■梅雨の晴れ間に■
前回、好調に釣れたヤマメに気をよくしたボクは、今回も同様に富山県を流れる久婦須川を目指した。
夜明けが早い夏至前後のこの時期は、遠くから訪れる者にとっては到着後の仮眠時間が短縮されて辛さが増す。実際に、この日も到着後の仮眠は1時間半しかとれなかった。コレが若き日のことであれば、ほとんど気にならなかったのかも知れないが、50を前にした男にとっては堪らない辛さがある。
しかし、それを感じるのはその日の夜以降のことだ。どうやらボクの場合は、釣りをしている最中にアドレナリンその他が脳内に出続けて覚醒しているようだ。体力的にはともかくとして、コレが出ている内は、まだまだ精神的に「若い?」ってことになるのだろうか?。
この日は4時に仮眠から目覚めてパンをかじりながら準備を整えていたのだが、見上げれば、もう空には朝焼けが広がっていた。
「朝焼け」を見つめながらその昔、カシオペアという当時のフュージョン音楽界を代表するバンドの「ASAYAKE」という曲をバンドでコピーしていた高校3年生時のことを思い出していた。
あれから約30年が経った今も当時に行動や価値観を共にしたバンドのメンバーや、バンド仲間達の一部とは不変の親友であり、ボクの心の財産でもあり続けているが、残念なのはボク以外に誰一人として釣りをしないことだ。
個人的なノスタルジーに浸りながらも、アイツらの中の誰か一人くらいが、リタイヤする頃に「『オレも連れていってくれ』って言うのかな?」なんて思っている間に準備が完了する。
当初は前回とは違った箇所からの入渓を想定していたのだが、ボクが到着した頃には「先約有り」の状態だったので、仕方なく、前回と全く同じ区間からの入渓となってしまった。
同じ区間に連続して入るのは好きな方ではないが、西日本とは違って北陸方面では梅雨の中休みが続いて雨が少なく、ここ久婦須川でも前回よりも水位が30cm近くも下がっていたから、川の様子も変わっているだろう。そのうえ、前回は曇り+小雨だった天気が、当日は1日中晴れるという予報が出ていたから気象条件も違う。
こんな条件の日だと警戒心の強い渓魚のことだから、空からの外敵を恐れるあまり物陰に隠れて食い渋ることが予想され、前回とは随分と違った展開になるだろう。従って一から仕切り直す必要があるかも知れないのだ。
僅かな望みとしては前回バラした魚が残っているかも知れず、少しは望みを持ちたいが、世間で言うところの「柳の下にドジョウが2匹」は甘い考えだとされている。果たして今回の結果はどう転ぶのだろうか…。
■エサ場には不在■
前回と同じ地点からスタートしたのは当然だが、かなり水位が下がっているうえに水温が上がったせいか、流れの緩い底石に緑の藻が着いている。コレは底に棲む川虫たちにも良いコンディションとは言えず、当然食物連鎖の上に立つ渓魚達にも悪影響を及ぼす状態だと聞いている。
更には、夜明けからしばらくの間はやや薄曇りではあったものの、周囲は随分と明るく、元々水深の浅いエサ場のようであるこの一帯に出てくる渓魚は少ないだろう。
それを実証するかのように、当初は全くアタリが出ない。
そのまま釣り上がってゆくが、ようやくアタリを捉えたのは、区間としては一つ上流にある深瀬脇の、木陰の下だ。
ようやくゲットするものの、型には不満が残るサイズだ。
しかし、一匹の本命魚から得るモノは大きい。明らかに警戒心が増している様子から考えられることは、物陰への攻めだ。それには正確なキャストとオモリの選択が必要になる。
例えば対岸にある物陰へのアプローチだと、オーバースローでは覆い被さる木々に引っ掛かってしまう。そこでキャストはサイドからする方法と、アンダーからする方法を取り入れなくてはならない。多少のミスによる仕掛のロストはあるものの、キャスト自体は慣れれば何とかなるレベルだが、それに加えてオモリの選択が重要になってくる。
オモリが重いとキャストがし易く、コントロール性も向上するのは確かだ。しかし、水中に仕掛が入った後、流れの中を流してゆく際に、度を超したオモリを装着していると竿先を支点に沖側に出ている仕掛がオモリの重さで振り子が戻るように流れを横切って手前に寄ってくる。だから、想定していたラインから外れない程度のオモリがベストの選択になるのだ。この辺は磯のグレ釣りで雨期をワザと沈ませて使う、「沈ませ釣り」と同じだ。バランスの取れたオモリを装着した仕掛は、流れの中に一度食い込むと、簡単には外れなくなるのだ。
また、物陰は木陰ばかりとは限らない。例えば石裏もそうであるし、泡立つ流芯のサイドや下にも影は出来る。そしてそれぞれに対して仕掛に打つオモリの選択も変わってくる。
そして次なるポイントではそんな物陰の一つである、流芯の脇を狙わなくてはならなかった。
ここではまず、軽めのジンタン2号を仕掛に打って泡の流芯に巻き込まれてゆく流れに乗せて流してゆく。勿論セオリー通りに手前から、そして下流側から攻めてゆく。
しかし、反応がない。そこで今度はオモリを2Bに打ち変えて流れが始まる頭の部分で素早く馴染ませてみる。
この仕掛にアタリが出て、良型のヤマメをゲットする。
因みに使用したエサはクロカワムシだったが、前回の経験から更に良型を狙ってこの時点で現地採取で何とか3匹確保していたギンパク(オニチョロ)を使用してみた。しかし、そう甘くはなく、このポイントで拝めた魚は他にはなかった。
■瀬落ちのポイント■
次は大きく広がる瀬から落ちるポイントだ。
本来は端から端までワイドに攻めることができるポイントなのだが、以前より水量が少ない状況下では、渓魚が居着く部分が限られるのか、反応がほとんどない。しかも流れが緩くていつものオモリ使いでは根掛かりが多発する。
そこで、軽めのオモリに打ち変えて何とかピン中のピン・スポットから絞り出すように1匹のヤマメをゲットした。
■食性の変化?■
次なるは、淵に小さな滝が注ぐポントだ。
こういった場所は、初期に魚が貯まっていそうな所ではあるが、季節が進んで瀬に渓魚が出だすと、ウグイのような足の遅い外道に支配されてしまうことが多いと聞く。しかし、就餌するという面から考えると一等地には違いなく、少しは期待ができるかも知れない。
クロカワムシをハリに刺して何投かキャストするが、案の定、ウグイが連発する。
「エサを変えるとどうなるか?」と思って一発狙いのギンパク(オニチョロ)を指してみるが、これまたウグイが食ってくる。
今度はダメ元で前回に成績が振るわなかったミミズ(キジ)を刺してみる。
しかし、「やってみないと判らない」もので、これに反応があった。
すかさずアワセを入れるが、その途端に良型特有の「ゴンッ!」という衝撃と共に竿を絞り込んでゆく。
相手はかなりの抵抗を示すが、「馬鹿デカイ」サイズの引きではない。したがってこちらの対処にも僅かな余裕がある。
竿を上流に向けて倒し、ゆっくりと締め上げるように慎重に操作してゆく。このクラスなら、竿の角度を保持し反発力と喧嘩させることで相手のパワーが弱まってゆくものだ。そして水面近くに浮いてからは、やや強引に浮かせ、空気を充分に吸わせて更に弱らせたうえでフィニッシュへと導く。
粘った甲斐があった。尺には届かないが、それに近いサイズのヤマメだ。
前回通用したエサは今回通用せず、結果が出たのはその逆の方だった。もしかすると季節が進んで、川に流れ落ちるミミズの量が増えた影響でヤマメの食性が変わっていたのかも知れない。こんな風に、その日その日の条件によって変化するのも釣りの奥深さである。
今回ボクは、たまたまミミズをハリに刺すことで答えを出したが、ボク以外の釣り人のオリジナルな思考の中で生まれた、エサ・ローテーション以外の他の方法であっても答えが出たのかも知れず、そのパターンは多岐にわたる。
しかし、導き出した答えは、気象や水流(潮流)、水位(潮位)、水温、気温といった環境面やタイミングによって常に条件が変化するから、同じことが続けて通用するとは限らない。このあたりが、あらかじめプログラムされたコンピューター系のゲームなどと大きく違うところだ。だから本気で釣果を伸ばしたいのなら、脳内に知識と経験とが詰まった沢山の引き出しを作り、常にそこから必要なモノが取り出せるようにしておかなくてはならないのだ。
そんな釣りの奥深いオモシロさを若い世代にも理解してもらい、受け継いでいって欲しいとボクは願っているのだ。何せ日本の釣りや漁といった魚の捕獲技術や釣具は世界一と言えるのだから…。
■更に釣り上がる■
次なる区間は、河畔に木立が茂り木陰が多いポイントだ。その区間ではポツリポツリと拾えたが、良型と呼べるサイズにはお目にかかれなかった。
続いて段々に、階段状に落ちてゆく区間に入るが、これまた同様にポツリポツリと忘れた頃にアタリが出る程度の状況だった。
その区間を釣り上がる内に、とある石裏の流れが緩い部分が気になった。
「如何にもイワナが居そうな…。」と思って仕掛を打ち込むと、大きくはないが、その通りの答えが出た。
たとえ相手が小さくとも、予想通りの展開でゲットした瞬間は、自分の読みが冴えていると感じることができるので、気持ちの良さがある。
■好ポイントのハズが…■
そうこうしている内に、退渓地点の堰堤が見えてきた。そこまでの間は好ポイントが続くうえ、前回は水位が高くて近寄れなかった堰堤直下にも今回は入れそうだから、期待は更に膨らむ。
しかし、残念ながら前回に尺オーバーを獲ったポイントは水量が減って好ポイントとは言えない状態になっていた。
気合いを入れて望んだものの、期待は見事に裏切られ、小型がポツポツとアタるのみだ。日は高く、明るく注いでいるうえ、減水しているとは言え、いくら何でもこんなにアタリが少ないのは、ここが入渓し易い区間故に、前日の土曜日に散々叩かれていたのかもしれないし、もしかするとボクが釣り上がってくるまでの間に誰かが頭ハネをしていたのかも知れない。
■堰堤直下■
得るモノがないまま、ついに堰堤直下に到達する。アタってくる渓魚が少ないという予想は既に立っていたので、攻めに更なる慎重さと丁寧さが必要になる。
セオリー通り「下流から、手前から」を守ってじっくり攻めてゆくが、少ないアタリを何とか捉えても小型しか出てこない。
誰もが竿出しするような所ではアタリが出ないので、オモリを重い3Bとして、堰堤から落ちてくる流れが作り出す、泡の中を攻めてみることにした。根掛かりは多発しそうだが、流れに弾き飛ばされずに泡の下ですぐに馴染ませるにはこの方法しかない。
予想通り、油断をすると根掛かりするが、それでも攻め続け、底をオモリが叩くように流していると仕掛の動きが止まり、それと同時に目印が引き込まれていった。
引きのスピードと質から、相手はイワナだとすぐに理解できた。この区間に入る時点でいつものように8mの長竿に交換していたので、明らかにこちらが優位となる。
因みに竿は長い方がショック吸収性に優れる。しかもキレイな円を描くように胴の部分から、じわりと曲がり込む竿の方が、こと取り込み性能に関しては優れている。但し、反面に操作性は落ちるが…。
難なく引き寄せに成功し、無事玉網に収まったのはイワナで、これまた残念にも尺にはほんの3mm足りないサイズだった。
そしてその後はアタリが途絶え、期待はずれのままでこの区間の釣りを終えた。
■最下流へ■
堰堤から退渓した後は、どこに行こうか散々迷ったが、この川では恐らくヤマメが棲息する最下流部にあたるところに入ってみることにした。
ここでは、産卵期に入ったウグイの連発が始まった。それも30cmオーバーがかなり混じるので、やり取りが大変だ。
何とかヤマメのアタリを捉えても、20cm級一匹がやっとの状況だ。
■結局同じ場所へ■
状況が好転しないまま、釣り上がって行くが、刻々と残り時間が減る中で、結局シビレを切らしてしまう。
そこで前回フィニッシュした「渦巻く淵」で竿を出し、そこでダメなら諦めるつもりで移動する。(何とも節操がない話だが…。)
前回は藪漕ぎしなくては到達できなかったが、水量が減って川沿いを歩きながら移動でき、その面では助かったが、明らかな減水は食い渋りを意味するので喜んではいられない。そしてポイントに到達するが、様相が変わっていることに驚いた。
最後の一粘りをして、丁寧に攻めるが、ここはウグイの巣窟となっていた。
「かけ上がりでウグイ」、「流れの脇でウグイ」、「渦の中でウグイ」、「ミミズでウグイ」、「ギンパク(オニチョロ)でウグイ」、「クロカワムシでウグイ」、何をやってもウグイのオンパレード。それもド派手な婚姻色に染まった大型のオスがほとんどなので、ほとほと疲れてしまう。
しかも、釣り上げると放精する姿は同じ男?として、やりきれなさを感じて更にガックリと来てしまう。
「時間もないので、あと5投でヤメよう。」と心に決め、クロカワムシと途中で必死で捕まえたオニチョロとを交互に刺し替えつつ、1投、2投と繰り返すが、同じ状況だ。続いて3投目、クロカワムシが残ってきた。
「ン?」と思いつつ、そのままのエサで4投目。渦の中で馴染んだ途端、目印が引き込まれてゆく。
合わせた瞬間にソレと判る引きだった。「本日最後の一匹」とばかりに慎重なやり取りを繰り返し、無事に取り込んだのは本日2位のヤマメだった。
「最後っ屁としては上出来」と喜びつつも、ついつい悪いクセであるスケベ心が沸いてきて、更に5投を追加したが、結果は元通りのウグイ地獄で終焉を迎えた。
■一日を終えて■
一日を終えて振り返ると、「魚も生き物なら川も生き物」であり、「同じことは通用しない」とは判っていても、前回とは違った展開に苦労の連続だった。
特に前回あれほど当たった「ギンパク(オニチョロ)」の効果はほとんど感じられず、だからと言って、他の当たりエサもなかった。やはり相手が自然界に棲息する生き物である限り、自分側の理屈でパターン化できるほど甘くはないのだ。
それでも食い渋る中、好調だった前回に比べて釣果が2割減に収まっていることは自分の上達を感じた瞬間でもあるのだが…。
まぁ、うぬぼれはさておき、今回の成績は「柳の下にドジョウはそこそこ」といった表現が適切なのだろう…。
前回、好調に釣れたヤマメに気をよくしたボクは、今回も同様に富山県を流れる久婦須川を目指した。
夜明けが早い夏至前後のこの時期は、遠くから訪れる者にとっては到着後の仮眠時間が短縮されて辛さが増す。実際に、この日も到着後の仮眠は1時間半しかとれなかった。コレが若き日のことであれば、ほとんど気にならなかったのかも知れないが、50を前にした男にとっては堪らない辛さがある。
しかし、それを感じるのはその日の夜以降のことだ。どうやらボクの場合は、釣りをしている最中にアドレナリンその他が脳内に出続けて覚醒しているようだ。体力的にはともかくとして、コレが出ている内は、まだまだ精神的に「若い?」ってことになるのだろうか?。
この日は4時に仮眠から目覚めてパンをかじりながら準備を整えていたのだが、見上げれば、もう空には朝焼けが広がっていた。
●朝焼けの山々●
「朝焼け」を見つめながらその昔、カシオペアという当時のフュージョン音楽界を代表するバンドの「ASAYAKE」という曲をバンドでコピーしていた高校3年生時のことを思い出していた。
あれから約30年が経った今も当時に行動や価値観を共にしたバンドのメンバーや、バンド仲間達の一部とは不変の親友であり、ボクの心の財産でもあり続けているが、残念なのはボク以外に誰一人として釣りをしないことだ。
個人的なノスタルジーに浸りながらも、アイツらの中の誰か一人くらいが、リタイヤする頃に「『オレも連れていってくれ』って言うのかな?」なんて思っている間に準備が完了する。
当初は前回とは違った箇所からの入渓を想定していたのだが、ボクが到着した頃には「先約有り」の状態だったので、仕方なく、前回と全く同じ区間からの入渓となってしまった。
同じ区間に連続して入るのは好きな方ではないが、西日本とは違って北陸方面では梅雨の中休みが続いて雨が少なく、ここ久婦須川でも前回よりも水位が30cm近くも下がっていたから、川の様子も変わっているだろう。そのうえ、前回は曇り+小雨だった天気が、当日は1日中晴れるという予報が出ていたから気象条件も違う。
こんな条件の日だと警戒心の強い渓魚のことだから、空からの外敵を恐れるあまり物陰に隠れて食い渋ることが予想され、前回とは随分と違った展開になるだろう。従って一から仕切り直す必要があるかも知れないのだ。
僅かな望みとしては前回バラした魚が残っているかも知れず、少しは望みを持ちたいが、世間で言うところの「柳の下にドジョウが2匹」は甘い考えだとされている。果たして今回の結果はどう転ぶのだろうか…。
■エサ場には不在■
前回と同じ地点からスタートしたのは当然だが、かなり水位が下がっているうえに水温が上がったせいか、流れの緩い底石に緑の藻が着いている。コレは底に棲む川虫たちにも良いコンディションとは言えず、当然食物連鎖の上に立つ渓魚達にも悪影響を及ぼす状態だと聞いている。
更には、夜明けからしばらくの間はやや薄曇りではあったものの、周囲は随分と明るく、元々水深の浅いエサ場のようであるこの一帯に出てくる渓魚は少ないだろう。
それを実証するかのように、当初は全くアタリが出ない。
そのまま釣り上がってゆくが、ようやくアタリを捉えたのは、区間としては一つ上流にある深瀬脇の、木陰の下だ。
●木が覆う部分がポイント●
ようやくゲットするものの、型には不満が残るサイズだ。
●20cm強のヤマメ●
しかし、一匹の本命魚から得るモノは大きい。明らかに警戒心が増している様子から考えられることは、物陰への攻めだ。それには正確なキャストとオモリの選択が必要になる。
例えば対岸にある物陰へのアプローチだと、オーバースローでは覆い被さる木々に引っ掛かってしまう。そこでキャストはサイドからする方法と、アンダーからする方法を取り入れなくてはならない。多少のミスによる仕掛のロストはあるものの、キャスト自体は慣れれば何とかなるレベルだが、それに加えてオモリの選択が重要になってくる。
オモリが重いとキャストがし易く、コントロール性も向上するのは確かだ。しかし、水中に仕掛が入った後、流れの中を流してゆく際に、度を超したオモリを装着していると竿先を支点に沖側に出ている仕掛がオモリの重さで振り子が戻るように流れを横切って手前に寄ってくる。だから、想定していたラインから外れない程度のオモリがベストの選択になるのだ。この辺は磯のグレ釣りで雨期をワザと沈ませて使う、「沈ませ釣り」と同じだ。バランスの取れたオモリを装着した仕掛は、流れの中に一度食い込むと、簡単には外れなくなるのだ。
また、物陰は木陰ばかりとは限らない。例えば石裏もそうであるし、泡立つ流芯のサイドや下にも影は出来る。そしてそれぞれに対して仕掛に打つオモリの選択も変わってくる。
そして次なるポイントではそんな物陰の一つである、流芯の脇を狙わなくてはならなかった。
●泡立つ流芯の両サイドが狙い目だ●
ここではまず、軽めのジンタン2号を仕掛に打って泡の流芯に巻き込まれてゆく流れに乗せて流してゆく。勿論セオリー通りに手前から、そして下流側から攻めてゆく。
しかし、反応がない。そこで今度はオモリを2Bに打ち変えて流れが始まる頭の部分で素早く馴染ませてみる。
この仕掛にアタリが出て、良型のヤマメをゲットする。
●25cmのヤマメ●
因みに使用したエサはクロカワムシだったが、前回の経験から更に良型を狙ってこの時点で現地採取で何とか3匹確保していたギンパク(オニチョロ)を使用してみた。しかし、そう甘くはなく、このポイントで拝めた魚は他にはなかった。
●クロカワムシ●
●現地採取で数匹キープしたギンパク(オニチョロ)●
■瀬落ちのポイント■
次は大きく広がる瀬から落ちるポイントだ。
●本来なら、落ち込みの全てがポイントなのだが…●
本来は端から端までワイドに攻めることができるポイントなのだが、以前より水量が少ない状況下では、渓魚が居着く部分が限られるのか、反応がほとんどない。しかも流れが緩くていつものオモリ使いでは根掛かりが多発する。
そこで、軽めのオモリに打ち変えて何とかピン中のピン・スポットから絞り出すように1匹のヤマメをゲットした。
●23cmのヤマメ●
■食性の変化?■
次なるは、淵に小さな滝が注ぐポントだ。
こういった場所は、初期に魚が貯まっていそうな所ではあるが、季節が進んで瀬に渓魚が出だすと、ウグイのような足の遅い外道に支配されてしまうことが多いと聞く。しかし、就餌するという面から考えると一等地には違いなく、少しは期待ができるかも知れない。
クロカワムシをハリに刺して何投かキャストするが、案の定、ウグイが連発する。
「エサを変えるとどうなるか?」と思って一発狙いのギンパク(オニチョロ)を指してみるが、これまたウグイが食ってくる。
●
今度はダメ元で前回に成績が振るわなかったミミズ(キジ)を刺してみる。
●「もしや?」のミミズ(キジ)●
しかし、「やってみないと判らない」もので、これに反応があった。
すかさずアワセを入れるが、その途端に良型特有の「ゴンッ!」という衝撃と共に竿を絞り込んでゆく。
相手はかなりの抵抗を示すが、「馬鹿デカイ」サイズの引きではない。したがってこちらの対処にも僅かな余裕がある。
竿を上流に向けて倒し、ゆっくりと締め上げるように慎重に操作してゆく。このクラスなら、竿の角度を保持し反発力と喧嘩させることで相手のパワーが弱まってゆくものだ。そして水面近くに浮いてからは、やや強引に浮かせ、空気を充分に吸わせて更に弱らせたうえでフィニッシュへと導く。
粘った甲斐があった。尺には届かないが、それに近いサイズのヤマメだ。
●29cmのヤマメ●
前回通用したエサは今回通用せず、結果が出たのはその逆の方だった。もしかすると季節が進んで、川に流れ落ちるミミズの量が増えた影響でヤマメの食性が変わっていたのかも知れない。こんな風に、その日その日の条件によって変化するのも釣りの奥深さである。
今回ボクは、たまたまミミズをハリに刺すことで答えを出したが、ボク以外の釣り人のオリジナルな思考の中で生まれた、エサ・ローテーション以外の他の方法であっても答えが出たのかも知れず、そのパターンは多岐にわたる。
しかし、導き出した答えは、気象や水流(潮流)、水位(潮位)、水温、気温といった環境面やタイミングによって常に条件が変化するから、同じことが続けて通用するとは限らない。このあたりが、あらかじめプログラムされたコンピューター系のゲームなどと大きく違うところだ。だから本気で釣果を伸ばしたいのなら、脳内に知識と経験とが詰まった沢山の引き出しを作り、常にそこから必要なモノが取り出せるようにしておかなくてはならないのだ。
そんな釣りの奥深いオモシロさを若い世代にも理解してもらい、受け継いでいって欲しいとボクは願っているのだ。何せ日本の釣りや漁といった魚の捕獲技術や釣具は世界一と言えるのだから…。
■更に釣り上がる■
次なる区間は、河畔に木立が茂り木陰が多いポイントだ。その区間ではポツリポツリと拾えたが、良型と呼べるサイズにはお目にかかれなかった。
続いて段々に、階段状に落ちてゆく区間に入るが、これまた同様にポツリポツリと忘れた頃にアタリが出る程度の状況だった。
その区間を釣り上がる内に、とある石裏の流れが緩い部分が気になった。
●石裏ポント●
「如何にもイワナが居そうな…。」と思って仕掛を打ち込むと、大きくはないが、その通りの答えが出た。
●20cmチョイのイワナ●
たとえ相手が小さくとも、予想通りの展開でゲットした瞬間は、自分の読みが冴えていると感じることができるので、気持ちの良さがある。
■好ポイントのハズが…■
そうこうしている内に、退渓地点の堰堤が見えてきた。そこまでの間は好ポイントが続くうえ、前回は水位が高くて近寄れなかった堰堤直下にも今回は入れそうだから、期待は更に膨らむ。
●好ポイントの堰堤下●
しかし、残念ながら前回に尺オーバーを獲ったポイントは水量が減って好ポイントとは言えない状態になっていた。
気合いを入れて望んだものの、期待は見事に裏切られ、小型がポツポツとアタるのみだ。日は高く、明るく注いでいるうえ、減水しているとは言え、いくら何でもこんなにアタリが少ないのは、ここが入渓し易い区間故に、前日の土曜日に散々叩かれていたのかもしれないし、もしかするとボクが釣り上がってくるまでの間に誰かが頭ハネをしていたのかも知れない。
●リリースサイズのヤマメ●
■堰堤直下■
得るモノがないまま、ついに堰堤直下に到達する。アタってくる渓魚が少ないという予想は既に立っていたので、攻めに更なる慎重さと丁寧さが必要になる。
●堰堤直下●
セオリー通り「下流から、手前から」を守ってじっくり攻めてゆくが、少ないアタリを何とか捉えても小型しか出てこない。
●またもや、リリースサイズのヤマメ●
誰もが竿出しするような所ではアタリが出ないので、オモリを重い3Bとして、堰堤から落ちてくる流れが作り出す、泡の中を攻めてみることにした。根掛かりは多発しそうだが、流れに弾き飛ばされずに泡の下ですぐに馴染ませるにはこの方法しかない。
予想通り、油断をすると根掛かりするが、それでも攻め続け、底をオモリが叩くように流していると仕掛の動きが止まり、それと同時に目印が引き込まれていった。
引きのスピードと質から、相手はイワナだとすぐに理解できた。この区間に入る時点でいつものように8mの長竿に交換していたので、明らかにこちらが優位となる。
因みに竿は長い方がショック吸収性に優れる。しかもキレイな円を描くように胴の部分から、じわりと曲がり込む竿の方が、こと取り込み性能に関しては優れている。但し、反面に操作性は落ちるが…。
難なく引き寄せに成功し、無事玉網に収まったのはイワナで、これまた残念にも尺にはほんの3mm足りないサイズだった。
●30cmのイワナ●
そしてその後はアタリが途絶え、期待はずれのままでこの区間の釣りを終えた。
■最下流へ■
堰堤から退渓した後は、どこに行こうか散々迷ったが、この川では恐らくヤマメが棲息する最下流部にあたるところに入ってみることにした。
●最下流部の区間●
ここでは、産卵期に入ったウグイの連発が始まった。それも30cmオーバーがかなり混じるので、やり取りが大変だ。
何とかヤマメのアタリを捉えても、20cm級一匹がやっとの状況だ。
●20cm級のヤマメ●
■結局同じ場所へ■
状況が好転しないまま、釣り上がって行くが、刻々と残り時間が減る中で、結局シビレを切らしてしまう。
そこで前回フィニッシュした「渦巻く淵」で竿を出し、そこでダメなら諦めるつもりで移動する。(何とも節操がない話だが…。)
前回は藪漕ぎしなくては到達できなかったが、水量が減って川沿いを歩きながら移動でき、その面では助かったが、明らかな減水は食い渋りを意味するので喜んではいられない。そしてポイントに到達するが、様相が変わっていることに驚いた。
●水流に変化が…●
最後の一粘りをして、丁寧に攻めるが、ここはウグイの巣窟となっていた。
「かけ上がりでウグイ」、「流れの脇でウグイ」、「渦の中でウグイ」、「ミミズでウグイ」、「ギンパク(オニチョロ)でウグイ」、「クロカワムシでウグイ」、何をやってもウグイのオンパレード。それもド派手な婚姻色に染まった大型のオスがほとんどなので、ほとほと疲れてしまう。
●婚姻色に染まる雄のウグイ●
しかも、釣り上げると放精する姿は同じ男?として、やりきれなさを感じて更にガックリと来てしまう。
「時間もないので、あと5投でヤメよう。」と心に決め、クロカワムシと途中で必死で捕まえたオニチョロとを交互に刺し替えつつ、1投、2投と繰り返すが、同じ状況だ。続いて3投目、クロカワムシが残ってきた。
「ン?」と思いつつ、そのままのエサで4投目。渦の中で馴染んだ途端、目印が引き込まれてゆく。
合わせた瞬間にソレと判る引きだった。「本日最後の一匹」とばかりに慎重なやり取りを繰り返し、無事に取り込んだのは本日2位のヤマメだった。
●28cmのヤマメ●
「最後っ屁としては上出来」と喜びつつも、ついつい悪いクセであるスケベ心が沸いてきて、更に5投を追加したが、結果は元通りのウグイ地獄で終焉を迎えた。
■一日を終えて■
一日を終えて振り返ると、「魚も生き物なら川も生き物」であり、「同じことは通用しない」とは判っていても、前回とは違った展開に苦労の連続だった。
特に前回あれほど当たった「ギンパク(オニチョロ)」の効果はほとんど感じられず、だからと言って、他の当たりエサもなかった。やはり相手が自然界に棲息する生き物である限り、自分側の理屈でパターン化できるほど甘くはないのだ。
それでも食い渋る中、好調だった前回に比べて釣果が2割減に収まっていることは自分の上達を感じた瞬間でもあるのだが…。
まぁ、うぬぼれはさておき、今回の成績は「柳の下にドジョウはそこそこ」といった表現が適切なのだろう…。