tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

第1回「ふるさとカフェ」

2009年07月24日 | 奈良にこだわる
7/21(火)、第1回「ふるさとカフェ」が開催された。奈良新聞の告知記事(6/22付)によると《県は本年度から、荒井正吾知事が県出身者と対談し、奈良への思いや「これから」について語り合い、県政推進の参考にする「ふるさとカフェ」を開催する。第1回は7月21日午前10時半から、奈良市登大路町の登大路ホテルで開く》。
http://www.nara-np.co.jp/20090622120704.html


登大路ホテルのロビー

《荒井知事は先日の定例会見で、「奈良に縁のある有識者など奈良に帰っていただき、アドバイスをいただきたい」と語った。初回ゲストは編集工学研究所(東京都)の松岡正剛所長と、森精機製作所(名古屋市)の森雅彦取締役社長。奈良県出身者など、奈良を「ふるさと」とする著名人や有識者を招き、「奈良の今」「奈良のこれから」「奈良への思い」を語ってもらう》。



《参加募集人数は30人。参加費は飲み物代として500円。応募者多数の場合は抽選。対象者は県内在住、在勤、在学の人で、参加希望者は住所、氏名、年齢、職業、電話番号と性別、「ふるさとカフェ参加希望」と明記し、はがきやファクス、メールなどで申し込む。はがき1枚で4人まで申し込みできる。応募締め切りは7月10日》。


登大路ホテルのバー

7/21は、朝から土砂降りだった。「この雨だと、参加者は減るかな」と思っていたが、ほぼ満席だったので驚いた。森精機製作所が所有する会員制ホテル「登大路ホテル」に入れていただくのはこれが初めてだったが、噂に違わぬ素晴らしいホテルである。規模こそ小さいが、接客は良いしコーヒーも美味しかった。ちゃんと傘まで預かって下さったのは、とても有り難かった。

私が聞きたかったのは松岡正剛(まつおか・せいごう)氏のお話であった。彼の話を中心に、この鼎談(ていだん)をざっと紹介してみる。



松岡氏はこう語る。《古都・奈良を語る人は多いが、「1300年間の奈良」を面白く語れる人は少ない》《今の世の中は偏っている。ポピュリズム(人気取り)と言えば良いのか、マスコミもこの傾向に拍車をかける》《首都を意味するcapitalは「資本・元手」という意味だが、この元手(国力・地域力)がバランス良く配分されていない。地域、学校、近所、官僚・役人などを見れば分かる。最も大切なcapitalは「人」である》。

《私は、日本人の感覚が良すぎるのだと思う。世界中の情報がネットで集まる。実社会で充実していなくても、ネットで感動できてしまう。だから、おたくやニートが生まれる》。これに対し荒井知事は、「最近は目標を持たず、向上心のない人が増えた」と応じる。

《コーチ力が落ちているのではないか。それは上に立つ人が変わっていないからだろう》。これに対しては森社長が「日本人は2代目・3代目に厳しい。2代目・3代目はけしからん、と潰しにかかる人も多い」と応える。


松岡正剛氏

《かつてメディアはもっと多種・多様だった。(森社長のお父様の出身地である)紀伊田辺には、7つもの新聞があった。富国強兵の過程で、マージ(併合)が進んだ》《日本には「言挙げしない」(あえて言い立てない)という文化がある。これはもともと(漢字が入る以前には)文字がなかったことと関係している。また、春日大社の神官と興福寺の僧侶の関係に見られるように、デュアル・スタンダード、マルチ・スタンダードが一般的だった》。

《日本はアジアの国々と共存してこなかった(アジアとちゃんとやってこなかった)のではないか》《日本は大国にならなくて良い。中くらいのプレゼンス(存在感)でちょうど良い。大国になると1本になってしまう》。森社長は「アメリカは1つの国というより、1つの巨大な仕組み・システムだ」。


中央が森社長

最後に荒井知事は、「今日の締めとして、日本のこれから・奈良のこれからについてひと言ずつ発言していただきたい」と促した。森社長は「奈良は、控えめな県民性とは裏腹に『小さなエゴ』を守りすぎるきらいがある。そのために景観などが守られていない。皆が1%ずつ譲る、という精神が必要ではないか。パチンコ屋やラブホテルが全部ダメだ、というのではない。古都の景観に合わせることが必要だ」。

「パチンコ屋や…」のくだりで、森社長は少しニンマリされた。以前、日経新聞の「領空侵犯」(「景観規制、経済にプラス」07.2.12付)で主張されていたのだ。一部引用すると、《奈良公園、橿原神宮、明日香村などを結ぶ幹線道路の風景は、ガソリンスタンドののぼり旗、消費者金融、パチンコ、ラブホテルなどの派手な広告が野放しでぐちゃぐちゃです》。

《たとえば米国人が、工作機械の買い付けで1千万円の予算でドイツを訪れたとしましょう。フランクフルト空港からシュツットガルトへ、2時間くらい車で移動する。回りの風景がとても美しく、心もなごみます。価格交渉で『上乗せしてもやむを得ないか』という気持ちにもなります。日本ではどうでしょう。『何だこの道路の風景は。本社の前にラブホテルまである。こんな企業からなら800万円くらいで買えるかもしれない』と考えても不思議ではありません》。



次の松岡氏の話が、私にはこの日のハイライトであった。《奈良は、海から遠いと言い過ぎる。シルクロードとは海を隔ててつながっていたし、お水取りの水は若狭から来ている。伊勢志摩にも近く、日本海と太平洋の中間と言える》。

《奈良は「柔らかいモデル」になりうる。奈良時代の大極殿は中国風だが、天皇は和風の木造建築の家に住んでいた。中国的なものと日本的なものをうまく「編集」していた》《がぶ飲みしていたお茶を、奈良の村田珠光は「わび茶」にした(それを完成させたのが千利休)。観阿弥(大和猿楽四座・結崎座の一員)は息子の世阿弥とともに、荒々しい田楽の能を幽玄な能に高めた。この柔らかいモデルを奈良の特性として伝えていきたい。笠置、二上山、桜井、吉野などをコンバイン(結合)して、物語に仕上げてほしい》。これに対し荒井知事は「敗者のエネルギーを活かすことも大切ですね」と応じた。確かに吉野などは古来、敗者が逃げ込む地だった。

それにしても興味深い話だった。今回は主に松岡氏の話を取り上げたが、森社長の主張も傾聴に値するものだったし、知事のコーディネートも、とても上手だった。たいていの「えらいさん」は、このようなことが苦手なのだ。その点、森社長や荒井知事からは深い見識が窺えた。質問タイムがなかったことだけが、やや心残りだった。

この日の鼎談は8/1(土)正午から、奈良テレビで放送されるのだそうだ。複数のカメラでシッカリ撮っていたから、ほぼ全編流すのだろう。またKCN(近鉄ケープルネットワーク)でも9月の毎日曜日、午前10時から放送されるし、県のHPでは動画配信が予定されている。定員が30人と少なかったので、あとで多くの県民が視聴できるように配慮されているのだ。

荒井知事の発案になるこの「ふるさとカフェ」、今から第2回を楽しみにしている。ゲストは誰になるのだろう。私はアンケート用紙に、寮美千子さん(ならまち在住の泉鏡花賞受賞作家)やアレックス・カーさん(京都在住の東洋文化研究者)の名前を書いておいたのだが…。

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9 コメント

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興味深いお話 (おぜん)
2009-07-24 08:40:26
おはようございます。
なかなか興味深いお話だったんですね。
奈良を良くしようと言う建設的な考えは、やはり奈良出身者であっても外で活躍されてる方の方が、良いのでしょうか。それと、奈良では活躍しにくいのでしょうか。森精機も名古屋に移転してしまったし。

TVかHPを見てみようと思います。

ホテルいかがでしたか?
次回はお食事に行かれては。
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お茶? (横田)
2009-07-25 02:04:06
ペットボトル瓶のお茶は何処のお茶なのかな?番組スポンサー会社の製品なのかもしれないけど。
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今度は食事に (tetsuda)
2009-07-25 07:40:26
おぜんさん、横田さん、コメント有り難うございました。

> 建設的な考えは、やはり奈良出身者であっても
> 外で活躍されてる方の方が、良いのでしょうか。

一旦外に出た方がよく見える、ということはあるでしょうね。おぜんさんや私のような他府県出身者は、どっぷり奈良に漬かっている人には見えないものが、よく見えますますから。

> ホテルいかがでしたか?次回はお食事に行かれては。

素晴らしいホテルでした。次はおぜんさんのご紹介で、食事に行きたいです。

> ペットボトル瓶のお茶は何処のお茶なのかな?

あれはJAならけんの大和茶です。県の会議などに行っても、たいていこのお茶(500ml)が出てきます。「ちゃんと地元のものを使っているな」と感心しています。ウチの会社でも言っていますが、なかなか通じませんが。
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柔らかいモデル (南都)
2009-07-25 21:54:27
「柔らかいモデル」とはなかなか言いえて妙ですが本質的なところかもしれませんね。
まさに奈良の景色が甍があり、平城宮跡も、若草山も今のバンビの景色も「柔らかい」と云えるかもしれません。
建築と自然景観が巧くミックスできている奈良はまさに「柔らかいモデル」と云えるかも。
森社長ご指摘の「ラブホもパチンコ屋も主要ロードにある」というのは過去の行政の怠慢でこれでは文化遺産地域として「柔らかすぎ」ということでしょうか。。。
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奈良のビジョン (tetsuda)
2009-07-26 08:58:56
南都さん、コメント有り難うございました。

> 建築と自然景観が巧くミックスできている
> 奈良はまさに「柔らかいモデル」と云えるかも。

この鼎談の最大の収穫は「柔らかいモデル」というコンセプトを教わったことでした。「マイルド化」と言い換えても良いかも知れませんが、これは、奈良のいろんな部分にあてはまりそうです。石や金属のかわりに木材を多用する文化なども、そうですね。

> 「ラブホもパチンコ屋も主要ロードにある」と
> いうのは過去の行政の怠慢でこれでは文化遺産
> 地域として「柔らかすぎ」ということでしょうか。

松岡氏は「capital(国力・地域力)の配分がアンバランスで、大きなビジョンと結びついていない」とも指摘されていました。大きなビジョンを描けなかったことが、近代奈良の不幸なのでしょう。
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偉いさん会議 (金田充史)
2009-07-27 23:20:30
tetsudaさん、こんばんは。

私は、この手の懇談会について、ちょっと懐疑的な感じを受けています。と云うのは、意見としては皆様方は色々述べられているのですが、では具体的に・・とは何も無い様に感じるからです。例えば、この会見を経て、知事が町並み整備の条例を提案する、と云う動きも有りません。つまり、言いっぱなしな訳で、評論家の域を出ないからです。

また、知事の手法の一つで、予算を付けたら解決する、的な考えも有りますが、カネが有っても解決しない事も多々有りますが、知事自身は、そうは思って居ない様です。

まぁ、すぐに解決する事とは思えませんが、森精機も本社機能を名古屋へ移してしまい、奈良在籍の東証一部上場企業は、南都銀行を除いて無くなってしまいました。この事が、奈良の経済基盤を物語っていると思えます。

また、道州制の議論も別に有りますが、これも、奈良の景観保全をしていくのなら、大阪や神戸の地方税収入の有る所の予算を奈良地区へ回す、と云う議論も必要な訳で、景観保全と地方税収入とは、基本的に相反する所に有る訳です。

これら双方を満足させて、且つ県の財源を安定させる、と云う事を考えないと、奈良は、日本中どこにでも有る地方都市の一つになる事でしょう。

この偉いさんの会議で、こんな事を解決できるとは、私はどう考えても思えない訳です。

うがった見方で申し訳ありませんが、行政の所行を見た結果でした。
返信する
考えるヒント (tetsuda)
2009-07-28 06:48:14
金田さん、コメント有り難うございました。

> 懇談会について、ちょっと懐疑的な感じを受けています。
> と云うのは、意見としては皆様方は色々述べられているの
> ですが、では具体的に・・とは何も無い様に感じるからです。

金田さんは、現実に観光業界で頑張っておられるので、そのように感じられるのでしょうが、こういうシンポジウムは具体的な施策を引き出すのが目的ではなく、奈良の歴史的な位置付けや今後のビジョンを考えるのが目的です。

だから私は、その辺りの松岡氏の話を聞きたかったのです。結論を急がず、折に触れお三方の話を時々思い起こしていると、奈良の方向性が見えてくるように思います。

そういうヒントとして、こういうシンポジウムがあるのだと思っていますし、その意味でこのシンポジウムは成功でした。
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再起の地 (横田)
2009-07-28 12:23:33
お茶は地元のお茶でしたか。気になったのは、この雰囲気に合う「ペットボトル」か、です。遠目には安っぽく見えてしまいます。
せめてオリジナルの机上給茶台を陶器や組み木で開発しても良いところです。

吉野方面が敗者の地とは一面的な見方かも。再起というエネルギーの地、で見ても良いかしらん。

街並みについてはフランスでは毎年コンテストを行ってるそうです。(応募制)
他人様のblogで恐縮ながら、下記からどうぞ。
(21.7.24) ロドリゴ巡礼日誌 その9
http://yamazakijirou.cocolog-nifty.com/blog/2009/07/21724-83a7.html

「残したくない景色」の公募で指摘済みですが、京奈和の高架道路もトンネル案も論外です。

事故多発道路とはいえ、名阪国道の天理カーブは夕暮れには、夕日に反射する水田をカーブごとに変化を持たせて見せてくれるという、偶然にも自然地形を活かしたものになっています。(これは後に横浜ベイブリッジの両端のカーブ・ループに繋がったというのは考え過ぎかな)
両脇を植樹帯で固めた橿原バイパスをそのまま北に繋いでいたら、近鉄を跨ぐ所で「ポッ」と若草山や大和三山が目に入り、好ましい印象を持ってもらえたはずです。
遅まきながらも、この延長上の大和中央道と西名阪の交差点に、やっとICが出来ることになりました。(でも、H25年度って、時間掛かりすぎじゃないのかな?32.4億・うち県負担11億)
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花をたずねて吉野山 (tetsuda)
2009-07-29 06:37:23
横田さん、コメント有り難うございました。

> 気になったのは、この雰囲気に合う「ペットボトル」か、です。

> オリジナルの机上給茶台を陶器や組み木で開発しても良い

確かに、この高級感あふれる登大路ホテルにペットボトルは似合いませんね。私たち参加者にも同じボトルが配られましたが、コップに入れたときの色は、あまり良くなかったです。

> 吉野方面が敗者の地とは一面的な見方かも。再起
> というエネルギーの地、で見ても良いかしらん。

なるほど。今読んでいる途中の『花をたずねて吉野山』を全部読んでから、また考えます。
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