■乗合船の楽しさ■
最近ちょくちょくお世話になっている、各地の乗合船。当然仲間内で貸し切る仕立船(したてせん=チャーター船)とは違って、様々な人と出会う。
乗り合わせる人達によって、当然その日その日の楽しさも違ってくる。今までには、知らない釣り人と雑談しながら一日を楽しく過ごすこともあったし、情報を交換しながら効率よく釣ることが出来て一人で釣るよりも釣果が伸びる日もあった。逆に全くしゃべらない日もあったが、不快な気持ちになったことは、ほとんど無い。しかし、釣り界は変人の宝庫ともいわれるだけあって、頭の中が「???」埋め尽くされてしまうような釣り人に遭遇することもある。
今回はそんな悲喜こもごもを紹介しよう。
■いきなり自慢を始める男■
釣り天狗という言葉があるように、概して釣り人は自分の釣果を自慢するが、中には聞いてもいないのに勝手にしゃべり出す人が居る。昨秋、そんな男に出会った。
その男はボクと目があった瞬間に、
男 「この船は初めてですか?」
ボク「いいえ2回目です。」
男 「それやったら、教えたるけど、この船長は、よう釣らせる船頭やで~」
ボク「そうなんですか?(だから来たんだけど)」
男 「何しろ私は2年前に90cmのマダイを釣らせてもらってねぇ。」
ボク「へ~、それは春にですか?」
男 「いや、秋に。」
ボク「春ならいざ知らず、秋にやったら大したもんですなぁ。」
と、チョッと褒めてやったら、この男は調子に乗って「どこそこでは何cmを釣って」とか、様々な自慢話を続けだした。それがあまりに長く、そのマダイ以外のサイズは大したことがなく、鬱陶しくなったので、目を合わさずに上の空の顔をしてやると今度は周りの釣り人に自慢を始める始末。
振り返ってみると、この手の釣り人には何度も出会っている。他の趣味なら、例えばスキーのリフトにたまたま乗り合わせた初対面の人に対して、いきなり「基礎スキーの1級を持ってます。」なんて言う人は居ないし、酒の席ならいざ知らず、こんな人を見るのはボクの知る限りでは釣りの世界だけのことだ。
■竿を貸さない師匠■
今から10年ほど前、和歌山県の印南沖でのこと。その日に乗ったマダイ釣りの乗合船の席順は先着順=船内にクーラーを置いた場所がそのまま自分の席となる方式だった。
僕が乗ったのは中間よりやや後方。その右横に隣り合わせたのが、初心者風の釣り人で、そのまた右横が、その初心者君が「師匠」と呼ぶ釣り人だった。
タックルのセッティングなどの準備をしつつ、船は最初のポイントに向かっていた。その最中に、ふと横に目をやると釘付けになった。どうやら初心者君は師匠の道具一式を借りている様子だったが、その道具がオンボロでヒドかったのだ。
リールをセットできる竿には、通常「ガイド」という、糸を通す器具が付いているのだが、その内側のリールからの糸が触れる部分には、余程の安物竿以外を除けば、摩擦を軽減するために「ガイドリング」という、摩擦係数の低い素材でできた輪っかが着いている。しかし、この初心者君が借りた竿は、トップ・ガイドという一番先端の、一番負荷の掛かる大事な部分の、本来は着いていたハズのガイドリングが抜け落ちていた。これでは糸が行き来する度に擦れ、仮に大物が掛かった際には切れてしまうかも知れない。「よくもまぁ、そんな竿を…。」と、ボクは思ったが、他人事ゆえ、黙った見ていたのだが…。
しかし、天はその初心者君を見放さなかった。何と、周囲では一番最初に、その初心者君が50cm程のマダイを釣ったのだ。
横に居た師匠は「良くやった。」なんてセリフをこの時点では言っていたようだが、しばらくの間があって、再び50cm程のマダイを釣ってしまった後は、余裕が無くなったのか、明らかに反応が変わっていった。
初心者君にとって50cmのマダイは大物であり、嬉しさが表情にも出ていたが、良いことばかりは続かない。やり取りの際に衝撃を受けたせいか、リングの無いトップガイドの金属が千切れて、とうとう糸がトップガイドから外れてしまった。
しかし、初心者君はその事には気付かず、そのままの状態で釣りを続けようとしたが、このままでは、いつライントラブルで魚を逃がすかも知れず、あまりに可哀想なので、たまらずボクが
「トップガイドが千切れてるから、そのままでは道糸が切れたり、竿が折れたりするよ。」と指摘することとなった。
慌てた初心者君は師匠にトラブル発生を知らせたのだが、この師匠の返答がスゴかった。
「もう一本、イイ予備竿を持っているんやけど、高級すぎて今のオマエには早過ぎる。」とか何とかドケチな言葉を吐いたあと、
「大丈夫だから、そのままで釣れ。」と、信じがたいアドバイス?を与えたのだ。
ボクは「何ちゅう心の小さいオッサンや!」と思ったが、ここは口に出さず、釣果で差をつけて「アンタは師匠に値しない」ということを示してやろうと、懸命に投入を繰り返し、釣り続けていた。
そんな中、何も知らない初心者は、勿論そのままで釣り続けている。そして、またもや彼の「超オンボロ借り物竿」に大きな当たりが出て今度は70cm近いマダイを釣り上げてしまったのだ。
それを受けて師匠は、
「おめでとう、もう今日のオマエには言うことはない」と口では言っていたが、明らかに憮然とした表情であり、以後は釣果を逆転しようと、必死の形相で釣りを続けている様子であった。
この時点で、初心者君を挟んで師匠とボクは本命であるマダイの釣果はゼロ。
「あんなオッサンに負けてたまるか!」とボクの闘志もメラメラと燃えていた。
そんなボクの願いが天に通じたのか、しばらくの後に竿が大きく絞り込まれていった。その様子からして、良型のマダイのようであった。しかしながら、師匠への対抗意識で焦っていたのか、何とか釣果を得ようとハリスを細くした際に、ドラグの調整を忘れていたようだ。そのために、竿を掴んだ瞬間にハリスが飛んで瞬殺されてしまったのだ。
「しまった~!」と思った矢先、悪いことに師匠と目が合ってしまった。完全に見られていたようである。しかも、あろう事かニヤッと笑いながら、「今のは残念やったな~。」とほざかれてしまった。
「オマエにだけは言われたくないワ!」と思う相手から指摘されるほど辛いものはなく、打ち拉がれたままに、その後も懸命に釣り続けたが、願いも虚しく、マダイの釣果を得ることがないままに、納竿時間がやってきた。当然!だが、師匠もにマダイの釣果はなかった。
最悪だったのは帰港中の船室だった。他の釣り人の前で師匠は、初心者君に釣れたのは、自分のアドバイスのおかげであるかのようなことを言い、返す刀でボクの方に向かって「それにしてもキミのは惜しかったな~。」と傷口に塩を塗る始末だった。
言い返そうにも気力が果てて、切れ味鋭いツッ込みを返せそうになかったので、黙っているしかなく、着岸まで苦痛の時間を過ごすハメになってしまった…。
そんな中、師匠の心中を察したのか、初心者君は、けなげにも
「こんなに魚があっても喰いきれないから、一匹持って帰ってください。」と師匠に申し出るのであった。ボクが師匠の立場ならプライドが許さないから、そんな魚は受け取らないだろうけど、驚くことに、それを聞いた師匠は笑みを浮かべながら、「そうか、そうか」と納得の様子だった。
「どこまでも心の小さいオッサンやなぁ~。」と思いつつ、そのやり取りをボクは聞いていたが、今度はその師匠、マダイの料理について講釈をたれ始めるのであった…。
「え・え・か・げ・ん・に・せ~・よ!」と心中でつぶやきつつも、あまりのアホさ加減に怒る気持ちも萎えて、笑ってしまったボクであった。
そんなこんなの乗合船だが、「人間ウォッチするのも楽しみの一つ」としてボクは受け止めている。今度の船にはどんな人が乗ってくるのだろうか…。
最近ちょくちょくお世話になっている、各地の乗合船。当然仲間内で貸し切る仕立船(したてせん=チャーター船)とは違って、様々な人と出会う。
乗り合わせる人達によって、当然その日その日の楽しさも違ってくる。今までには、知らない釣り人と雑談しながら一日を楽しく過ごすこともあったし、情報を交換しながら効率よく釣ることが出来て一人で釣るよりも釣果が伸びる日もあった。逆に全くしゃべらない日もあったが、不快な気持ちになったことは、ほとんど無い。しかし、釣り界は変人の宝庫ともいわれるだけあって、頭の中が「???」埋め尽くされてしまうような釣り人に遭遇することもある。
今回はそんな悲喜こもごもを紹介しよう。
■いきなり自慢を始める男■
釣り天狗という言葉があるように、概して釣り人は自分の釣果を自慢するが、中には聞いてもいないのに勝手にしゃべり出す人が居る。昨秋、そんな男に出会った。
その男はボクと目があった瞬間に、
男 「この船は初めてですか?」
ボク「いいえ2回目です。」
男 「それやったら、教えたるけど、この船長は、よう釣らせる船頭やで~」
ボク「そうなんですか?(だから来たんだけど)」
男 「何しろ私は2年前に90cmのマダイを釣らせてもらってねぇ。」
ボク「へ~、それは春にですか?」
男 「いや、秋に。」
ボク「春ならいざ知らず、秋にやったら大したもんですなぁ。」
と、チョッと褒めてやったら、この男は調子に乗って「どこそこでは何cmを釣って」とか、様々な自慢話を続けだした。それがあまりに長く、そのマダイ以外のサイズは大したことがなく、鬱陶しくなったので、目を合わさずに上の空の顔をしてやると今度は周りの釣り人に自慢を始める始末。
振り返ってみると、この手の釣り人には何度も出会っている。他の趣味なら、例えばスキーのリフトにたまたま乗り合わせた初対面の人に対して、いきなり「基礎スキーの1級を持ってます。」なんて言う人は居ないし、酒の席ならいざ知らず、こんな人を見るのはボクの知る限りでは釣りの世界だけのことだ。
■竿を貸さない師匠■
今から10年ほど前、和歌山県の印南沖でのこと。その日に乗ったマダイ釣りの乗合船の席順は先着順=船内にクーラーを置いた場所がそのまま自分の席となる方式だった。
僕が乗ったのは中間よりやや後方。その右横に隣り合わせたのが、初心者風の釣り人で、そのまた右横が、その初心者君が「師匠」と呼ぶ釣り人だった。
タックルのセッティングなどの準備をしつつ、船は最初のポイントに向かっていた。その最中に、ふと横に目をやると釘付けになった。どうやら初心者君は師匠の道具一式を借りている様子だったが、その道具がオンボロでヒドかったのだ。
リールをセットできる竿には、通常「ガイド」という、糸を通す器具が付いているのだが、その内側のリールからの糸が触れる部分には、余程の安物竿以外を除けば、摩擦を軽減するために「ガイドリング」という、摩擦係数の低い素材でできた輪っかが着いている。しかし、この初心者君が借りた竿は、トップ・ガイドという一番先端の、一番負荷の掛かる大事な部分の、本来は着いていたハズのガイドリングが抜け落ちていた。これでは糸が行き来する度に擦れ、仮に大物が掛かった際には切れてしまうかも知れない。「よくもまぁ、そんな竿を…。」と、ボクは思ったが、他人事ゆえ、黙った見ていたのだが…。
しかし、天はその初心者君を見放さなかった。何と、周囲では一番最初に、その初心者君が50cm程のマダイを釣ったのだ。
横に居た師匠は「良くやった。」なんてセリフをこの時点では言っていたようだが、しばらくの間があって、再び50cm程のマダイを釣ってしまった後は、余裕が無くなったのか、明らかに反応が変わっていった。
初心者君にとって50cmのマダイは大物であり、嬉しさが表情にも出ていたが、良いことばかりは続かない。やり取りの際に衝撃を受けたせいか、リングの無いトップガイドの金属が千切れて、とうとう糸がトップガイドから外れてしまった。
しかし、初心者君はその事には気付かず、そのままの状態で釣りを続けようとしたが、このままでは、いつライントラブルで魚を逃がすかも知れず、あまりに可哀想なので、たまらずボクが
「トップガイドが千切れてるから、そのままでは道糸が切れたり、竿が折れたりするよ。」と指摘することとなった。
慌てた初心者君は師匠にトラブル発生を知らせたのだが、この師匠の返答がスゴかった。
「もう一本、イイ予備竿を持っているんやけど、高級すぎて今のオマエには早過ぎる。」とか何とかドケチな言葉を吐いたあと、
「大丈夫だから、そのままで釣れ。」と、信じがたいアドバイス?を与えたのだ。
ボクは「何ちゅう心の小さいオッサンや!」と思ったが、ここは口に出さず、釣果で差をつけて「アンタは師匠に値しない」ということを示してやろうと、懸命に投入を繰り返し、釣り続けていた。
そんな中、何も知らない初心者は、勿論そのままで釣り続けている。そして、またもや彼の「超オンボロ借り物竿」に大きな当たりが出て今度は70cm近いマダイを釣り上げてしまったのだ。
それを受けて師匠は、
「おめでとう、もう今日のオマエには言うことはない」と口では言っていたが、明らかに憮然とした表情であり、以後は釣果を逆転しようと、必死の形相で釣りを続けている様子であった。
この時点で、初心者君を挟んで師匠とボクは本命であるマダイの釣果はゼロ。
「あんなオッサンに負けてたまるか!」とボクの闘志もメラメラと燃えていた。
そんなボクの願いが天に通じたのか、しばらくの後に竿が大きく絞り込まれていった。その様子からして、良型のマダイのようであった。しかしながら、師匠への対抗意識で焦っていたのか、何とか釣果を得ようとハリスを細くした際に、ドラグの調整を忘れていたようだ。そのために、竿を掴んだ瞬間にハリスが飛んで瞬殺されてしまったのだ。
「しまった~!」と思った矢先、悪いことに師匠と目が合ってしまった。完全に見られていたようである。しかも、あろう事かニヤッと笑いながら、「今のは残念やったな~。」とほざかれてしまった。
「オマエにだけは言われたくないワ!」と思う相手から指摘されるほど辛いものはなく、打ち拉がれたままに、その後も懸命に釣り続けたが、願いも虚しく、マダイの釣果を得ることがないままに、納竿時間がやってきた。当然!だが、師匠もにマダイの釣果はなかった。
最悪だったのは帰港中の船室だった。他の釣り人の前で師匠は、初心者君に釣れたのは、自分のアドバイスのおかげであるかのようなことを言い、返す刀でボクの方に向かって「それにしてもキミのは惜しかったな~。」と傷口に塩を塗る始末だった。
言い返そうにも気力が果てて、切れ味鋭いツッ込みを返せそうになかったので、黙っているしかなく、着岸まで苦痛の時間を過ごすハメになってしまった…。
そんな中、師匠の心中を察したのか、初心者君は、けなげにも
「こんなに魚があっても喰いきれないから、一匹持って帰ってください。」と師匠に申し出るのであった。ボクが師匠の立場ならプライドが許さないから、そんな魚は受け取らないだろうけど、驚くことに、それを聞いた師匠は笑みを浮かべながら、「そうか、そうか」と納得の様子だった。
「どこまでも心の小さいオッサンやなぁ~。」と思いつつ、そのやり取りをボクは聞いていたが、今度はその師匠、マダイの料理について講釈をたれ始めるのであった…。
「え・え・か・げ・ん・に・せ~・よ!」と心中でつぶやきつつも、あまりのアホさ加減に怒る気持ちも萎えて、笑ってしまったボクであった。
そんなこんなの乗合船だが、「人間ウォッチするのも楽しみの一つ」としてボクは受け止めている。今度の船にはどんな人が乗ってくるのだろうか…。