■「機能美」大好き■
ボクだけの傾向ではないとは思うが、贅肉を切り落とし、必然から生まれた「機能美溢れる」デザインが大好きだ。例えば究極を言うと日本刀がソレにあたる。
道具としての便利さから言えば、刀は峰と刃に分けず、直刀のように真っ直ぐで両側が切れる両刀にした方が片方の刃が欠けても使えるし、どちらに振り込んでも刃が対象物に向くので利点が多いように思う。
しかし、ご存じの通り日本刀は片方にしか刃が付いていない。これには東北の騎馬武者が使っていたのをマネした等、諸説あるそうだが、ボク的には対象物に当たった後に力が逃げて刃が滑り、より深く切り込んでゆくようにするため、独特の湾曲した反りが必要になったことと、軽量化による取り回しの良さと強度の両立のために片刃を採用したという説を信じている。だからあの独特のデザインの美しさは「敵を切る」ということに特化したために生まれてきたものだろうと思っている。しかも他国の刀に比べると工程数が多く、更には折れにくくなるようにと不純物が少ない良質の鋼を使っているから独特の輝きを放っている。正にこれこそが必然から生まれた「機能美」なのだと思う。
そういったモノに出逢うと、ボクはついつい手が出て購入してしまいがちになる。対象は高機能な道具や器機類などに存在するが、デジタル器機の中にはほとんど存在しない。ただし、これを日本刀の世界でやってしまうと「銃刀法違反」になるし、自動車や時計のような世界でやってしまうとお金がいくらあっても足りない。そこはそこ、次元は全く違うが、お手軽価格帯の中にある工業生産品での話だ。そんな感じで集めてしまうモノ中にアウトドア用のバーナー(ストーブ)やランタンがある。「高効率さに感心して一品」、「機能美に感心して一品」、「収納性の高さに感心して一品」と買ってゆく内に、気付けば随分と数が増えている。

●現在所有中の「ランタン」の数々●
同様の趣味を持つ「お仲間」は少なからず居るみたいで、Googleで検索すると結構な量の情報が流れているが、それらを参考にし、自分でも経験する内に知識の集積が進んでいる。
「食うこと」と「暗がりに明かりをともすこと」は瀬泊まりをする釣りやキャンプ等では欠かせない作業となるので、これから数度にわたって皆さんにボクなりの燃焼器具に対するノウハウを伝えていきたいと思う。

●現在所有中の「バーナー(ストーブ)」の数々●
以前に触れた話であり、少し内容がカブってしまうが、まず第1回目は、本題の器機の話に入る前に避けては通れない、使用するガスの話から。
■ガスボンベの種類■
アウトドアで使う缶入りガスは、ずんぐりした形の「アウトドア缶」と呼ばれるモノと、ややスリムで鍋物用コンロでお馴染みの「カセット缶」の2タイプの缶に充填されたモノが一般に流通している。しかし、一般向けにボンベ内に充填できるガスの種類は決まっており、アウトドア缶だからといっても特別なモノが入っているワケではない。ただし、缶強度の差から混合するガスの比率には違いがある。

●カセット缶の数々●
家庭用で鍋物をする際は、問題なく装着できればメーカーにはこだわらないで、ホームセンターやディスカウントショップで売っている1本(250g)¥100以下のカセット缶を使用する人が多いが、アウトドアユースでは燃焼器具のメーカー(ブランド)とボンベのメーカーを合わせる人がナゼか多い。缶内にある弁を押し下げるためのピンの長短による相性の善し悪しが少しはあるものの、基本的には装着に互換性があるハズなのにである。
これは器具やボンベに「専用の物同士で使用すること」と大きく記入してあるからだと思うが、家庭用コンロ等であってもこの記述がほとんどの場合でなされているのに不思議な現象だ。
実は、万一の事故があった際にボンベと燃焼器具のメーカー(ブランド)が違うと、責任がどちらにあるかがハッキリとしない場合は「生産物賠償責任保険=PL保険」の適応がし辛くなるからこの記述があるということらしい。
だから、このブログを読んでいる人々にも「他社間での缶の流用はあくまでも自己責任で!」ということをボクとしてはまず最初に示しておきたい。(万一の事故の責任は自分でとること!)

●缶にある「生産物賠償責任保険付」の表示●
しかし、このあたりは管理する役所によって判断が違っており、最近では語気が弱められている様子だが、そんなことは初めから気にしない海外の人達はレポート等を見る限り、メーカーにこだわらず装着できるモノを適当に選んでいる人が多いようだ。

●アウトドア缶の数々●
■ガスの種類■
ボンベに充填されるガスは「プロパン」「イソブタン」「ノーマル(ノルマルとも)ブタン」の3種類で、それぞれ価格と性能が違う。
ホームセンター等で売られているカセット缶は、価格を抑えるためにノーマルブタンを100%充填したモノがほとんどだ。因みにアウトドア・ブランドから販売されているノーマルタイプにも同じノーマルブタン100%充填モノがあるが、なぜ中身が同じガスなのに、あれだけの価格差があるのかはボクには理解できないのだが…。
ノーマルブタンの特徴は上述した「安価であること」以外に、3種の中で一番暑さに強いという点が挙げられる。
したがって夏場のキャンプに向かう際でも安心して車で運べるが、これは裏返すと寒さに弱いということなのだ。沸点が-0.5度と一番高いから低い温度では管内でガス化しにくくなるうえ、蒸気圧が低いために気温が10度以下になると確実に火力が落ちてくる。そして使えば使うほど気化する際に気化熱を奪うので、悪循環が始まって、ついには火が消えてしまうことになるのだ。
その点、イソブタンは沸点が-11.7度なのでノーマルブタンよりも低く、蒸気圧もそこそこ高いので実用上は氷点下チョイまでなら火が着いてくれるが、それ以下になるとノーマルブタンと同じ状態になる。高濃度に充填された缶の価格はノーマルブタン100%モノの3倍ほどする。
残るはプロパンだ。このガスは更に高価だが一番低温に強く、極寒の冬山登山での使用に耐えるくらいだそうだが、その分沸点が-42.1度と低く、蒸気圧がかなり高いので缶の強度を考えると単体での100%充填は不可能だ。したがって、どうしても他のガスとの混合充填になってしまうのだ。当然暑さにも弱く、強度を上げたアウトドア缶に高濃度ブレンドしているメーカーもあるが、冬場に使用を限定して販売しているほどだ。
3種のガスを燃やした際の、同じ重量単位あたりの熱量にはあまり差がないが、上述したようにガスの沸点と蒸気圧が違う。
蒸気圧の高いガスは火口から吹き出す時間あたりのガス量が多くなるので、高回転型自動車エンジンの馬力と同じように、見かけ上(時間単位の)火力が強くなるという特性がある。しかし、これまた高回転型自動車エンジンの馬力と同じで、時間あたりのガス消費量が増え、燃費が悪くなるのだ。
■混合ガス■
上で少し触れた寒冷地仕様ガス缶の他、各メーカー(ブランド)が販売しているハイパワータイプと呼ばれるガス缶は、ノーマルブタンの割合を減らして、イソブタンを混合したもの、あるいはイソブタンそのものを主成分にしたモノや、更にはプロパンを加えてその割合を増やしたモノまで、各社の狙いや思惑があってその混合比は多彩だ。

●イソブタン95%のユニフレーム・プレミアムガス●
例を挙げると、カセット缶(250g入)の場合は最安のホームセンター製=100%ノーマルブタン(1本あたり¥100円前後)から始まり、イワタニ製のカセット缶=「オレンジ缶」がノーマルブタン70%+イソブタン30%(1本=250gあたり¥185前後)、ユニフレームの「プレミアムガス」はイソブタン95%+プロパン5%(1本=250gあたり¥320前後)、それに加えてプロパンが配合されたモノまで存在するが、JIS規格カセット缶の場合は缶内に充填するプロパンは5%までと決められているので、カセット缶に対するプロパン配合はメリットは少ないように思う。
アウトドア缶(大=470g前後入)の場合は缶の耐圧強度が高いようで、それに合わせて充填の割合も多岐にわたっている。一般的なイソブタン+ノーマルブタンを始め、具体例を挙げると、スノーピークの「プロイソ(金缶)」はプロパン35%+イソブタン65%(1本=450gあたり¥914前後)、EPIの寒冷地仕様の「エクスペディション」はノーマルブタン42%+イソブタン18%+プロパン40%(1本=190gあたり¥720前後)、ユーザーの多いコールマンに関しては古いデータしかないが、「レギュラー」はノーマルブタン56%+イソブタン24%+プロパン20%(1本=470gあたり¥820前後)、「イソブタン450T」がイソブタン95%+プロパン5%(1本=470gあたり¥980前後)といったところのようだ。

●イソブタンが30%のイワタニ・オレンジ缶●
各社がブレンドを工夫しているガスだが、缶内のガスは、蒸気圧の高いものから順番に燃えていくことをまず頭に入れておかなくてはならない。
実は、缶内に混合充填されたガスは混合比通りに噴出されるのではなく、蒸気圧が高い順に徐々に入れ替わりつつ噴出されるのだ。
例えばイソブタンとノーマルブタンを混合したイワタニのカセット缶「オレンジ缶」の場合だと、先にイソブタンから燃え始め、それが無くなり始めたら徐々にノーマルブタンが混じり始め、最終的にはノーマルブタンだけで燃えるといった具合だ。
それでも気温が高ければ全てのガスが気化して噴出されるので、そう問題を感じない。しかし、10℃以下の気温になると、イソブタンが燃え尽きた後は沸点が高いノーマルブタンは缶内に残り始め、さらに気化熱が奪われて缶内の温度が5℃を切る頃になると顕著に気化しなくなって「ガス欠状態」となり、やがて火が消えてしまうようになるのだ。
同様に気温が氷点下5℃の時に例えばスノーピークのプロイソ(金缶)を使用していても、プロパンが燃え尽きた後に残ったイソブタンは気化せず、その分は缶内に残ったままになる。
このような特性から、寒い日に気化せず缶内に残った沸点の高い方のガスを同じ条件の日に使おうとしても、結局は使えずにずっと残ったままになることが理解できるだろう。
では、「混合は無意味なのか?」と聞かれれば、何も工夫できないそのままの状態であるのなら「そうだ。」とも言え、「缶の強度上、仕方がないから有効なガスだけ使って、気化せずに火が着かなかった分は気温の高い日にでも…。」と答えざるを得ない。
だからこそ本気で冬山登山をするような人達はガス燃料のバーナーを敬遠し、ポンピングという少々ジャマ臭い作業が付き物なうえ、機材自体も多少かさばる「ガソリン・バーナー」、もしくは、火力は低いがコンパクトな「アルコール・バーナー」を携行することが多いのだ。
但し、「工夫できない」のであればと言ったのは、実は例外があって「燃焼器具側に、対策装置があれば有効」とも答えられるし、使う側の努力によっても何とかなる場合もあるからだ。その装置等については追々紹介する。
■ガス優先で選ぶ燃焼器具■
結局、中途半端にガスが混合されていても条件によっては缶内に沸点の高いガスが残ってしまうので、割高になるだけだ。だからボクの場合は同じカセット缶規格の中で、一番安いホームセンターモノと、ユニフレームのプレミアムガスを使い分け、微妙な気温の場合は、燃焼器具に上述した、とある装置が着いているという前提の下でその中間価格帯であるイワタニのオレンジ缶を使うことにしている。
特に、イソブタンが95%でありながら250g入缶が320円前後のユニフレーム・プレミアムガスが秀逸であることは間違いない。通常のファミリーキャンプや釣りにおいては氷点下の冷え込みの中で長時間居続けることはないだろうから、冬場はこのガスさえあれば事足りてしまうだろう。
価格を他社製品と比較してみると、例えばアウトドア缶の中ではコールマンのイソブタン450Tが同じ混合比であるが、こちらは内容量470gで980円前後もするから、価格差がかなりある。
たかがガスと言ってもその価格差はバカには出来ない。2~3泊のキャンプで複数のランタンとツーバーナーなどを使用するのであれば、その差がかなりついてしまうのだ。
何度も言うが、ガス缶と燃焼器具を同じメーカー(ブランド)にしないことは、自己責任での使用になることを理解して欲しいが、もし、万一の際のPL保険の適用を考えて同じメーカー製にこだわる場合は、当然コスト・パフォーマンス性の高いプレミアムガスが純正で使える「ユニフレーム社製」の燃焼器具を文句なくお薦めする。ただし、このメーカーのレギュラーガスは混合比がプロパン他2%+イソブタン28%+ノーマルブタン70%でありながら、1本あたり¥270もするから、プレミアムガスとの価格差に違和感を覚えるが…。
しかし、それはホームセンター等で販売されている安売りのカセット缶と比べた結果であって、他社のアウトドアブランドのカセット缶やアウトドア缶のノーマルガスより性能が同等以上でありながら、割安であるのは確かだ。
これからアウトドア用の燃焼器機を購入しようと思うのなら、これまでに書いてきたように「ガス側の事情」を最初から考慮しておけば、コストパフォーマンス性の高い選択ができるということを頭に入れておいて欲しい。
以下、気化促進装置編に続く。
※最近の原油高に加え、震災後の需給バランスの崩れが重なり、各社、特にアウトドア・ブランドのガスボンベに品不足と価格高騰が起こっているようだ。例えばユニフレームのプレミアムガスは、ここ1年ほどの間で250g入が1缶250円だったのが、最高値では320円くらいになっている。従って文中の価格は流動的な中の一時を捉えているに過ぎないのだ。その点にご理解を。
ボクだけの傾向ではないとは思うが、贅肉を切り落とし、必然から生まれた「機能美溢れる」デザインが大好きだ。例えば究極を言うと日本刀がソレにあたる。
道具としての便利さから言えば、刀は峰と刃に分けず、直刀のように真っ直ぐで両側が切れる両刀にした方が片方の刃が欠けても使えるし、どちらに振り込んでも刃が対象物に向くので利点が多いように思う。
しかし、ご存じの通り日本刀は片方にしか刃が付いていない。これには東北の騎馬武者が使っていたのをマネした等、諸説あるそうだが、ボク的には対象物に当たった後に力が逃げて刃が滑り、より深く切り込んでゆくようにするため、独特の湾曲した反りが必要になったことと、軽量化による取り回しの良さと強度の両立のために片刃を採用したという説を信じている。だからあの独特のデザインの美しさは「敵を切る」ということに特化したために生まれてきたものだろうと思っている。しかも他国の刀に比べると工程数が多く、更には折れにくくなるようにと不純物が少ない良質の鋼を使っているから独特の輝きを放っている。正にこれこそが必然から生まれた「機能美」なのだと思う。
そういったモノに出逢うと、ボクはついつい手が出て購入してしまいがちになる。対象は高機能な道具や器機類などに存在するが、デジタル器機の中にはほとんど存在しない。ただし、これを日本刀の世界でやってしまうと「銃刀法違反」になるし、自動車や時計のような世界でやってしまうとお金がいくらあっても足りない。そこはそこ、次元は全く違うが、お手軽価格帯の中にある工業生産品での話だ。そんな感じで集めてしまうモノ中にアウトドア用のバーナー(ストーブ)やランタンがある。「高効率さに感心して一品」、「機能美に感心して一品」、「収納性の高さに感心して一品」と買ってゆく内に、気付けば随分と数が増えている。

●現在所有中の「ランタン」の数々●
同様の趣味を持つ「お仲間」は少なからず居るみたいで、Googleで検索すると結構な量の情報が流れているが、それらを参考にし、自分でも経験する内に知識の集積が進んでいる。
「食うこと」と「暗がりに明かりをともすこと」は瀬泊まりをする釣りやキャンプ等では欠かせない作業となるので、これから数度にわたって皆さんにボクなりの燃焼器具に対するノウハウを伝えていきたいと思う。

●現在所有中の「バーナー(ストーブ)」の数々●
以前に触れた話であり、少し内容がカブってしまうが、まず第1回目は、本題の器機の話に入る前に避けては通れない、使用するガスの話から。
■ガスボンベの種類■
アウトドアで使う缶入りガスは、ずんぐりした形の「アウトドア缶」と呼ばれるモノと、ややスリムで鍋物用コンロでお馴染みの「カセット缶」の2タイプの缶に充填されたモノが一般に流通している。しかし、一般向けにボンベ内に充填できるガスの種類は決まっており、アウトドア缶だからといっても特別なモノが入っているワケではない。ただし、缶強度の差から混合するガスの比率には違いがある。

●カセット缶の数々●
家庭用で鍋物をする際は、問題なく装着できればメーカーにはこだわらないで、ホームセンターやディスカウントショップで売っている1本(250g)¥100以下のカセット缶を使用する人が多いが、アウトドアユースでは燃焼器具のメーカー(ブランド)とボンベのメーカーを合わせる人がナゼか多い。缶内にある弁を押し下げるためのピンの長短による相性の善し悪しが少しはあるものの、基本的には装着に互換性があるハズなのにである。
これは器具やボンベに「専用の物同士で使用すること」と大きく記入してあるからだと思うが、家庭用コンロ等であってもこの記述がほとんどの場合でなされているのに不思議な現象だ。
実は、万一の事故があった際にボンベと燃焼器具のメーカー(ブランド)が違うと、責任がどちらにあるかがハッキリとしない場合は「生産物賠償責任保険=PL保険」の適応がし辛くなるからこの記述があるということらしい。
だから、このブログを読んでいる人々にも「他社間での缶の流用はあくまでも自己責任で!」ということをボクとしてはまず最初に示しておきたい。(万一の事故の責任は自分でとること!)

●缶にある「生産物賠償責任保険付」の表示●
しかし、このあたりは管理する役所によって判断が違っており、最近では語気が弱められている様子だが、そんなことは初めから気にしない海外の人達はレポート等を見る限り、メーカーにこだわらず装着できるモノを適当に選んでいる人が多いようだ。

●アウトドア缶の数々●
■ガスの種類■
ボンベに充填されるガスは「プロパン」「イソブタン」「ノーマル(ノルマルとも)ブタン」の3種類で、それぞれ価格と性能が違う。
ホームセンター等で売られているカセット缶は、価格を抑えるためにノーマルブタンを100%充填したモノがほとんどだ。因みにアウトドア・ブランドから販売されているノーマルタイプにも同じノーマルブタン100%充填モノがあるが、なぜ中身が同じガスなのに、あれだけの価格差があるのかはボクには理解できないのだが…。
ノーマルブタンの特徴は上述した「安価であること」以外に、3種の中で一番暑さに強いという点が挙げられる。
したがって夏場のキャンプに向かう際でも安心して車で運べるが、これは裏返すと寒さに弱いということなのだ。沸点が-0.5度と一番高いから低い温度では管内でガス化しにくくなるうえ、蒸気圧が低いために気温が10度以下になると確実に火力が落ちてくる。そして使えば使うほど気化する際に気化熱を奪うので、悪循環が始まって、ついには火が消えてしまうことになるのだ。
その点、イソブタンは沸点が-11.7度なのでノーマルブタンよりも低く、蒸気圧もそこそこ高いので実用上は氷点下チョイまでなら火が着いてくれるが、それ以下になるとノーマルブタンと同じ状態になる。高濃度に充填された缶の価格はノーマルブタン100%モノの3倍ほどする。
残るはプロパンだ。このガスは更に高価だが一番低温に強く、極寒の冬山登山での使用に耐えるくらいだそうだが、その分沸点が-42.1度と低く、蒸気圧がかなり高いので缶の強度を考えると単体での100%充填は不可能だ。したがって、どうしても他のガスとの混合充填になってしまうのだ。当然暑さにも弱く、強度を上げたアウトドア缶に高濃度ブレンドしているメーカーもあるが、冬場に使用を限定して販売しているほどだ。
3種のガスを燃やした際の、同じ重量単位あたりの熱量にはあまり差がないが、上述したようにガスの沸点と蒸気圧が違う。
蒸気圧の高いガスは火口から吹き出す時間あたりのガス量が多くなるので、高回転型自動車エンジンの馬力と同じように、見かけ上(時間単位の)火力が強くなるという特性がある。しかし、これまた高回転型自動車エンジンの馬力と同じで、時間あたりのガス消費量が増え、燃費が悪くなるのだ。
■混合ガス■
上で少し触れた寒冷地仕様ガス缶の他、各メーカー(ブランド)が販売しているハイパワータイプと呼ばれるガス缶は、ノーマルブタンの割合を減らして、イソブタンを混合したもの、あるいはイソブタンそのものを主成分にしたモノや、更にはプロパンを加えてその割合を増やしたモノまで、各社の狙いや思惑があってその混合比は多彩だ。

●イソブタン95%のユニフレーム・プレミアムガス●
例を挙げると、カセット缶(250g入)の場合は最安のホームセンター製=100%ノーマルブタン(1本あたり¥100円前後)から始まり、イワタニ製のカセット缶=「オレンジ缶」がノーマルブタン70%+イソブタン30%(1本=250gあたり¥185前後)、ユニフレームの「プレミアムガス」はイソブタン95%+プロパン5%(1本=250gあたり¥320前後)、それに加えてプロパンが配合されたモノまで存在するが、JIS規格カセット缶の場合は缶内に充填するプロパンは5%までと決められているので、カセット缶に対するプロパン配合はメリットは少ないように思う。
アウトドア缶(大=470g前後入)の場合は缶の耐圧強度が高いようで、それに合わせて充填の割合も多岐にわたっている。一般的なイソブタン+ノーマルブタンを始め、具体例を挙げると、スノーピークの「プロイソ(金缶)」はプロパン35%+イソブタン65%(1本=450gあたり¥914前後)、EPIの寒冷地仕様の「エクスペディション」はノーマルブタン42%+イソブタン18%+プロパン40%(1本=190gあたり¥720前後)、ユーザーの多いコールマンに関しては古いデータしかないが、「レギュラー」はノーマルブタン56%+イソブタン24%+プロパン20%(1本=470gあたり¥820前後)、「イソブタン450T」がイソブタン95%+プロパン5%(1本=470gあたり¥980前後)といったところのようだ。

●イソブタンが30%のイワタニ・オレンジ缶●
各社がブレンドを工夫しているガスだが、缶内のガスは、蒸気圧の高いものから順番に燃えていくことをまず頭に入れておかなくてはならない。
実は、缶内に混合充填されたガスは混合比通りに噴出されるのではなく、蒸気圧が高い順に徐々に入れ替わりつつ噴出されるのだ。
例えばイソブタンとノーマルブタンを混合したイワタニのカセット缶「オレンジ缶」の場合だと、先にイソブタンから燃え始め、それが無くなり始めたら徐々にノーマルブタンが混じり始め、最終的にはノーマルブタンだけで燃えるといった具合だ。
それでも気温が高ければ全てのガスが気化して噴出されるので、そう問題を感じない。しかし、10℃以下の気温になると、イソブタンが燃え尽きた後は沸点が高いノーマルブタンは缶内に残り始め、さらに気化熱が奪われて缶内の温度が5℃を切る頃になると顕著に気化しなくなって「ガス欠状態」となり、やがて火が消えてしまうようになるのだ。
同様に気温が氷点下5℃の時に例えばスノーピークのプロイソ(金缶)を使用していても、プロパンが燃え尽きた後に残ったイソブタンは気化せず、その分は缶内に残ったままになる。
このような特性から、寒い日に気化せず缶内に残った沸点の高い方のガスを同じ条件の日に使おうとしても、結局は使えずにずっと残ったままになることが理解できるだろう。
では、「混合は無意味なのか?」と聞かれれば、何も工夫できないそのままの状態であるのなら「そうだ。」とも言え、「缶の強度上、仕方がないから有効なガスだけ使って、気化せずに火が着かなかった分は気温の高い日にでも…。」と答えざるを得ない。
だからこそ本気で冬山登山をするような人達はガス燃料のバーナーを敬遠し、ポンピングという少々ジャマ臭い作業が付き物なうえ、機材自体も多少かさばる「ガソリン・バーナー」、もしくは、火力は低いがコンパクトな「アルコール・バーナー」を携行することが多いのだ。
但し、「工夫できない」のであればと言ったのは、実は例外があって「燃焼器具側に、対策装置があれば有効」とも答えられるし、使う側の努力によっても何とかなる場合もあるからだ。その装置等については追々紹介する。
■ガス優先で選ぶ燃焼器具■
結局、中途半端にガスが混合されていても条件によっては缶内に沸点の高いガスが残ってしまうので、割高になるだけだ。だからボクの場合は同じカセット缶規格の中で、一番安いホームセンターモノと、ユニフレームのプレミアムガスを使い分け、微妙な気温の場合は、燃焼器具に上述した、とある装置が着いているという前提の下でその中間価格帯であるイワタニのオレンジ缶を使うことにしている。
特に、イソブタンが95%でありながら250g入缶が320円前後のユニフレーム・プレミアムガスが秀逸であることは間違いない。通常のファミリーキャンプや釣りにおいては氷点下の冷え込みの中で長時間居続けることはないだろうから、冬場はこのガスさえあれば事足りてしまうだろう。
価格を他社製品と比較してみると、例えばアウトドア缶の中ではコールマンのイソブタン450Tが同じ混合比であるが、こちらは内容量470gで980円前後もするから、価格差がかなりある。
たかがガスと言ってもその価格差はバカには出来ない。2~3泊のキャンプで複数のランタンとツーバーナーなどを使用するのであれば、その差がかなりついてしまうのだ。
何度も言うが、ガス缶と燃焼器具を同じメーカー(ブランド)にしないことは、自己責任での使用になることを理解して欲しいが、もし、万一の際のPL保険の適用を考えて同じメーカー製にこだわる場合は、当然コスト・パフォーマンス性の高いプレミアムガスが純正で使える「ユニフレーム社製」の燃焼器具を文句なくお薦めする。ただし、このメーカーのレギュラーガスは混合比がプロパン他2%+イソブタン28%+ノーマルブタン70%でありながら、1本あたり¥270もするから、プレミアムガスとの価格差に違和感を覚えるが…。
しかし、それはホームセンター等で販売されている安売りのカセット缶と比べた結果であって、他社のアウトドアブランドのカセット缶やアウトドア缶のノーマルガスより性能が同等以上でありながら、割安であるのは確かだ。
これからアウトドア用の燃焼器機を購入しようと思うのなら、これまでに書いてきたように「ガス側の事情」を最初から考慮しておけば、コストパフォーマンス性の高い選択ができるということを頭に入れておいて欲しい。
以下、気化促進装置編に続く。
※最近の原油高に加え、震災後の需給バランスの崩れが重なり、各社、特にアウトドア・ブランドのガスボンベに品不足と価格高騰が起こっているようだ。例えばユニフレームのプレミアムガスは、ここ1年ほどの間で250g入が1缶250円だったのが、最高値では320円くらいになっている。従って文中の価格は流動的な中の一時を捉えているに過ぎないのだ。その点にご理解を。
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