人口は75人と14年に比べて41%増えた。国立社会保障・人口問題研究所が18年に公表した将来推計人口は、45年に「270人」になると予測されたが、23年公表の推計では「505人」に改められるなど人口減少のスピードは緩やかになっている。
全国の過疎地が地方創生に向けて妙案を見いだせない中、村の取り組みには全国の自治体関係者や議員らの視察も多い。奈良市の中心部から車で約2時間かけて訪ねた。
集会施設「ふれあいセンター」に着くと、村民の生活を支援する一般社団法人「かわかみらいふ」の事務局長、三宅正記さん(47)が迎えてくれた。16年に村などが出資して立ち上げた法人で、移動スーパーの運用や食品の宅配を活動の柱にしている。
買い物と見守り両立
スーパーのない村では、買い物弱者となった高齢者が村外に移り住むことも課題になっていた。移動スーパーのトラックには野菜や魚などの生鮮食品や洗剤などの日用品、菓子などを積み、週5日、村内の集落を巡っている。「あそこの住民は豚肉なら肩ロースが好き」と、回るコースによって積む商品をきめ細かく変更。看護師や歯科衛生士を帯同して、健康相談にも応じている。
「買い物支援はツールで、見守りが目的になっている」と三宅さん。利用者との会話の中で認知症の疑いに気付けば、役場や社会福祉協議会と情報を共有している。25人ほどいる職員は全員が村内在住で、古くからの住民と移住者が協力して支援に取り組み、雇用の創出にもつながっている。三宅さんは「村民が主体となっていることの意味が大きい」と強調していた。
17年に村唯一のガソリンスタンドが廃業した際には運営を引き継ぎ、家庭への灯油の配達も担っている。大阪から移住した50代女性は「10月初めに県道が崩れて孤立世帯が出たが、食料や生活用品は何とかして運んでもらえる安心感がある」と話していた。
移動スーパーの車両購入や事務所の整備には、地方創生交付金を充てたという。14年から初代・地方創生担当相を務めた石破首相の地方創生への思い入れは強く、10月の所信表明演説で、当初予算ベースで地方創生交付金を倍増する方針を打ち出した。地方創生交付金は16年度から当初予算で毎年1000億円が計上され、補正予算と合わせると約1・3兆円が国から自治体に配られた。
交付金について三宅さんは「事業の初期投資には使い勝手がいい」と一定の評価をしつつも、多くの場合、交付が5年程度に限られている点を踏まえて、注文を加える。「交付金を利用して事業が立ち上がっても、過疎地において自力で継続していくことは難しい。事業の内容が適切か評価した上で、交付終了後も、人件費などランニングコストの一部でも支援してもらえる仕組みがあれば助かる」と話す。
現在、職員には国から財政支援を受けられる「地域おこし協力隊員」や「地域活性化起業人」も配置している。どちらも最長3年の任期があり、三宅さんは「良い制度だが、期限が切れて終わりではもったいない」とも感じている。村では、外からの移住を促す施策にも力を入れてきた。13年から移住定住施策「川上ing作戦」に取り組み、村営住宅やシェアハウスなど住居の紹介や仕事の相談などに応じている。これまでの移住実績は129人になる。
修学旅行も無料に
子育て支援も手厚く、児童手当を高校生まで拡充した国の動きに先駆けて、15年から高校生へ月5000円の手当を支給してきた(児童手当の拡充に伴い廃止)。保育料や高校生までの医療費、小中学校では修学旅行を含めた教材費も無料になり、習い事の費用の助成もある。
4月には保育所と小中一貫の義務教育学校を同じ敷地に開設し、保健師ら専門職が常駐する子育て支援施設「こども家庭センター」を併設している。休日には校庭を「公園」として利用でき、6月に開かれた、年齢や障害の有無に関わらず楽しめるスポーツ「モルック」の大会では3歳から90代まで多世代の村民約110人が交流を楽しんだ。学校周辺には村内初のコンビニもオープンした。
三宅さん自身も三重県から移り住み、妻潤子さん(44)と共に「かわかみらいふ」で働きながら、中学3年と小学3年の姉妹を育てている。子育て支援の充実も実感する三宅さんは「村が良い方向に進んでいくには、子育てと高齢者支援の両輪を回していることが大切」と話し、「地方の活性化は、すぐに結果が出るものではない。お金のバラまきではなく、活動に対する息の長い支援にも力を入れてもらえればありがたい」と期待を語った。【塩路佳子】
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