透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「総角」

2022-09-08 | G 源氏物語

「総角(あげまき) それぞれの思惑」

 全54帖から成る長編『源氏物語』。作者別人説もあるという匂宮三帖(第42帖~第44帖)は出来栄えが良くないと評されてもいる。このことに関して、作者・紫式部が主人公・光源氏を失って物語をどう展開していこうか、試行錯誤したことに因るのではないかという見解も示されている。その迷いが吹っ切れて物語の方向を定めて書かれたであろう最後の宇治十帖(第45帖~第54帖)は登場人物の内面もきっちり描かれている。また、登場人物が少ないことから、読みやすい。現代語訳した角田光代さんの文章にもなんとなく勢いを感じる。

さて、宇治十帖の第47帖「総角」。

八の宮の一周忌。**あげまきに長き契りをむすびこめおなじ所によりもあはなむ**(148頁)薫(中納言)は八の宮の長女(大君)に思いをこの歌に託す。私たちもいつまでも寄り添っていたいものです、と。しかし姉は父親が遺した安易に世間並みの結婚などしないようにという言葉を守って生涯独身貫く覚悟。だが、妹(中の君)の面倒はみてやらなければ・・・、妹を薫に縁づかせようと考えている。

一周忌が明けて、薫は老女房の弁の案内でこっそり姉妹の部屋に入り込む。その時、眠っていなかった姉は起き出してすばやく身を隠す。妹は無心に眠ったままでいる。ひとりで寝ているのが思いを寄せる姉ではなく妹だと気が付いた薫はやはり軽い気持ちだったのかと姉に思われたくないと考えて、気持ちを静めて妹と話をして夜を明かす。むなしい夜明け・・・。若かりし頃の光君だったらこのようにはしなかっただろう。

**おなじ枝(え)をわきて染めける山姫にいづれか深き色と問はばや(同じ枝を、それぞれ分けて染めた山の女神に、どちらが深い色かと尋ねたいものです ― 私はお二人のうちどちらに心を寄せたらいいのでしょう)**(169頁)と薫。

**山姫の染むる心はわかねどもうつろふかたや深きならむ**(170頁) 大君の返歌。

なるほど、上手いなあ。源氏物語には約800首(795首だが、このような数字をざっくりと押さえる「くせ」が僕にはある)の和歌が収められている。もちろん紫式部の作、平安の才女は和歌にも長けていた。

匂宮が妹(中の君)と結婚すれば自分は姉(大君)と結婚できるかも、と考えた薫は匂宮を宇治に誘う。妹と結ばれた匂宮だが、なかなか宇治に通うことができないでいる。匂宮の薄情な態度に失望した姉は妹を不幸にしてしまったと思い悩み、病床についてしまう。

その後、妹から父宮が夢に出たけれど、とてもふさぎこんだ様子だったと聞かされた姉はさらに病状が悪化、薫に看取られて亡くなってしまう。宇治で喪に服す薫。

大君は死んでしまうのか・・・、この展開には驚いた。匂宮は中の君を二条院に引き取る決心をする。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔 
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋


「椎本」

2022-09-04 | G 源氏物語

「椎本 八の宮の死、薫中将の思い」

 いよいよ薫と匂宮の恋物語が動き出す・・・。

八の宮の姫君たちに興味を抱く匂宮(兵部卿宮 ひょうぶきょうのみや)は二月、初瀬の長谷寺参詣の帰りに夕霧が光君から受け継いだ宇治の別荘に宿泊する。同行のお供たちはそれぞれ好きなように遊んで一日過ごす。夕方になって奏していた琴や笛などの音色が風にのって八の宮の邸にも届く。昔の栄華を思い出す八の宮は娘たちの行く末を案じている・・・。**「宰相中将(薫)は、どうせなら姫君たちの婿にしたいようなお人柄だが、ご本人はそんなことは考えていらっしゃらないようだ。まして最近の軽薄な男たちとの結婚など話にもならないし・・・」**(112,3頁)と八の宮。

翌朝、八の宮から薫宛ての手紙が届いた。返事を書いたのは薫ではなく、匂宮。この辺り、この先の恋愛のこじれの暗示か。返事を届けるのは薫。薫に同行した人たちは八の宮邸の趣のある設えに惹かれ、古風で上品なもてなしに感動していた。そこへ一向に同行していなかった匂宮から姫君に宛てた手紙が届いた。

手紙に困惑していた姫君たち、年老いた女房たちに返事をお待たせするのは感じがわるいものですよと言われて、八の宮は中の君に返事を書かせた。**かざし折る花のたよりに山がつの垣根を過ぎぬ春の旅人(挿頭の花を手折るついでに、山賤(やまがつ)の垣根をただ通り過ぎただけでしょう、春の旅人であるあなたは)**(115頁)長女ではなく、次女に返事を書かせたこともこの先の展開に関係してくるのだろうか・・・。

その後も匂宮は姫君たちに手紙を送っている。八の宮が返事を書くように勧められて、中の君が書く。大君(お姉さん)は書かないのかなと思っていると、**大君は、こうしたやりとりには冗談でもかかわろうとしない慎重な人である。**(116頁)と、あった。

秋、久しぶりに宇治を訪ねた薫に八の宮は**「私が亡きあとは、何かのついでにこの姫君たちをお訪ねくださって、どうか見捨てられない者とお考えください」などと胸の内を話す。**(117頁)

深まる秋。死期を感じた八の宮は**「(前略)よくよく頼りになる人が現れない限り、うまい言葉に誘われてこの山里を離れてはいけませんよ。(後略)」と姫君たちに言い聞かせる。八の宮が二人の娘に長々と話すことばには説得力があって、確かにと思うが、その話全ての掲載は控える。その後、八の宮は念仏三昧にこもっていた山寺で亡くなってしまう。

看取れなかった二人は悲しみに暮れ、八の宮の死を耳にした薫もひどく気落ちし、残念にも思って泣いた。登場人物たちは本当によく泣く。匂宮からもたびたびの弔問がある。

八の宮の喪が明けた。**「(前略)父宮おひとりのご庇護に守られていたからこそ何事も安心して過ごしてきたけれど、心ならずもこうして生き長らえて、思いも寄らない間違いが少しでもあれば、そればかり心配なさっていた亡き父宮の御霊にまで瑕をつけてしまうことになるのでは」**(128頁)と大君はあいかわらず匂宮の手紙に返事を書かない。注など不要だが、思いも寄らない間違いとは男女の間違いのこと。ただ、薫とは手紙のやりとりをしている。男二人の印象が違うのだ。

年末に宇治を訪れた薫は匂宮の思いを大君に取り次ぎ、自分の思いもほのめかす。だが、大君は取り合わなかった。夕霧は匂宮に娘(六の君)を添わせたいと願っているが、匂宮にはその気がない。宇治の姫君にぞっこんなので。

この帖にラスト、夏。**風が簾を高く吹き上げたらしく、「丸見えになってしまう。その御几帳をこちらに押し出して」という人がいるらしい。馬鹿なことを、と思いつつもうれしくて、中納言はのぞいてみる。**(142頁) そう、八の宮を偲び、宇治を訪れた薫は美しい姉妹をのぞきみてしまった・・・。

この帖は現代の恋愛ドラマに仕立ててもおもしろいかもしれない・・・。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔 
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋

 


「橋姫」

2022-08-22 | G 源氏物語

「橋姫 宇治に暮らす八の宮と二人の姉妹」

 全五十四帖から成る源氏物語。最後の「宇治十帖」を読み始めた。

**その頃、世間から忘れられている古い親王(みこ)がいた。**(77頁)と始まる「橋姫」。この帖には新たに八の宮が登場する。この宮は光君の異母弟。紫式部はこの長大な小説をこれからどう展開させ、どう終わらせるか熟考して、その構想、そしてプロットをはっきりさせることができたのだと思う。で、とっくに登場していてもおかしくない、光君の弟(異母弟)をここで登場させる。この帖の最後で紫式部は薫の出生の秘密を明かす。

八の宮は北の方(妻)と仲睦まじく暮らしていた。北の方は二人目の娘を出産した後、亡くなってしまう。周囲の人は再婚を勧めるけれど、宮は聞き入れない。二人の娘は成長して、**大君は聡明で思慮深く、重々しく見える。中の君はおっとりと可憐で、はにかんでいる様子がじつにかわいらしく、それぞれにすばらしい。**(80頁)姉妹はこのように評されている。

不幸にも住んでいた邸が火事に遭い、八の宮は娘二人とともに、宇治の山荘に移り住む。

**見し人も宿も煙(けぶり)になりにしをなにとて我が身消え残りけむ**(83頁) 愛する妻を亡くし、生きている甲斐もないと嘆き悲しんでいる。

八の宮は**さみしい日々を暮らしながら尊い修行を積み、経典を勉強しているので**(83頁)、宇治山に住む阿闍梨(あじゃり 高僧)が敬意をもって邸に足を運び、仏道の深い意味を説いて聞かせている。この阿闍梨は冷泉院にも深く仕えていて、ある時、八の宮のことを話した。

ここで復習。冷泉院は故桐壺帝の十番目の皇子で光君の弟だが、実は光君の息子。源氏物語は登場人物がそれぞれ血縁関係にあるなど、深く関係していることが多いので、時々人物系図で関係を確認しながら読み進む。登場人物の関係が頭に入らない・・・、「源氏物語」はもっと若い時に読んでおくべきだった。

薫は冷泉陰の近くに控えていて、この話(って、阿闍梨の話)を耳にして、**身は俗にいながら心は聖の境地になるとはどんな心構えなのだろう**(84頁)と八の宮に関心を持ち、宇治に通い始める。この先の展開はある程度予測がつく。薫が宇治の姉妹と出会い、匂宮もまた、二人と出会って・・・。

本文を読んでいて気がついたが、この帖(この後の帖もそうかもしれない)は登場人物の振る舞いや心の動きが詳細に綴られている。物語のラストに向けて、紫式部は再び気力を充実させたのだろう。凄い人だと改めて思った。

薫は八の宮から仏道に関する講話を聴くが、その本質を説く宮を尊敬する。晩秋。薫が宇治に出かけた時、八の宮は阿闍梨の住む山寺に籠っていて不在だった。娘たちが琵琶と琴を奏でていた。二人を垣間見た薫は恋心を抱く。

薫は御簾の奥にいる大君に向かい長々と話をする。だが、ストレートに口説こうなどとはしない。ここで大君は答えに窮し、老女房に対応をまかせてしまう。この女房こそ、薫の出生の真相を知る人だった・・・。二人のやり取りの最中に次の描写が入る。**宮のこもっている山寺の鐘の音がかすかに聞こえ、霧がじつに深く一面に立ちこめている。**(96頁) この風情! この何気ない描写、実に好い。

薫は**あさぼらけ家路も見えず尋ね来し槇の尾山は霧こめてけり(ほんのりと夜が明けていきますが、帰るべき家路も見えないくらい、はるばるやってきた槇の尾山は霧が立ちこめています)**(96頁)と、大君に詠む。大君は**雲のゐる峰のかけ路を秋霧のいとど隔つるころにもあるかな(雲のかかっている峰の険しい路を、さらにまた秋霧までが、父君とのあいだをいっそう隔てているこの頃です)**(97頁)と詠む。

更に**橋姫の心をくみて高瀬さす棹のしづくに袖ぞ濡れぬる**と書く。この歌を読んだ大君は**さしかへる宇治の川をさ朝夕のしづくや袖を朽(くた)し果つらむ(棹をさしかえては行き来する宇治の渡し守は、朝夕の棹の雫が袖を朽ちさせてしまうでしょう ― 私の袖も涙に朽ち果てることでしょう**と返す。この歌を詠んだ時、ふたりはまだ二十歳を過ぎたばかり。「単語ツイート」の現代と、この文化の違いは一体何だろう・・・。

薫は匂宮に宇治の八の宮と姉妹のことを話す。で、匂宮は薫が深く心惹かれている様子に、ちょっとやそっとの方々ではないのだろうと、二人に会ってみたくなる・・・。思った通りの展開。

その後、再び山荘を訪れた薫は老いた女房、弁から、自分が柏木の子であることを知らされる。弁はずっと保管していた手紙を薫に渡す。それは顔も知らない父親が母・女三の宮へ宛てた恋文だった・・・。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔 
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋


「竹河」

2022-08-19 | G 源氏物語

「竹河 女房の漏らす、玉鬘の苦難」

 鬚黒一族のその後。鬚黒と玉鬘の間には三人の男子(左近中将、右中弁、藤侍従)と二人の女子(大君、中の君)がいる。「竹河」は鬚黒亡き後、玉鬘が二人の娘の結婚問題に苦慮する話。

ここで復習。玉鬘って? 玉鬘は光君が愛した夕顔(光君と密会中に六条御息所の怨霊に取りつかれて亡くなった)の娘で、父親は光君の義兄(正妻・葵の上の兄)であり、いとこでもある頭中将。光君と頭中将は竹馬の友であり、恋のライバルでもあった。玉鬘の両親は共に光君と密接な関係にあった。

この帖のストーリーは追わない。印象的なのは玉鬘(尚侍(かん)の君)が**「(前略)この侍従の君は不思議なほど亡き大納言(柏木)のご様子によく似ていらして、琴の音などは、あの方が弾いているとしか思えません」**(44頁)と語るところ。侍従とは薫のこと。薫は光君と女三の宮との間に生まれたことになっているけれど、実の父親は柏木。柏木は玉鬘の兄。だから薫は玉鬘の甥っ子ということになる。玉鬘は薫の出生の秘密に気が付いていたのではないか、と思わせる。

*****

「匂宮」と「紅梅」、それからこの「竹河」の三帖は紫式部ではなく、別の人が書いたのではないかとも言われているそうだ。この三帖別人作者説の根拠のひとつとして、あまり出来栄えが良くないことが挙げられることもあるようだ。

紫式部は何年も光君を主人公に、物語を書き続けてきた。その光君の最期を書くに忍びなく、「雲隠」という帖名(巻名)だけ挙げて、本文を書かないという実に巧妙な方法を採った(他説もあるが、私はこのように感じている)。

夫を亡くした紫式部にとってこの長大な物語を書くことは心の支え、生きることそのものだったと思う。その物語の主役である光君を亡くしてしまったことによる喪失感があったと思うし、マラソンに喩えれば「雲隠」でゴールしたという気持ちもあったのではないかとも思う。

更にこの物語を書き進めるのに、気力が相当必要だったと思うし、どのように展開させていこうか、迷ったのではないかとも思う。「竹河」では、冒頭これは源氏一族とは異なる鬚黒一族に仕えていた女房たちが語る物語だと断って、書き始めている。この三帖では物語が前に進んでいかない。紫式部も人の子、迷うこともあっただろう・・・。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔 
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋


「紅梅」

2022-08-15 | G 源氏物語

「紅梅 真木柱の女君のその後」

 柏木(衛門督)の弟・按察大納言(あぜちのだいなごん、紅梅大納言)は妻を亡くして鬚黒の娘・真木柱と再婚している。大納言には先妻との間に二人の娘(大君と中の君)がいる。真木柱も再婚で、亡き蛍兵部卿宮との間に生まれた娘・宮の御方がいる。そう、二人とも子連れ再婚。三人の娘たちは年も近く、大の仲良し。

大納言と真木柱の間にも息子・大夫の君(若宮)が生まれている。登場人物は皆血縁関係がある。帖のはじめに載っている登場人物系図で関係を確認しながら読んだ(*1)。


大納言は大君を東宮に入内させる。そして大君の妹・中の君を匂兵部卿宮(匂宮)と縁づかせたいと思っている。で、大納言はみごとに色づいた梅の花を息子の若宮に持たせて匂宮のところに向かわせたりもする。だが、匂宮にはその気がない。真木柱の連れ子の宮の御方(東の君)に心惹かれているので。

この辺りの事情は次の様に書かれている。**大納言の意向は、宮の御方ではなく、実の娘である中の君を自分に、と思っているようだが・・・、と宮は考え合わせてみるが、自分の心は異なる人 ― 宮の御方に傾いているので、大納言からの手紙にはっきりした返事もしかねている。**(29頁)一方、宮の御方は匂宮の意向を受け入れる気にはなれない。将来は出家しようと固く決めているので。

匂宮が恋多き人であるということを知るに至り、中の宮の母親(北の方)は娘と匂宮の結婚をあきらめ、大納言もあきらめる。

すれ違いの恋は今も大昔も変わらずか。これで終わりではなく、政治的な思惑も読み解かないと・・・。


*1 柏木と按察大納言、この兄弟の母親はあの朧月夜の姉。

1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔 
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋


「匂宮」

2022-08-12 | G 源氏物語



 角田光代訳の『源氏物語』全3巻の下巻を読み始めた。

「匂宮 薫る中将、匂う宮」

**源氏の光君が亡くなったのちは、あの輝く光を継ぐような人は、大勢の子孫の中にもいないのであった。**(7頁) 光君亡き後、一人で主役をはれるような人物はいない、それだけ光君はすごい人だったということを示すという意図が紫式部にあったのかどうか、匂宮と薫という二人を主役として登場させる。匂宮は今の帝と明石の中宮の間の子、薫は女三の宮の子で実父は光君ではなく、柏木。この辺りの設定に紫式部の構想力の冴えが表れていると思う。

この帖は光君亡き後の主役の二人の紹介と二人の周辺の状況説明に大半が割かれている。

薫は自分の出生の秘密を薄々感じていて、**おぼつかな誰に問はましいかにしてはじめも果ても知らぬわが身ぞ(わからない、いったいだれに訊いたらいいのか。どのようにしてこの世に生まれたのかも、この先どうなっていくのかもわからない我が身だ)**(11頁)と詠んだりする。なぜ母は若くして出家してしまったのだろう・・・。**「(前略)何か思いも寄らない間違いがあって、世の中が嫌になるようなことがあったのだろう(後略)」と考える。 

薫は絶えずいい香りがする体質の持ち主。薫に対抗心を燃やす匂宮はあらゆるすぐれた香を薫(た)きしめて、調合している。ふたりは対照的で、匂宮は「陽」でプレイボーイ、若き日の光君を、薫は「陰」で内省的と言えばいいのか、晩年の光君を思わせる。

この先二人の物語はどのように展開していくのだろう・・・。  


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔 
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋                          



「雲隠」

2022-08-08 | G 源氏物語

「雲隠」の帖(巻)には本文がない。このことについて、存在した本文が散逸してしまった、帖名(巻名)が後世に付け加えられた、作者の紫式部が敢えて本文を書かなかったという説があり、研究者の間でも見解が分かれているようだ。

ここにわたしなりの見解を記しておきたい。

紫式部は意図的に本文を書かなったのだと思う。平安の才女は実に巧妙な手法をここで採ったのだ。「雲隠」に本文があるとすれば、光君の出家と死が描かれていることは明らか。紫式部はその様を敢えて描かずに読者の想像にゆだねたのだろう。だとすれば読者であるわたしも光君の最後を思い描かなくてはならないが、まだそれをここに記すに至らない。この長大な物語を読み終えた時、思うことがあれば書きたい。紫式部は何年も描き続けてきた主人公の最期を書くにしのびなかったのではないか、とも思う。この帖に本文が無いのは紫式部の借別の情の故か。否、冷静で強い才女のなせる技であろう・・・。


ようやく中巻読了! 


「幻」

2022-08-08 | G 源氏物語

360

「幻 光君、悲しみに沈む」

■ 味わい深い帖。たいして読解力もないわたしが味わい深い帖などと書くのもいかがなものかと思う。だが、紫の上を失った光君が悲しみに暮れ、来し方を振り返り、内省する様は私にこのような感想を抱かせる。

**この世ははかなくてつらいものだということを教えるべく、仏などがお決めになった身の上なのだろう。それをあえて知らぬふりで生き長らえて、こうして今もう先の見えてきた晩年に、手ひどい結末を見せられたのだから、私の宿世(すくせ)のほども、自分の心の限界も、すっかり見届けることができて気も楽になった。(後略)**(598頁) 光君は達観の境地。

**植ゑて見し花のあるじもなき宿に知らずがほてに来ゐる鶯**(600頁)

**大空をかよふ幻夢だに見えこぬ魂の行方たづねよ(雁のように大空を行き交う幻術士(まぼろし)よ、夢にさえあらわれない亡き人のたましいの行方をさがしてくれないか)**(611頁)

一周忌が過ぎ、光君は手紙の数々を破り捨てさせ、紫の上の手紙もみな焼かせてしまう。

光君は幼い時に母親・桐壺更衣を亡くした。そして母親によく似た継母・藤壺を思慕する。紫の上は藤壺の姪だから、やはり藤壺、そして実母に似ていたのだろう。既に書いたが、光君はずっと母親探しを続けていたのだ。だから紫の上を亡くした時、光君は母親を亡くして感じる喪失感に暮れたのだろう・・・。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔 
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋 


「御法」

2022-08-04 | G 源氏物語

「御法(みのり) 霧の消えるように」

 物語も進み、とうとう霧が消えていくように紫の上が息を引き取る。

紫の上は大病(「若菜 下」)の後、日々衰弱していく・・・。出家だけが最後の望みだが、光君は許そうとしない。紫の上はせめて長いあいだ書かせてきた法華経の供養しようと思い、私邸の二条院で法会を営んだ。三月、花が盛りで空模様もうららかな、極楽浄土を思わせるような日だった。光君や夕霧はじめ、帝や東宮、后の宮、六条院の方々が志を寄せた。花散里の御方、明石の御方なども二条院に出向いた。法会は盛大に行われた。

源氏物語にはおよそ800首(795首)もの和歌が詠みこまれているとのことだが、この帖でも何首か別れの歌が詠まれる。

**絶えぬべき御法ながらぞ頼まるる世々にとむすぶ中の契りを(もうすぐ絶えるだろう我が身がこの世で営む最後の御法になるでしょうけれど、頼もしいことに、あなたと結んだご縁は、ずっと先の世まで続いていくでしょう)**(580,581頁) 紫の上がこの和歌を花散里の御方に詠むと
**結びおく契りは絶えじおほかたの残りすくなき御法なりとも**(581頁)と返す。

紫の上は三の宮(匂宮)を前にい座らせて**「私がいなくなりましたら、思い出してくださいますか」と訊いている。**(583頁)三の宮は明石の中宮の子、明石の御方の孫だが、紫の上は実の孫のようにかわいがっている。

紫の上の問いに三の宮は**「とても悲しくなります。ぼくは父帝よりも、母宮よりも、おばあさまがいちばん好きなのだから、もしいらっしゃらなくなったら、きっと機嫌が悪くなります」と、目をこすって涙をごまかしているのがかわいらしく、紫の上はほほえみながらも涙を落とす。**(583頁)と答える。続いて紫の上は三の宮に**「大人になられたら、この二条院にお住まいになって、この対の前にある紅梅と桜とを、花の咲く折々に忘れずにお楽しみくださいね。ときどきは仏にもお供えくださいませ」**(583頁)と言う。こんな場面を読むと悲しくなって、うるっとしてしまう。

季節は春から秋に移っている。**秋風にしばしとまらぬ露の世をたれか草葉のうへとのみ見む(しばらくのあいだもとどまることなく秋風に吹かれて消える露のようなこの世の命を、だれが草葉の上だけのことと思いましょう、私たちみな同じことです)**(585頁)と中宮。その夜、紫の上は中宮に手をとられ、息を引き取った。実子のいない紫の上には明石の中宮が我が子のような存在。

その後、光君は悲しみに暮れる日々を過ごす。出家を望むも容易にはできない。

一夫多妻な平安貴族社会で、紫の上は思い悩む日も少なくなかったと思う。それに最期まで出家の願いも叶わなかった・・・。紫の上は死期が近いことを自覚して、この世との別れをきちんとして亡くなった。この様に私は感動すら覚えた。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔 
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋                                                  
 


「夕霧」

2022-08-01 | G 源氏物語

「夕霧 恋に馴れない男の、強引な策」

 まず復習。夕霧は光君の息子、落葉の宮は夕霧の親友・柏木の奥さん。夕霧には幼馴染で従兄妹の雲居雁という奥さん(正妻)がいる。

**世間には堅物として知られ、しっかり者のように振る舞っている大将(夕霧)ではあるが、この一条宮(落葉の宮)を、やはり理想的な人だと心に留め置き、世間の手前、亡き親友の遺言を忘れていないからこそだと見せかけて、じつに熱心にお見舞いの訪問を続けている。しかし内心ではこのままですむはずがなく、月日がたつにつれて、思いは募るばかりである。**(513頁) ** このような書き出しで始まる「夕霧」は少し長い帖で60ページある。

この帖では結婚に懲りているので(理由はそればかりではないと思うが)夕霧の熱心な求愛に応えようとしない落葉の宮と夕霧の内面が描かれる。

落葉の宮は病気が重くなった母親の一条御息所とともに比叡山の麓、小野の山荘に移る。一条御息所はそこで律師の加持を受けている。大将(夕霧、以下夕霧と記す)はいろいろ必要なものを贈り、援助を惜しまない。八月半ば、夕霧は見舞いに出かける。

山荘は仮の住まいで狭く、宮の様子が大将に伝わてくる。夕霧も女房たちとあれこれ話しをする。**(前略)これほど年を重ねず、まだ身分も気楽な時に、もっと色恋の経験を積んでおけば、こんなにぎくしゃくしなくてすんだろうに。(後略)**(516頁)などと。

**山里のあわれを添ふる夕霧に立ち出でむそらもなきここちして**(517頁) 霧が軒先まで立ちこめてきた時にこう詠んで、帰る気持ちになれずにいることを宮に伝える夕霧に、**山賤(やまがつ)の籬(まがき)をこめて立つ霧も心そらなる人はとどめず(心が浮ついているお方を引き留めはいたしません)**(518頁)ときっぱり返す宮。夕霧のことがよほど嫌いなんだろう。

その昔、光君が朧月夜に強引に迫ったとき、彼女はもちろん驚いたけれど、「光君なら、ま、いっか」と簡単に許してしまった。ずいぶん違うものだ。

その夜、夕霧は落葉の宮と契ることなく、翌朝早く露に濡れながら帰って行った。その様子を目にした律師から聞いた御息所(宮の母親)はふたりが関係(=結婚)したと思い込む。そこへ夕霧の手紙が届く。御息所は結婚二日目なのに出かけて来ない夕霧に、病をおして**女郎花しをるる野辺をいづことて一夜ばかりの宿を借りけむ**(532頁)と書き送る。ところが・・・、夕霧はその手紙を雲居雁に奪われてしまう。ああ、なんという展開、今なら奥さんにケータイを奪われて届いていたメールを読まれてしまった、といったところだろう。

夕霧が手紙を見つけて読むことができたのは翌日になってから。手紙から御息所の誤解、悲しみを知った夕霧は、すぐさま出かけようとするが日が悪いから改めて出かけようと、とりあえず手紙だけ送った。

手紙が届いたことを耳にした御息所は、**手紙が来たということは今夜のご訪問もないのか、と思う。「なんて情けない。世間の笑いぐさとして語り継がれることだろう。(後略)**(540頁)と嘆き、そのまま息絶えてしまう。宮もすべてが終わってしまったような様。

日が過ぎて夕霧が出向く。女房たちが、**「どのようにおっしゃっていますと大将にお伝えすればよいでしょうか」**(542頁)と問われても落葉の宮は**「あなたたちでいいように返事をなさい。私は何を言えばいいのかわかりませんから」**(542頁)と答えるのみ。その後も母君の後に続きたいのに、それも叶わないと嘆き悲しむばかり・・・。このような、事の成り行きにに光君は心を痛め、紫の上も宮のことから、先のことに思いをめぐらせる。この時ふたりは、特に光君は自身の人生をどう振り返っただろう。

四十九の法要は夕霧がすべてを取り仕切って営ませた。落葉の宮は出家を願ったが、朱雀院(父親)に反対されてしまう。で、結局夕霧の待つ一条邸に移される。宮は絶対に移りたくないと思っていたのに・・・。で、落葉の宮の抵抗も続かず夕霧と結ばれる。

こうなれば、雲居雁が嫉妬することになる。

**「(前略)どうぞもう私のことなど忘れてくださいな。無駄に長い年月を連れ沿ったのもくやしいだけです」**(563頁)雲居雁は子どもを連れて実家に帰ってしまう。夕霧が迎えに行っても帰ろうとしない。この騒動、現代にもいくらでもありそうだ。

どの時代にも通ずる恋愛の諸相が描かれているからこそ、連綿と読み継がれてきているのだろう(などと真面目に)。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔 
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋               






「鈴虫」

2022-07-25 | G 源氏物語

「鈴虫 冷泉院と暮らす秋好中宮の本意」

 夏、蓮の花の盛りに女三の宮の持仏(*1)の開眼供養が行われることになった。光君(ひかるくんと今風に読んでしまいそうだが、ひかるきみ)の厚意で仏具が用意された。紫式部は飾りつけの様子も詳細に描いているが、ここでは省略する。女三の宮が手元に置く持経は光君が書いた。

当日、供養は盛大に行われた。せめて来世では同じ蓮の上で女三の宮と一緒に暮らせるように、と光君は願い、歌に詠む。女三の宮は**隔てなくはちすの宿を契りても君が心やすまじとすらむ(来世は同じ蓮の台、とお約束しても、あなたのお心は澄むことなく、私と住もうとはしないでしょう)**(499頁)と返す。この返歌から女三の宮の心情が分かる。

内輪で執り行う予定の法要だったが、帝も朱雀院も耳にして使者を遣わす。

朱雀院は娘・女三の宮を三条の宮邸で暮らさせたいと願う。だが、光君は今になって、いたわしく思うようになり、六条院から手放さない。光君は三条の宮を改築し、蔵も建てて女三の宮の財産をすべて保管する。女三の宮は柏木との一件の後、光君の気持ちがすっかり変わってしまったことが分かり、離れて暮らしたいと願い出家したのに叶わない・・・。

**光君は、この野原のようにしつらえた庭前に秋の虫をたくさん放たせて、風が少し涼しくなった夕暮れどき、こちらにやってきて、虫の声を聞いているふりをしながら、今でもまだあきらめきれない心の内を打ち明けて尼宮を悩ませるので(後略)**(501頁) 尼になった女三の宮に恋慕の情を訴えるとは、なんとも未練がましい。でもこれが光君の性分。男はみんなそうかもしれない(などと個人的な見解を一般化してはいけない)。

八月十五夜の夕暮れ、女三の宮の部屋にやってきた光君は鈴虫の声に合わせて琴を久しぶりに弾き始める。宮も琴の音色に耳を傾けている。そこへ兵部卿宮(蛍宮)や夕霧が訪ねてくる。で、優雅な管絃の遊びをして、柏木を偲ぶ・・・。そして夜明けまで漢詩をつくり和歌を詠んで過ごす。しみじみとした催しは月を愛でながら夜通し行われることが多いようだ、なんと風雅な。

明け方お開きとなり、光君はそのまま秋好中宮の部屋に向かう。光君は中宮といろいろと話をする。中宮は母・六条御息所が成仏できずに、人に疎まれるような物の怪となって名乗り出たということを耳にしてひどく悲しんでいると話し、**「(前略)せめて私だけでも母の身を焼く業火の熱をさましてあげたいものだと、年齢を重ねるにつれて、おのずと身に染みて思うようになりました」**(507頁)と口にする。出家して母親を救いたい・・・、それが中宮の願い。このことに光君は反対して追善供養するように勧める。

光君と秋好中宮、このふたりについて紫式部は**この世はすべてはかないものだから、早く捨ててしまいたいとお互いに言い合うけれど、やはりすぐにはそうもできない身の上の二人なのである。**(508頁)と書く。

紫式部は人を、光君を、苦悩から解き放とうとはしない・・・。


*1 お守りとして身近に置く仏像(497頁)


 1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔 
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋 


「横笛」

2022-07-18 | G 源氏物語

「横笛 親友の夢にあらわれた柏木の遺言」

 柏木の一周忌の法要が営まれた。その後こと、夕霧は柏木の妻の落葉の宮とその母・御息所を一条宮邸に見舞った。静かに琴を奏する宮邸は夕霧の邸とは大違い。御息所は柏木が大切にしていた横笛を夕霧に送る。夜遅くに夕霧が邸に帰ってみるとみな眠っている。雲居雁(夕霧の妻)も起きて来ない。

**「大将の君はあの女宮にご執心で、それであんなに親切になさっているのですよ」と北の方(雲居雁)に女房たちが告げ口したので、こうして夜更けまで大将が出かけているのもなんだか憎らしく、帰ってきたもの音を聞いたものの、眠ったふりをしているらしく・・・。**(488頁)と事情が説明されている。ここで大将とは夕霧のこと、女宮とは落葉の宮のこと。読んでいて時々、あれこの人誰だっけとなるので念のため。

その夜、夕霧の夢に柏木が出てくる。**笛竹に吹き寄る風のことならば末の世長きねに伝へなむ**と柏木が読む。(489頁)**(前略)願わくば末永く私の子孫に伝えてほしい。**と訳されている。それは誰かと問おうとすると、赤ん坊がひどく泣き出したので目が覚めてしまう。夕霧は横笛をどうしたものかと思いあぐねて、六条院に光君(父親)を訪ねる。そこで薫を見た夕霧は目元や口元が柏木に似ていると思う。

夕霧から夢の話を聞いた光君は、横笛は自分が預かるべきものだと答える。夕霧は柏木の遺言を伝え、真相を聞き出そうとする。光君は、夕霧はやはり気が付いているのだなと思う。だが、心当たりがない、ととぼけて答えようとしなかった・・・。

この帖では横笛が血脈を象徴するものとして扱われている。これは紫式部の冴えたアイデアだと思う。このことだけ書いておけば良いかな・・・。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔 
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋                


「柏木」

2022-07-16 | G 源氏物語


撮影日2022.07.15 朝5時ころ

「柏木 秘密を背負った男子の誕生」

 『源氏物語』の「若菜  上、下」を読み終えて、しばらく間が空いたが昨日(15日)次の帖の「柏木」を読んだ。この帖のトーンは上掲写真のように暗い。

柏木(督の君)は、光君(六条の院)に女三の宮(光君の妻)との密通が知られてしまい、ずっと病に伏せたままだ。冒頭の文章を読むと、柏木がうつ状態だということが分かる。自分が死んでしまえば、光君も大目に見てくれるだろう・・・、と思う。

柏木は病床から女三の宮に最後の手紙を送る。**今これまでと私を葬る炎も燃えくすぶって、いつまでもあきらめきれない恋の火だけがこの世に残り続けるでしょう**(444頁)という意味の歌に思いを託して。

光君の機嫌が悪いことなどがやり切れず、女三の宮はなかなか返事を書こうとしなかったが、小侍従に催促されてようやく返事を書く。**立ち添ひて消えやしなまし憂きことを思ひ乱るる煙くらべに**(447頁) 私も一緒に煙となって消えてしまいたい思いです。空に立ち昇る煙(恋心)はどちらが強いか比べるためにも。柏木はこの返歌がとてもうれしくて(そうだろうなぁ、分かる)、この歌だけがこの世の思い出なんだろうな、と思う。

女三の宮が男の子を出産する。薫。ここで無知をさらける。僕は薫は光君の子どもだと思っていた。物語でもこのような扱いだが、光君は実の父親ではないということはずっと知らなかった・・・。当然と言えば当然だが、光君は生まれてきた子(柏木によく似ている)を心から慈しむ風でもいない。

この先のことを憂い、女三の宮は出家を願うようになる。姫宮は食欲もなく、次第にやつれていく・・・。あの六条御息所の死霊の仕業だということが分かる。またしても六条御息所。物語における六条御息所の役目、作者の意図を考えなくては・・・。

娘のことを案じた朱雀院は出家の身だが夜の闇をついて山をおりてくる。で、光君を反対を押し切って娘を出家させる。朱雀院は**これ以上ないほど安心だと思って姫宮を預け、光君もそれを承諾したのに、それほど愛情も深くはなく、期待していたようではない様子だということを、この何年も何かにつけて噂に聞いて心を痛めていた。**(454頁)のだった。

柏木は女三の宮の出産と出家を知り衰弱、生きる力を失う。見舞い来た夕霧に柏木は次のようなことを言い遺す(ふたりは幼馴染でずっと仲良くしてきている)。光君(夕霧の父親)との間に思わぬ行き違いがあったが、自分が死んだ後でも許してもらえるのなら嬉しいということを伝えて欲しい、それから残される妻の落葉の宮(女二の宮、女三の宮の姉)のことが心配だから後をよろしく頼む、と。柏木は泡が消えてしまように息を引き取る。

夕霧は遺言に従い、落葉の宮とその母の一条御息所を弔問する。御息所と対面した夕霧が述べるお悔やみの言葉、**「このたびのご不幸を嘆く私の気持ちは、(中略)督の君にもどんなに深く心残りがあっただろうと察しますと、悲しみが尽きません」**(467,8頁)には感心した。こんな挨拶ができるなんてやはり夕霧は優秀だ。

世間は柏木の死を深く悲しんだ。光君の思いは複雑だ。**女三の宮の生んだ若君を、自分の心の内だけでは、督の君の形見と思っているけれども、ほかの人は思いも寄らないことなので、まったく甲斐のないことである。**(475頁)

秋つ方になれば、この君は、ゐざりなど。**秋の頃になると、この若君ははいはいなどをするようになり・・・。**(475頁) この帖はこのように結ばれている。

華やかな平安貴族の暮らしぶりが描かれていた頃とは違い、人の内面、抱える悩みなどが描かれる。言うまでもなく『源氏物語』は浮ついた恋愛小説などとは全く違う。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔 
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋  



「若菜 下」

2022-07-06 | G 源氏物語

「若菜 下 すれ違う思い」

 「若菜 下」を読み終えた。『源氏物語の女君たち』瀬戸内寂聴(NHK出版2008年)によると、『源氏物語』54帖を三部に分け、第一部を「桐壺」から「藤裏葉」までの33帖、第二部を「若菜」から「幻」までの8帖、第三部を「匂宮」から「夢浮橋」までの13帖とするのが一般的だという。

なるほど『源氏物語解剖図鑑』佐藤晃子(エクスナレッジ2021年発行、2022年3刷)も同じ分け方で第一部「若かりし光源氏」第二部「老いを迎える光源氏」第三部「光源氏の子孫たち」という見出しがつけられている。

「若菜」がこの長大な物語の大きな峠ではないのか、と思っていた。上掲本などから既にインプットされていたので。「若菜」は、物語のトーンが変わってきていると感じた。「若菜」は読み応えがあった。ボリュームがあって読むのに時間がかかったし、読了後の充実感もあった。

この帖では紫の上の発病と柏木の密通という大きな出来事が描かれる。

朱雀院は娘・女三の宮の後見として光君を選ぶ。光君は一旦は辞退するも、結局承諾する。朱雀院は光君の異母兄、だから女三の宮は光君の姪ということになる。登場人物の関係を確認しないと基本的なことも見落とす。

冷泉帝が即位してから既に18年。時が流れた。冷泉帝が退位し、東宮が即位する。女三の宮を大切にする光君。紫の上は出家を願うが、光君に許してもらえない。心の安寧は出家によってしか得られないのだろうか・・・、皆出家を願うようになる。

朱雀院の御賀(五十歳の祝い)を前に光君は女三の宮に琴(きん)の稽古を熱心につけている。**「紫の上がいつも聴きたがっているあなたの琴の音に、ぜひともあの方々の筝(そう)や琵琶の音を合わせて女楽を試してみましょう。(後略)」**(337頁)ということで、練習の成果をためす女楽が行われる。貴族の優雅な催し。

その夜、光君と紫の上は来し方をふり返る。光君、六条御息所については次のように語る**ずば抜けてたしなみ深く優雅な人のお手本として、まず思い浮かぶが、どうもつきあいにくく、逢うのはつらかった。私を恨むのも当然で、じつにもっともなことだとは思うが、(中略)中宮を私のほうでもお引き立てして、世間の批判や人の恨みも気にせずに力添えしているのを、あの方もあの世から見直してくださっているはず。(後略)**(392頁)

その直後、紫の上は病に倒れる。

さて、柏木。女三の宮の姉である女二の宮を妻とした柏木(督の君)だが、**どうしても胸に秘めた姫宮への恋心を忘れることができない。(中略)まだ姫宮が幼い頃から、たいそううつくしくて気品があることや、帝にそれはたいせつに育てられていることなどを聞いていたので、このような恋心を抱くようになったのだった。**(397頁)

現代語訳した角田さんは、上掲文の「うつくしくて」や、「たいせつ」など私がこれは漢字でしょうと思うことばをひらがな表記をすることが少なくない。

柏木があろうことか女三の宮と強引に関係を結ぶという事件を起こす。そう、事件。柏木は小侍従を説得して手引きさせ、女三の宮の部屋に忍び込む。そこで長々と口説く。で、強引に関係を結んでしまう。その後続く密会、やがて女三の宮は子を宿す。

光君は女三の宮が具合が悪いと聞いて見舞いに行き、そこで手紙を見つける。この帖のクライマックスだ。**少し乱れた敷物の端から、浅緑色の薄様の紙に書かれた手紙の、丸めた先が見える。光君は何気なくそれを引き出して見てみると、男の筆跡である。(後略)**(419頁)筆跡から恋文は柏木が書いたものと分かってしまう。

光君と藤壺、柏木と女三の宮。継母と密通した光君、奥さんに密通された光君。因果応報。

光君は思う。**「亡くなった桐壺院も、こうしてお心では何もかもご存じでいながら、知らん顔をしてくださっていたのだろうか、思えばあのことは真実おそろしく、あってはならぬあやまちだった」**(422頁)私は桐壺院は分かっていたと思う。光君は父親の桐壺院とは違い、六条院で催された宴席で柏木に強烈な皮肉を浴びせる。秘密を知られたことが分かった柏木は心痛に体調が悪化、実家で伏す。

紫式部は**昔物語などでも、引き出物の詳細をさもたいそうなことのようにいちいち数え上げているようですが、もうとても面倒で、こうした身分の方々の仰々しいおつきあいについては、数え上げればきりもないので・・・。**(「若菜 上」322頁)として描写を省略することがある。私も彼女に倣って、このあたりで切り上げる。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔 
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋  


「若菜 上」

2022-07-04 | G 源氏物語

「若菜 上 女三宮の降嫁、入道の遺言」

 『源氏物語』はここまで各帖(巻)すべて短く、2,30ページ位だった。だが「若菜 上」と「若菜  下」の2帖で約140ページある。「若菜」はこの長編の大きな峠のような気がする。峠を越えると今までとは違う風景が広がっているのではないか、そんな予感がする。

源氏物語の登場人物の多くに血縁的な繋がりがある。各帖のはじめに登場人物系図が載っている。いままでの帖では1ページに収まっていたが、「若菜 上」と「若菜  下」は見開き2ページ。

**朱雀院(光君の異母兄)は、先頃の行幸(みゆき)の後から、ずっと体調がすぐれないままである。**(272頁)「若菜 上」はこんな書き出しで始まる。出家を思い立った朱雀院には東宮の他に娘が3人いて、心配なのは女三の宮のこと。あれこれ思いをめぐらせる。光君の浮気心を心配するものの、**「本当に少しでも世間並みの暮らしをさせたいと思う娘がいるなら、どうせなら光君のような人と縁づかせたいものだ。(後略)」**(278頁)など考えて、後見に選ぶ。光君は一旦は辞退するが結局引き受けることに。

光君は40歳になる。いつまでも若いと思っていたのに、今やすっかりおじさん。

2月に女三の宮は降嫁、六条院に移ることになる。ずっと安泰だと思っていた紫の上は、落ち着いてはいられないし、居心地悪く思ってしまうが、平静を装っている。女三の宮に対する紫の上のコメント(ここに引用はしないけれど)を聞いた女房たちは**「お心が広すぎますよ」**と言っている。確かに寛大な女性だと思う。

**どうしてこの姫宮をこんなにもおっとりとお育てになったのだろう。とはいえ、たいそうご熱心にお育てになった皇女と聞いていたのに・・・(後略)**(306頁)と光君は女三の宮の幼稚さに落胆する。で、改めて紫の上の人となりをすばらしく思う。光君、紫の上の魅力再認識。

光君と朧月夜との関係は長年続いた、ということは前々から予備知識としてあった。この帖でその朧月夜が再び登場する。ここで復習。八帖「花宴」、当時光君は20歳。花見の宴が催された日、暗闇の中で朧月夜を抱き上げて部屋の中へ。彼女と一夜をともにする。その声から相手が光君だと分かった朧月夜は「光くん(ここは光君(ひかるきみ)ではなく、今風に光くんとしておこう)だったら、ま、いっか」と思ったのだろう。

光君は40歳にもなるが朧月夜との恋を再燃させる、朧月夜のことを軽々しい女と侮ってもいたのだが・・・。紫の上はふたりの関係を薄々感づいている。**「ずいぶん若返ったお振る舞いですね。昔の恋を今蒸し返されましても、どっちつかずの寄る辺ない私にはつらいだけです」**(314頁)と、光君に打ち明けられた紫の上は応える。

中年おじさんの光君は女子高生くらいの歳の女三の宮と結婚した。で、紫の上と姫宮は母娘ほど歳が離れているが仲良くつきあっている。やはり紫の上は人としてできている。

光君40歳。当時40歳といえば長寿の祝が催される年齢。で、いろんな祝いの催しが行われる。

翌年、明石の女御が東宮の子(男の子)を出産する。孫の女御が東宮に入内して男宮を出産したことを知った明石の入道、長年の念願が叶って人里離れた山奥に身を移す。この時代の人たちに晩年には俗世を断ち切りたいという願いがあったのだろう・・・。

長い帖のどこを切り取るか・・・。やはり柏木が女三の宮にずっと恋心を抱き続けていたことだろう。**衛門督(えもんのかみ)の君(柏木)も、かつて朱雀院につねに出入りし、ずっと親しく仕えていた人なので、この姫君を父朱雀院が帝の時からどんなにたいせつに育てていたか、その心づもりもよくよく見知っていて、だれ彼と縁談のさだめのあった頃から求婚の意を示していた。(中略)六条院に降嫁などと思惑外れのこととなったのは、まったく残念で胸も痛み、未だにあきらめきれないでいる。**(345頁)で、光君が出家したらその時は・・・、などと機会をうかがっているというのだから相当な恋心。

3月、六条院で蹴鞠が行われた時のこと。柏木もその場にいた。彼は猫が長い綱が何かに引っかかって、御簾の端がめくれたところを目にし、中にいた姫宮(女三の宮)の姿を見てしまう。**着物の裾が長く余るほど本人はほっそりと小柄で、姿かたち、髪のふりかかる横顔は、なんともいえず気品に満ちて、可憐である。**(348頁)

督の君(柏木)は**姫君のどんな欠点も思いつくこともなく、思いがけない隙間から、ほんのわずかにせよその姿をこの目で見られたのは、私が昔から寄せていた思いも成就する前兆でではないかと、こうした縁もうれしく思い、ますます慕わしく思う。**(350頁)

彼はとうとう姫君に恋文を書く・・・。あらら、知~らない。平安貴族の社会規範は今とはまったく違うんだろうな~。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔 
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋