透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「残月」 高田 郁

2017-03-17 | A 読書日記

みをつくし料理帖シリーズ全10巻 高田 郁/ハルキ文庫
「八朔の雪」
「花散らしの雨」
「想い雲」
「今朝の春」
「小夜しぐれ」
「心星ひとつ」
「夏天の虹」
「残月」
「美雪晴れ」
「天の梯」



■ 全10巻の第8巻目『残月』を読み終えた。

この巻では登龍楼の店主が澪を引き抜こうとしたり、澪と同じ裏店で暮らしていたおりょうさん家族が引っ越していったり、お芳さんの息子の居所が分かって再会の見通しがついたり・・・。

で、この巻のハイライトはなんといっても澪と野江が直接逢う場面。いままでこのふたりは間接的に会っただけだった。私はお芳さんのことも気になるけれど、ふたりの行く末が一番気になるので。

吉原の大火の際、翁屋の料理人でつる屋の手伝いもしていた又次に助けられたあさひ太夫(野江)は翁屋の仮宅近くの寮に住んでいる。

大火以来、まるで覇気がないあさひ太夫のことを心配した楼主が**「太夫は上方の出。大坂で生まれ育った料理人のお前さんと話せば気も晴れようか、と思いましてね」**(205頁)と考えたのだった。このことを楼主に勧めたのは医者の源斎。楼主も野江と澪との間の深い事情を察している。

**「元飯田町つる屋の、料理人でございます」
返答はなく、ただ衣擦れの音が聞こえて、澪は顔を上げた。そのひとが身体ごと澪に向き直って、じっとこちらを見つめている。(中略)
「翁屋のあさひだす。今日は遠いところをお呼び立てしました」**(209頁)

あくまであさひ太夫として、料理人として逢うふたり。

**「私には、大事な幼馴染みが居るんだす。十四年前、大坂の洪水でともに天涯孤独の身ぃになった、大事な大事な幼馴染みが」**(213頁)

**「今は廓の籠の鳥。けれど、何時か、遊女の衣を脱ぎ捨てて、その幼馴染みだけが知っている、高麗橋淡路屋の末娘、野江の姿で逢うことを、生きる縁(よすが)としています」**(213頁)

本人を前にしてこう語るあさひ太夫。なんともせつない場面。

「野江ちゃん」、「澪ちゃん」と呼び合う日が来るんだろうか、来るとしたらそれはどのように・・・。


巻末に付録としてついている「みをつくし瓦版」、『心星ひとつ』の瓦版で作者は書き始める前に設計図を決めていることを明かし、何巻でどんな出来事が起こるか、大枠は最初に決めている、と書いている。10巻にも及ぶストーリーの大枠を決め、最終話のタイトルも場面も決まっているという。これほどのストーリーを構想する高田さんはすごい。