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聖徳太子 虚構説、怨霊説を読み解く

2024年10月13日 | 明風清音(奈良新聞)
毎月1~2回、奈良新聞「明風清音」欄に寄稿している。先月(2024.9.19)掲載されたのは、〈「オカルト聖徳太子」考〉だった。聖徳太子については、虚構説や怨霊説など、さまざまに取り沙汰され、全体像が見えにくくなっている。そこで、オリオン・クラウタウ著『隠された聖徳太子――近現代日本の偽史とオカルト文化』(ちくま新書)をもとに、いろんな説をスッキリとまとめることにしたので、ご参考にしていただきたい。

「オカルト聖徳太子」考
私はよく、聖徳太子に関する講演の依頼をいただく。年に1度くらいは必ずリクエストがあり、2021(令和3)年の太子1400年遠忌の年には、各地で何度もお話しした。

聞きに来られるのはシニア世代なので、教科書に載るような話だけでは、納得してもらえない。虚構説や怨霊説にも触れながら、様々な太子像を紹介している。

なお虚構説とは、中部大学名誉教授・大山誠一氏の説で、太子のモデルとなった厩戸(うまやと)王という王族は実在したが、史実は「用明天皇と穴穂部間人皇女の間に生まれ、601年に斑鳩宮を造り、その近くに若草伽藍として遺構が残る寺を建立した」という程度で、『日本書紀』などに記された事績は、後世の創作であるとする説だ。

オリオン・クラウタウ著『隠された聖徳太子――近現代日本の偽史とオカルト文化』(ちくま新書)を読んだ。著者はブラジル生まれの東北大学准教授で、専門は日本宗教史学。

本書序文には、〈本書の主な目的は、聖徳太子にまつわる「異説」がどのような背景をもとに成立し、それらがいかなる時代的なニーズに応えるために構築されていったのかを明らかにすることである〉。本書の多彩な内容をすべて紹介することはできないが、特に印象に残ったところを記す。

▼中里介山『夢殿』
早くから、太子像の形成に景教(古代キリスト教ネストリウス派)の影響があった可能性や、太子と親しかった秦河勝(はたのかわかつ)が一神教の信者だったという説が唱えられていた。これらの題材を集め、「太子は景教徒の秦河勝に影響された」という話を作り上げたのは、1929(昭和4)年に刊行された中里介山の小説『夢殿』だった。

会話の中で、日本には八百万の神がいるが景教の神は一つであること、太子は厩の前で生まれたが、イエスも馬小屋で生まれたことなどを語らせている。

▼司馬遼太郎「兜率天の巡礼」
司馬遼太郎も新人時代の57(同32)年、「兜率(とそつ)天の巡礼」という短編小説で、主人公の妻の本家は兵庫県赤穂郡比奈大避(おおさけ=ダビデ)神社神官の波多(はた)家だったこと、波多家は渡来人の秦氏で、妻はユダヤの移民団の子孫で景教の信者だったと書く。そして秦氏は太子に、多額の政治資金を供給し続けたとする。

司馬は68(同43)年に発表された随筆「“好いても惚(ほ)れぬ”権力の貸座敷〈京都〉」でも、河勝が太子の別荘として広隆寺を建立・献上したこと、同寺の「小さな森」にある三柱鳥居(三位一体を表す)、大避神社やヤスライ(イスラエル)の井戸などにも言及している。

▼梅原猛『隠された十字架』
「オカルト太子」を語り話題となった最高傑作は、72(同47)年に刊行された梅原猛著『隠された十字架 法隆寺論』だろう。今ではその説を支持する人も少なくなったが、出版当時は大人気を博し、毎日出版文化賞を受賞した。

本書で梅原は、法隆寺は太子の怨霊を封じ込める寺で、中門の中央の柱は太子の怨霊を外に出さないためのもの。太子の長男・山背大兄王一族を殺害した黒幕は中臣鎌足で、息子の藤原不比等は太子の怨霊を恐れ、それを封じ込めるために法隆寺を建立(再建)したとする。この梅原説に触発されて、山岸凉子氏は少女漫画『日出処(ひいずるところ)の天子』を描き、これも大ヒット作となった。

▼五島勉『聖徳太子の秘予言』
73(同48)年、五島勉は『ノストラダムスの大予言』を刊行した。当時のオカルトブームの波に乗り、250万部の大ベストセラーとなった。91(平成3)年、五島は『聖徳太子「未来記」の秘予言』を刊行した。

〈太子は、堕落したユダヤ教・キリスト教中心の西洋に対して、新人類を生み出す仏教中心の東洋文明の決定的な役割を予言し、世界の終末期の日本人に伝わるように、その希望のメッセージを美しい法隆寺に隠した〉(『隠された聖徳太子』)。

五島はこのあとも太子をテーマに「ノンフィクション」2冊を刊行し、太子をノストラダムスに代わる予言者に仕立て上げたのである。(てつだ・のりお=奈良まほろばソムリエの会専務理事)


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