「総角(あげまき) それぞれの思惑」
■ 全54帖から成る長編『源氏物語』。作者別人説もあるという匂宮三帖(第42帖~第44帖)は出来栄えが良くないと評されてもいる。このことに関して、作者・紫式部が主人公・光源氏を失って物語をどう展開していこうか、試行錯誤したことに因るのではないかという見解も示されている。その迷いが吹っ切れて物語の方向を定めて書かれたであろう最後の宇治十帖(第45帖~第54帖)は登場人物の内面もきっちり描かれている。また、登場人物が少ないことから、読みやすい。現代語訳した角田光代さんの文章にもなんとなく勢いを感じる。
さて、宇治十帖の第47帖「総角」。
八の宮の一周忌。**あげまきに長き契りをむすびこめおなじ所によりもあはなむ**(148頁)薫(中納言)は八の宮の長女(大君)に思いをこの歌に託す。私たちもいつまでも寄り添っていたいものです、と。しかし姉は父親が遺した安易に世間並みの結婚などしないようにという言葉を守って生涯独身貫く覚悟。だが、妹(中の君)の面倒はみてやらなければ・・・、妹を薫に縁づかせようと考えている。
一周忌が明けて、薫は老女房の弁の案内でこっそり姉妹の部屋に入り込む。その時、眠っていなかった姉は起き出してすばやく身を隠す。妹は無心に眠ったままでいる。ひとりで寝ているのが思いを寄せる姉ではなく妹だと気が付いた薫はやはり軽い気持ちだったのかと姉に思われたくないと考えて、気持ちを静めて妹と話をして夜を明かす。むなしい夜明け・・・。若かりし頃の光君だったらこのようにはしなかっただろう。
**おなじ枝(え)をわきて染めける山姫にいづれか深き色と問はばや(同じ枝を、それぞれ分けて染めた山の女神に、どちらが深い色かと尋ねたいものです ― 私はお二人のうちどちらに心を寄せたらいいのでしょう)**(169頁)と薫。
**山姫の染むる心はわかねどもうつろふかたや深きならむ**(170頁) 大君の返歌。
なるほど、上手いなあ。源氏物語には約800首(795首だが、このような数字をざっくりと押さえる「くせ」が僕にはある)の和歌が収められている。もちろん紫式部の作、平安の才女は和歌にも長けていた。
匂宮が妹(中の君)と結婚すれば自分は姉(大君)と結婚できるかも、と考えた薫は匂宮を宇治に誘う。妹と結ばれた匂宮だが、なかなか宇治に通うことができないでいる。匂宮の薄情な態度に失望した姉は妹を不幸にしてしまったと思い悩み、病床についてしまう。
その後、妹から父宮が夢に出たけれど、とてもふさぎこんだ様子だったと聞かされた姉はさらに病状が悪化、薫に看取られて亡くなってしまう。宇治で喪に服す薫。
大君は死んでしまうのか・・・、この展開には驚いた。匂宮は中の君を二条院に引き取る決心をする。
1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋